Text/Eiko Oizumi
Photo/IGF
2021年に行なわれた「東京五輪」では、銅メダルをかけてのプレーオフに進出しながら、獲得できずに終わった松山英樹。大会前の記者会見では「自分の国でやった五輪で、プレーオフで負けてしまった悔しさは今でも覚えているが、この場所に戻って来れてすごく嬉しいし、3年前以上の結果を必ず出せるように頑張りたい」と語っていた。
そしてその言葉通りに、松山は初日から首位に立ち、好発進。2日目を終えた時点でも、「東京五輪」の金メダリスト、ザンダー・シャウフェレと首位タイに並んでいた。3日目はスコアを伸ばせずパープレーに終わり、4位タイに後退したが、最終日は6バーディ、ノーボギーの65で回り、メダル圏内でホールアウト。後続組でプレーしていたトミー・フリートウッドの結果次第は、銀メダルの可能性もあったが、フリートウッドが松山に1打上回る18アンダーでホールアウトした時点で、フリートウッドの銀メダル、松山の銅メダルが確定した。 「正直な気持ち、金メダルを獲りたかったと言うのはすごく強いですし、17番が終わるまではまだチャンスがあったと思うんで、残念と言えば残念ですが、この銅メダルを獲るために東京では苦労しましたし、獲れなかったということで、この銅メダルはもう、すごい嬉しいです」と心情を吐露した。
東京では無観客だったが、今回のパリでは1日3万人超の大ギャラリーが入り、熱気ムンムン。「東京では寂しい思いもしたが、今回のギャラリーの熱気を見ると、ゴルフも(五輪競技として)認められてきているのかな、という雰囲気を感じたので、すごく楽しかった」とメジャーとは違う五輪ならではの雰囲気も味わえたようだった。そして、「マスターズ」優勝に続いて、五輪でもメダルを獲得したことで日本のゴルフ史に新たな歴史を刻んだが、「これをきっかけにゴルフを始めてくれる子がいたら嬉しい」と語った。
今回のメダル獲得で、日本男子ゴルフ初の快挙を達成した松山。アジア人では台湾のCTパン(東京五輪・銅メダル)に次ぐ、2人目となった。
今回、五輪に出場するにあたり、松山は通常の試合とは違う心構えや準備を行なっていた。黒宮幹仁コーチは大会後に、次のように語った。
「毎試合、毎試合、全力でキャディの早藤とトレーナーも含めてみんなで準備をして臨んでいるが、今回は今までにないくらい準備に時間を費やして、試合でもすごく珍しく結果にこだわった打ち方をしていた。スイングが悪いから結果も悪い、ということではなく、スイングが悪くても成績を出して、3位以内に入らないと意味がないので、結果を出すことに特化した4日間をやっていた」と言うのだ。通常、松山は理想のスイング作りにこだわり、結果が良くてもスイングが思い通りにいかないと満足しないタイプである。ティーショットで打った直後に手を離し、ミスショットかと思いきや、フェアウェイの絶好の位置にボールをキープ、というシーンをよく見かけるが、これなどは、山下美夢有は「彼の自己期待の高さと、プロフェッショナリズムを表している」と表現する。結果オーライでは気が済まない彼が、「メダルを獲りにいくつもりでしか準備していないから、メダルを獲れなければ意味がない、という気持ちでやっていた(黒宮コーチ)」というのだ。
その結果、松山はスイングに不満があったとしても、なんとか枠の中に収めてスコアを出すゴルフに集中していた。3日目、スコアを伸ばせずホールアウトした後は、「どこを修正していいのかもわからなくなった」と黒宮コーチにこぼしたそうだが、「試合を見ていて、ボールのポジションが左に寄りすぎていたんじゃないか、と思ったので、そこを修正したら、ショットがしっくり来た、ということだった。パット練習も、(グリーンキーパーが)カップを切り直して、芝刈りが始まっていたけど、ちょっと打たせてくれ、と頼んで、なんとか整理してって感じだったんですよ」と言う。
また、五輪直前まで「ジェネシス・スコティッシュオープン」と「全英オープン」に出場し、硬い地面から打っていたこともあり、クラブが上から入るクセがついていたというが、ル・ゴルフナショナルは地面が柔らかいため、刺さりすぎないように調整したと語った。
「スイングがちょっと悪い方にいっていたが、狙ってメダルを獲れたということで、彼も自信になったと思う。今日の彼のゴルフは、100点じゃないですかね」スイングの良し悪しは二の次で、結果にこだわるプレーで結果を残すことができた松山は、今回、新たな新境地を開いたと言ってもいいだろう。今後のメジャーでの戦い方の幅も、広がったのではないだろうか。