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「全英オープン」優勝で、グランドスラムまであと1歩
それでも大事なのは「家族」と「信仰」

Text/Eiko Oizumi
Photo/R&A/Getty Images

今季、「全米プロ」に続き、メジャーで2勝目を飾った世界ランク1位のスコッティ・シェフラー。

 3日目を終えて、2位のリー・ハオトンに4打差の通算14アンダーで単独首位をキープしていた世界ランク1位のスコッティ・シェフラーが、通算17アンダーで「全英オープン」優勝。メジャーは3勝目、ツアー通算17勝目を飾った。最終日も68と60台をマークし、全ラウンドを60台で優勝した史上7人目のチャンピオンとなった(直近では、2021年のコリン・モリカワがこの記録を達成)。また、今季は「CJカップ・バイロン・ネルソン」「全米プロ」「メモリアルトーナメント」に次ぎ4勝目を挙げ、ツアー最多。世界ランク1位で「全英オープン」を制したのは、タイガー・ウッズ(2000年、2005年、2006年)以来2人目で、4度目となる。

「素晴らしい1週間だった。今日、僕は観客の一番人気ではなかったかもしれないけど、『USA!』や『ダラス、テキサス!』という声援はしっかり聞こえていたし、本当に楽しかった」

「本当に特別な気持ちだ。このキャリアの段階に到達するには、非常に多くの努力が必要だったし、今週は本当に厳しい1週間だった」

 週末の36ホールで唯一のミスは、最終日の8番ホールでのダブルボギーだけだったと語ったシェフラー。その時は、2位のクリス・ゴタラップと4打差までつまったが、直後の9番でバーディを奪い、そのままリードを守って勝ち切った。「全米プロ」の時は逆転優勝だったが、今回は2日目以降、首位を守り切るゴルフ。以前はパッティングが弱点と言われていたが、現在は、フィル・ケニオンコーチと取り組み、「自信を持って打てるように導いてくれた」という。4日間の平均パット数で全体の4位であることから見ても、劇的に改善されていることがわかる。

 大会前、彼は「優勝しても嬉しいのは2分だけ」と話していたが、その言葉だけを切り取るのは間違いのようだ。

「2分だけ、というのは誤解を招いたかもしれない。僕が言いたかったのは、勝利だけでは人生の渇望は満たされないということ」と優勝会見で記者たちに説明した。これまでツアー通算17勝、メジャー4勝を挙げているシェフラーでも、勝つことに慣れて「全英オープン」での勝利でも嬉しいのは束の間の話、というわけではない。

「今の時代、人々が求めるのは“釣り見出し”なんだよね。5分間のインタビューを3語だけに切り取られたり……。あの時僕が伝えたかったことの本質が、正しく伝わっていなかったかもしれない。それは、僕の伝え方にも問題があったかも。僕はこの瞬間に対して、本当に大きな感謝の気持ちを持っている。僕は人生のすべてを、このゲームが上手くなることに費やしてきた。そして、プロゴルファーとして、このゲームをプレーできることは、僕の人生の最大の喜びの一つだ」

 シェフラーは、ポートラッシュでの「全英オープン」に優勝できたことに、言葉では言い表せない感覚があるといい、最高の気分だとしながらも、「全英オープンに勝つことは素晴らしいことではあるが、人生の成功――それがゴルフであれ、仕事であれ、それが心の奥底の渇望を本当に満たしてくれるわけではない」と語った。

 それでは何が彼の心を満たすことができるのか? 彼にとって最優先事項は、「信仰」と「家族」である。そして「ゴルフ」は3番目なのだそうだ。

「ゴルフは僕のアイデンティティーではない。大会に勝つこと、トロフィーを追いかけること、有名になることで自分を定義してはいない。僕は優勝したからと言って、自分が特別な存在になったとは思わない。心から感謝はしているが、これは人生のすべてではない」

 ウィニングパットを決めると、シェフラーは必ずメレディス夫人を探すという。そして今では1歳の息子、ベネットちゃんも、彼の優勝を祝福するシーンに登場するのが日常となっている。5月の「全米プロ」で優勝した時は、表彰式のシーンで初めてひとり立ちをし、家族を驚かせたベネットちゃんが、「全英オープン」の表彰式ではパパの元へ行こうと立ち上がって、彼にとっては急な斜面をよろけながら登っていくほどに成長していた。

「彼はあんな大きな丘を登ったことはなかったと思う。何度も転んでいたけど、それも成長の一部。状況は全然わかっていないだろうけど、ただ僕と一緒にいたかっただけ。それがすごく嬉しかったね」

 仲間や家族と勝利を祝えることは「最高の喜び」と笑うシェフラー。メレディス夫人とは、高校時代からの交際を経て結婚したが、「彼女は僕の親友であり、人生のパートナー。家庭の全てを支えてくれている。彼女がいなければ、僕はここまで来られなかったし、この勝利は僕だけのものではなく、チームと家族全員のものだ」と語っている。

 今年、「全米プロ」「全英オープン」で優勝したことで、キャリアグランドスラムに王手がかかった。残るは「全米オープン」の優勝だけだ。来年のシネコックヒルズGCでは、彼のグランドスラム達成について大きな注目を集めることになるが、彼自身はまだそのことについては考えていない、と会見で即答していた。メジャー1勝目から4勝目を挙げるまでの日数が、偶然にもタイガー・ウッズと同じ1197日だったというシェフラー。彼がタイガーのメジャー15勝に迫るには、あと11勝必要だが、ローリー・マキロイやザンダー・シャウフェレらが認めているように、シェフラーのゴルフのレベルは他と一線を画しているだけに、体が健康であればその可能性は十分にあるだろう。

優勝を決めた直後に、グリーン周りで待っていたメレディス夫人とベネットちゃんと抱擁し、祝福。
表彰式でスピーチする父のもとに行こうと、大きな丘を転びながら駆け寄ったベネットちゃん(左)。「全米プロ」の表彰式では、初めてひとり立ちできた彼も、今では立ち上がって歩けるようになっている。そんな成長ぶりを、シェフラーのメジャー優勝のたびに見ることができるのもおもしろい。

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