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ホーム開催で、世界のトップランカー揃いの
米国チームがなぜ負けたのか?

Text/Eiko Oizumi
Photo/PGA of America

米国キャプテンを務めた、キーガン・ブラッドリー。

 

 世界ランク上では、欧州チームよりも遥かに上の米国チームがホームで、しかも欧州にとっては障害の多いニューヨークで敗北を喫した。最終的には2ポイント差だったが2日目終了時点では、なんと7ポイント差。いったい米国は、なぜ負けたのだろうか?

 開催コースのベスページ・ブラックは、パブリックコースながらも全米で最も難しく、過酷なゴルフコースとして知られている。そのため、プレーヤーにこれから待ち受ける試練を警告するため「上級者以外のプレーヤーにはオススメできない」という有名な看板が立っているほどだ。しかし今回の「ライダーカップ」では、難解なコースの姿はなかった。グリーンは止まりやすく、ティーは前方に出され、このコースの代名詞とも言える手強いラフは、ほとんど障害にならなかったのだ。

 いったい、ベスページに何が起きたのか? それは、米国キャプテンのキーガン・ブラッドリーのミスによるものだった。

 通常、敵地の「ライダーカップ」で勝つのが難しい理由に、敵意ある観客だけでなく、開催国とキャプテンが、自国のチームに有利なようにコースセッティングを自由にできる点にある。ラフを刈り込むか、伸ばすか、ティーを動かして距離や狙いどころをコントロールするか。キャプテンは、自分たちに有利になると思うセッティングを選べるのだ。ブラッドリーは、ベスページの牙を抜くことが、自分達に有利だと判断したが、逆に欧州チームにとって有利に働いた、と欧州チームの副キャプテンで、データ分析担当のエドアルド・モリナリは語っている。
「まさか米国がこのようなセッティングにしてくるとは思わなかった。欧州に有利に働いたよ」

 大会終了後の記者会見で、ブラッドリーは自分の非を認めた。
「キャプテンはチームのリーダーである以上、うまくいけば称賛され、失敗すれば責任を取るべき。私はコースセッティングで間違いを犯した。自分の直感にもっと耳を傾けるべきだったんだ。なぜかあの方向性を選んでしまったが、結果的に正しい方法ではなかった。雨が降っていないのに、あれほど柔らかいグリーンを見たのは初めてだし、本来はもっと硬く仕上がるはずなのに、最後まで硬くはならなかった。グランドスタッフは素晴らしい仕事をしてくれたが、この結果については自分が責任を取らねばならない」

5戦1勝4敗に終わった、世界ランク1位のスコッティ・シェフラー。

 米国チームには4人のルーキーがいたが、中でも想定外の活躍をしたのは、ニューヨークが地元のキャメロン・ヤングだ。彼は、4試合に出場し、3ポイントを獲得。ベテランのザンダー・シャウフェレと並ぶ活躍を見せた。
 だが一方、世界ランク1位のスコッティ・シェフラーは、全5セッションに出場しながら、シングルス戦の1勝しか挙げられず、不発に終わった。このことは、米国の2日目までの惨敗の大きな原因となっていると言っていいだろう。米国のゴルフ記者の中には「世界最強のプレーヤーが、世界ランク30位くらいのプレーをしている。全試合に出される選手がそんな出来では、ラームやフリートウッド、マキロイら絶好調な相手に勝てるはずがない」と酷評している者もいたほどだ。シェフラー自身はこの事態をどう受け止めているのだろうか?

「4戦全敗した時の気持ちは、本当に言葉にできないほどつらかった。キャプテンとチームメイトからの信頼を受けて、4試合を任されながら、全て落とした。胸が張り裂けそうだった。しかし昨晩(土曜日の夜)、仲間達が僕を励ましてくれた。そしてブライソン(デシャンボー)と組んだ2日目のプレーは本当にすごかった。彼があれだけ頑張っていなければ、僕も今日の試合であのプレーはできなかったと思う。彼はこのチームの感情のリーダーで、本当に頼もしい存在。そんな仲間と一緒に戦えること、今日(最終日)ポイントを取れたことを誇りに思う」

 過去3大会(2021年・2023年・2025年)に出場しているが、通算3勝6敗3分という成績。通算4.5ポイントを獲得しているうち、シングルス戦で2.5ポイント、フォーボール形式で2ポイントという内訳となっている。フォーサム形式でポイントを獲得していないところを見ると、1つのボールを2人で交互に打ち合う形式がシェフラーには合っていないのだろうか?個人で戦うシングルス戦で多くのポイントを獲得していることから、チームで戦うのは比較的苦手なのかもしれない。

 欧州チームに対するヤジも酷かったが、米国チームに対する批判や厳しい声もあった。2日目までの不甲斐ない戦いぶりに嫌気がさした米国ファンは、米国チームに不満を爆発。米国を批判し、敵対する欧州をなじることしかできなかったのかもしれない。初出場のベン・グリフィンは、「ニューヨークの観客は、厳しい。負けていて、彼らのホームで期待に応えられなければ、怒られて当然だ。でも、ニューヨークのファンや、この地で育った勤勉な人たちは、ハートや情熱、最後まで諦めない姿勢を見れば、すぐに味方になってくれる」と語っている。ブラッドリーはチームメンバーを励まし、モチベーションを保つために声をかけ続けた。だが、米国が反撃に出たのは、最終日のシングルス戦。6人が勝利ポイントを挙げたが、大逆転にはあと一歩届かなかった。

 次回の「ライダーカップ」で、誰がキャプテンを務めるのかは不明だが、今回副キャプテンを務めていたブラント・スネデカー、あるいはもう1度ブラッドリーでリベンジを果たす可能性もありそうだ。

1日5万人の観客が観戦したという「ライダーカップ」。一部の観客からの心ないヤジが飛び、欧州チームメンバー(特にローリー・マキロイ)はその屈辱に耐える場面も多く見られた。

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