Text/Eiko Oizumi
Photo/PGA of America

ノースカロライナ州のクエイルホロークラブで開催された今年の「全米プロ」は、過去「マスターズ」で2勝を挙げている世界ランク1位のスコッティ・シェフラーが、2位のブライソン・デシャンボーらと5打差をつけ、3勝目を飾った。過去、2位と3打差以上をつけて、自身最初のメジャー3勝を飾っているのは、セベ・バレステロスだけである。そして、2012年、ローリー・マキロイが5打差をつけて「全米プロ」で優勝して以来、最大の勝利差だ。今回の勝利で、自身通算15勝目を達成したが、29歳になる前にその勝利数を達成しているのは、ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズに次ぎ、3人目の快挙だ。

優勝が決まった後、シェフラーは帽子を思い切ってグリーンに投げたシーンがあったが、これは「とにかく喜びですね。それと感謝の気持ちもありました。すごく長く感じた1週間だったし、自分のキャリアの中でも、これほどまでに必死に戦った大会はなかったと思う。最初の2日間はスイングが思うようにいかなくて、それでもなんとかスコアをまとめられましたが、昨日の最後の5ホールを除いたら、それが勝負を分けたと思う。今日のバック9も特別だけど、昨日の終盤の締めくくり方がすごく重要だった」
2日目を終えた時点で、首位のジョナサン・ベガスに3打差の5位タイ(通算5アンダー)だったが、ムービングサタデーの3日目には、1イーグル、7バーディ、3ボギーの65で回り、6つスコアを伸ばして通算11アンダーに。2位のアレックス・ノーレンに3打をつけて単独首位でホールアウトした。この時点でシェフラーのメジャー3勝目への期待が大きく膨れ上がった。 最終日の序盤、5ホールを終えて5打差にリードを広げたにもかかわらず、ショットは左へと引っかかり続け、6番ホール(パー3)と9番ホール(パー4)でボギーを叩いた。2つ前の組ではジョン・ラームがバーディを重ね、シェフラーを5打差で追っていた彼は8番、10番、11番でバーディを奪い、9アンダーで首位のシェフラーに並んだ時があった。


だが、そこでシェフラーに“あるスイッチ”が入った。真の一流プレーヤーだけが持つスイッチだ。「今週、自分が誇りに思うのは、精神的に集中を切らさず、必要なときに必要なショットを打てたこと」と、28歳のシェフラーは語っている。
前半9ホールではフェアウェイを7ホール中2ホールしか捉えられず、すべて左にミスしていた。しかし、10番、11番、12番でフェアウェイを捉え、短い14番ではグリーン手前のバンカーに入れ、15番でもフェアウェイをキープ。3バーディを重ねて12アンダーへと再加速した。一方のラームは、16番〜18番の「グリーンマイル」と呼ばれる難ホールでボギー、ダブルボギー、ダブルボギーという悪夢のような締めくくりで崩壊。メジャーの舞台は、ふたたびシェフラーのものとなった。
また、ファンたちの人気を集めるブライソン・デシャンボーも4つのバーディを奪い、優勝争いに食い込んでいたが、最終ホールでボギーを叩き、2位タイで終了。終盤のホールは池がからみ、距離もあるため、正確性と頭脳プレーを要するが、このコースでのキーホールで、シェフラーは必要な場面でしっかりと対応し、ワナメーカートロフィーを掲げるにふさわしいパフォーマンスを見せた。
「今週は重要なショットをしっかり打てたからこそ、こうしてトロフィーを持ち帰ることができた」と語る。「コース上で最も重要なショットを、自分としては一番良い形で打てたと思っている」
シェフラーの勝利への原動力は何か?と問われると、彼は次のように語った。
「ゴルフで一番好きな時間は、たぶん1人で練習している時。とても静かで、何かを追い求めるプロセスが本当に楽しい。それがゴルフの魅力だ。結局、常に自分自身と戦っていて、常に何かをつかもうとしている。そして、それを完璧にすることは絶対にできない。僕は一つのことに集中し始めると、少し狂気的になるタイプだと思う。常に改善できる余地があり、常に新しい課題があるのがゴルフ。それがすばらしいチャレンジで、とても楽しい」
先月の「マスターズ」では、ローリー・マキロイがついにキャリアグランドスラムを達成したが、シェフラーは今回「全米プロ」を制し、グランドスラム達成まで「全米オープン」「全英オープン」の2大会となった。6月にはペンシルバニア州のオークモントCCで「全米オープン」、7月には北アイルランドのロイヤルポートラッシュGCで「全英オープン」が開催されるが、今の彼の強さをもってすれば、今年中にグランドスラム達成も夢ではない。タイガー・ウッズの全盛期と比較されることも多くなってきたシェフラーだが、まだタイガーには及ばないと言う評価も多い。現在、28歳の彼も将来、グランドスラムを達成し、タイガーのメジャー勝利数に迫ることができるかどうかに期待がかかる。
