ルーキーを6人も抱える若手揃いの米国選抜。そんなチームをまとめあげたストリッカー主将の手腕もさることながら、兄貴分としてチームのムードを明るく盛り上げ、若手に実力を発揮させた最年長のDJの存在が、優勝のカギだったのかもしれない。
37歳で“おじいちゃん”?若手にとってDJの存在とは?
コリン・モリカワは、表彰台でシャンパンファイトをした時の「モエ・エ・シャンドン」の瓶を大事そうに抱えながら、隣に座っている新コンビのパートナー、ダスティン・ジョンソンとシャンパンを酌み交わし、ザンダー・シャウフェレは葉巻を燻らせ、半分酔っぱらったような表情を浮かべながら至福の時を過ごしている。そして他の選手たちもビールやシャンパンを飲みながら、はしゃいでいる……。これは米国の優勝会見が始まる直前のシーンである。シャンパンファイトでずぶ濡れになったウェアは酒臭く、皆ほろ酔い気分で、達成感に満ち溢れた表情を浮かべながら2016年以来の優勝を喜んでいたが、興味深かったのは、ルーキーたちの様子。シャウフェレ、キャントレー、バーガー、モリカワらが最前列に並び、キャプテンのストリッカーや最年長のD・ジョンソンらに気を遣うこともなく、自由に振る舞っていたのだ。
そして会見が始まると、試合中は物静かで、一見取っ付きにくそうに見えるダスティン・ジョンソンがマイクを取り、出場選手を代表してストリッカーの働きに対して賛辞を述べ、若手たちをねぎらう発言もあった。特に、一緒にコンビを組んだモリカワとシャウフェレに対しては「素晴らしいパートナーの君たちのおかげで僕の記録(5戦5勝)が樹立できたよ。ありがとう」と言い、それに対してモリカワ、シャウフェレも「いえいえ、ありがとうDJ! 5戦5勝なんて、DJは本当に素晴らしいよ」と先輩、後輩が互いに称え合っていたのもいいシーンだった。以前、ニューヨーク近郊で開催された「プレジデンツカップ」で、表彰式にトランプ大統領が現れた時、DJがトランプを気遣い、社交的に話しかけていたのを見て、意外な一面を見た思いがしたが、彼はそうした気遣いができる、社交性のある人間なのだ。
“パティアイス”も爆笑するニュージェネ米国選抜の強さのヒミツ
そしてDJは時折、すっとぼけたような発言をして仲間の選手や記者たちを笑わせていた。なんでも若手には「おじいちゃん」と呼ばれていたそうだ。37歳で最年長の彼も、この状況には少々戸惑ったようだが、ストリッカーがこの若いチームに作り出そうとした明るくリラックスした雰囲気作りに、最年長の彼が大いに貢献したことは間違いない。若手の選手たちにとって、DJは世界ランク2位の尊敬すべき選手であり、頼れるいい兄貴なのだ。彼がそんな雰囲気だから、若手選手たちも互いにリスペクトを抱きながら気ままに振る舞えるし、必要な時にアドバイスを求めやすい。普段は無表情で知られる〝パティアイス(氷のパティ)〟ことパトリック・キャントレーをも爆笑させることができるくらいだから、DJのムードメーカーぶりは最高である。
過去、タイガー・ウッズやフィル・ミケルソンら世界のトップスターが揃っていたドリームチームの米国選抜は、実力は欧州を十分上回っていたにもかかわらず、優勝できないことが多かった。時には敗因をキャプテンのせいにすることもあり、決していいムードとは言えなかった。それに対して欧州は選手同士が家族のように仲が良く、チームワークと根性、意地でパフォーマンスを最大に出し切り優勝してきた。過去、負け続けてきたネガティブな記憶やピリピリしたムードを抱えてきた米国は、何がなんでも優勝したいと「タスクフォース」を作ったこともあったが、あまりその効果はなかったと言っていいだろう。だが、そんな負の記憶を知らない、若くて強い選手たちが出てきたことで、「負けたくない」「勝ちたい」一心で戦った結果、欧州に大差をつけて優勝することができた。今後、この若手最強軍団にDJのような兄貴分的な存在がミックスされることで、誰が次のキャプテンに就任しても当分はポジティブでエネルギーに満ちた明るい米国選抜チームが結成されることだろう(ちなみにストリッカーは、もうキャプテンはやらないと宣言している)。
Text/Eiko Oizumi