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ブライソン・デシャンボーが「全米オープン」で
2勝目。2年前に亡くなった父と、
ペイン・スチュワートに捧げた勝利

Text/Eiko Oizumi
Photo/USGA

「全米オープン」2勝目を飾ったブライソン・デシャンボー。

 今年の「全米オープン」は、米国ノースカロライナ州のパインハース・リゾートで行なわれ、現在LIVゴルフに参戦中のブライソン・デシャンボーが、ローリー・マキロイを1打差で振り切り、2020年大会に続き2度目の「全米オープン」チャンピオンとなった。これにより、430万ドルの優勝賞金(約6億7000万円)とジャック・ニクラスメダル、10年間の「全米オープン」出場権、その他のメジャー(「マスターズ」「全米プロ」「全英オープン」)への5年間の出場権を獲得。ハンチング帽にニッカボッカスタイルがトレードマークで、「全米オープン」優勝後に飛行機墜落事故で亡くなった故ペイン・スチュワートに続き、2人目のサザンメソジスト大(以下SMU)出身者の優勝となった。

 1999年の霧の立ちこめる日に、故ペイン・スチュワートが18フィートのパットを沈めて優勝した時ほどではないかもしれないが、デシャンボーが「生涯最高のショット」と記者会見で語った、最終ホールのピンまで54ヤードのバンカーショットをピンそば1メートルにつけたのも劇的だった。スチュワートの優勝から25年後、そして全米ゴルフ協会の競技では1000回目に当たる今大会で、LIVゴルフに移籍した選手では2人目のメジャーチャンピオンが誕生した。

最終日の最終ホールで、グリーン手前のバンカーからピンそば1メートルにつけたデシャンボー。

「18番で、あのショットで寄せワンができて本当に嬉しい。もう2位にはなりたくなかった。全米プロでは本当に悔しい思いをしたからね」

 デシャンボーは、最終日に2位と3打差の首位でスタートしたが、なかなか思うようにスコアを伸ばせず、前半は1ボギーと、1つスコアを落として折り返した。10番ホールで初めてのバーディを奪ったものの、12番で2つ目のボギー。1つ前の組で回っていたローリー・マキロイが、13番ホールまでで5バーディ、1ボギーとスコアを伸ばしており、一時はマキロイが2打差のリードを奪ったこともあったが、最後の4ホールで3ボギーを叩いて再び2位に後退。最終ホールでマキロイがボギーを叩き、デシャンボーに1打差の2位に陥落した時、デシャンボーはパーを取れば優勝、という展開となった。

 デシャンボーの18番ホールのティショットは左に大きく曲がり、そこからの2打目はバックスイングが思うように取れず、グリーン手前のバンカーへ。キャディからは、「ブライソン、寄せワンするだけだ。今までも何度もやってきたことだからできる。もっと難しいショットも見てきた」という言葉に勇気づけられた。同組で回ったマチュー・パボンが「彼のショートゲームのクオリティの高さには驚かされた。18番は見事だった」というように、飛距離だけでなく、ショートゲームも好調だったデシャンボーは、ピンそば1メートルにピタリとつけて、パーセーブ。パットを沈めるや否や、空に向かって雄叫びを挙げ、歓喜のボルテージは最高潮に。18番グリーン周りの満員の観客席からも、大きな歓声が飛び、皆がデシャンボーの優勝を祝った。そこには彼がLIVゴルファーであれ、なんであれ、彼の勝利を純粋に祝福するファンたちが大勢いたのだった。前回の優勝時は、新型コロナウイルス感染拡大時で、無観客だっただけに、今回の優勝は格別だろう。最終的には2バーディ、3ボギーの71でホールアウトし、通算6アンダーで優勝したのだった。

バックスイングがほとんど取れない状態で放たれた、18番ホールの2打目。
優勝が決まり、このポーズで雄叫び!

「この特別な場所で、この大会に勝ちたかった。SMUや亡き父(2022年に糖尿病で亡くなったジョン)、ペインがどれほど重要だったか。ここでの勝利は本当に特別。そして今回は、1000回目のUSGA(全米ゴルフ協会)選手権だった。全てのことが重なっている」

 ベン・ホーガン、ボビー・ジョーンズ、ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズ、そして同じSMU出身のペイン・スチュワートといった名だたる選手たちとともに、複数回の「全米オープン」優勝者の仲間入りを果たしたデシャンボー。彼はまた、ニクラスやウッズと同様に、「全米アマ」と「NCAA」個人タイトルも保持しており、「全米オープン」のタイトルと合わせて輝かしいキャリアを築いている。

 さて、デシャンボーの組について彼のプレーぶりや観客たちとの交流のさまを見ていたが、観客に対してフレンドリーに接し、時にはプレー中でもサインをするなど、彼は昔のイメージと変わったな、と思った。以前はちょっと気難しいところもあり、真剣なプレーをしている最中に、こんなに観客たちとグータッチをしたり、観客の声援を煽ったりするなど、交流を持つような選手ではなかったからだ。きっとこれもLIVゴルフに移籍して、世界のゴルフファンたちから叩かれ、ファンの応援がいかに大事であるかを思い知った結果なのだろうと思う。現在の彼は、むしろファンたちとの交流を積極的に好み、彼らを味方につけながら、ファンの応援のパワーや情熱を取り込んでプレーしているように見える。誰でも試合中にグータッチをしてくれたり、目を見ながら声援に答えてくれたら、応援したくなるものだ。彼自身も「僕の人生は劇的に変わった。人との接し方が違う。父が亡くなったことが、人生に対する大きな視点を与えてくれた。5年ごとに人生は変わるというが、本当にその通り。僕はウィングドフット(2020年全米オープンで勝った時)の時とは全く別人だ。同じ細胞の一部は残っているが、頭の中は確実に違う」と語っている。

 究極の目標は20年後に「キャリアグランドスラムを達成することだ」と語るデシャンボー。今回の優勝でメジャーは「全米オープン」2勝目となったが、今年は来月の「全英オープン」で優勝するチャンスがまだ残っている。グランドスラムを達成するには「全米オープン」以外のメジャーを勝つ必要があるが、今の彼ならその可能性は十分あるだろう。

表彰式後に自らファンの元に駆け寄り、優勝トロフィーを触らせようとするデシャンボー。「自分にとって、この優勝の瞬間がどれほど特別かを感じてほしい。一緒にこの旅の一部を皆さんと祝いたい」と語った。
日が暮れて真っ暗になってからも、待っていたファンたちにサインをする。
大学の先輩であり、憧れのペイン・スチュワートのかぶっていたハンチングをキャディバッグにぶら下げて、共に戦っていた。

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