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【世界のゴルフ通信】From USA 今年限りの珍事?!わざと忘れ去られたディフェンディングチャンピオンたち

意図的に忘れ去られたディフェンディングチャンピオンたち

©Getty Images

昨年のPGAツアー「ジェネシス招待(タイガー・ウッズがホスト)」で優勝した、ホアキン・ニーマン(右)。現在はLIVゴルフリーグの「トルクGC」キャプテン。

©Getty Images

昨年、「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ」と「プレーヤーズ選手権」で優勝したキャメロン・スミス。LIVゴルフリーグ「リッパーGC」キャプテン。

©Getty Images

昨年、「アメリカンエキスプレス」で優勝したハドソン・スワフォード。

ツアー優勝者としての記憶を消されたLIVゴルファーたち

PGAツアーの世界は、奇妙で新しい時代を迎えている。
私たちがテレビでよく観たり、話題にしていた選手達は、今では遠い記憶となり、場合によっては意図的にそうなっている場合もある。
ディフェンディング・チャンピオンの場合、そのプロ自身の認知度が低いためか、あるいは意図的にか、忘れ去られている。
選手たちに莫大な報酬・賞金を与えながら、新しいタイプのイベントが世界のゴルフスケジュールに追加され、ツアーに新しい命を吹き込んでいるのだ。
その新しいタイプのイベントとはつまり、LIVゴルフリーグのことである。

何人かの有名選手が新しいサーキットの富を求めてPGAツアーを去った激動の1年を経て、2月末から第2シーズンが始まったが、PGAツアーとLIVゴルフとの関係は今も改善されてはいない。

「アメリカンエキスプレス(以下アメックス)」のディフェンディングチャンピオンであり、LIVゴルファーのハドソン・スワフォードについては、事実上ほとんど言及されることはない。
また「ジェネシス招待」では、1年前にLIVゴルファーのホアキン・ニーマンが圧巻の勝利を飾り、タイガー・ウッズから優勝トロフィーを授与された。
そして、「全英オープン」チャンピオンのキャメロン・スミスは、PGAツアー最大のイベント「プレーヤーズ選手権」で2連覇を果たすためにTPCソーグラスに戻ることはなかったばかりか、過去の優勝者に与えられるクラブハウスの駐車場もなくなり、コースへのアクセスもできなくなった。
これが、LIVゴルフに移籍した選手たちの末路だ。

今年度から設けられた指定(昇格)試合制度とトッププロの出場率

PGAツアーが今年から導入した新たな「指定試合(当初、昇格と言われていた試合)」制度もそうだ。
PGAツアーの新時代を担ういわゆる「指定試合」は、順調な滑り出しを切った。2023年に開催される12大会の第1弾となった「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ(以下、セントリーTOC)」では、高額賞金により、世界ゴルフランキングの上位20人のうち17人が、マウイ島に集結したのだ。

かつてのゴルフ事情を知っている人達ならおわかりの通り、来年からシーズンの第1戦として開催されるこの大会に、トッププロが勢ぞろいすることは、必ずしも確実なことではなかった。
タイガー・ウッズとフィル・ミケルソンは、彼らが全盛期だった頃、カパルアでの本大会のプレーを回避することが多かった。
世界ランク1位のローリー・マキロリーも、今年はそうだった。

しかし、賞金総額は1年前の820万ドル(約10億7900万円)から1500万ドル(約20億円)に引き上げられ、たとえ前年に優勝しなくても、「ツアー選手権(フェデックスカップ最終戦)」に出場した選手も招待された。
ツアーがより多くの資金をスター選手たちに提供するという、新しい任務が進行中の大会である。
「プレーヤーインパクトプログラム(以下PIP)」に参加するすべての選手(今年は総額1億ドルを超えるボーナスを受け取る選手が23人)に出場義務がある13大会のうち、最初の大会が「セントリーTOC」だった。
ただし、指定試合へは1度の不参加が許されている。
だから、マキロイはマウイ・カパルアに行かなかったのだ。

しかし理論上は、「プレーヤーズ選手権」を含む残りの指定試合・12試合と、4大メジャー、さらに自身が選んだ3試合に出場することとなる。
合計19試合だ。
そして、特定のビッグイベントへのトッププロの出場率は、これまで見たことがないほどはるかに改善されている。

そうなると、当然ながら「指定試合以外の試合」のビッグネームの出場率が悪くなるのではないか、という懸念が生じる。

指定試合以外への意図的な選手の割り振り

「セントリーTOC」を皮切りに、「ツアー選手権」までは34試合あるが、トッププロの大半がそのうちの17試合に参加することを考えると、これまでの最低出場義務試合が15試合だった全44試合のスケジュールよりもはるかに高い参加率となる。

しかし、「その他の17試合」についてはどうだろう。
ここで忘れてはいけないのが、PIP選手は、その他の3試合に出場しなければならないということだ。
そしてPIPの要件として、そのうちの1つは、PGAツアーと選手の間で合意されたものであることが小さな文字で規定されている。
ラームが「アメックス」に出場したのはそのためだ。
このように、すでに一部のトッププレーヤーが分散するように、スケジュールを操作しているのが見受けられる。

「セントリーTOC」の翌週の、ハワイで開催された「ソニーオープン」は、ジョーダン・スピースが最高位選手で、トップ10は誰もいないなど、スター選手にはやや欠け、「AT&Tペブルビーチプロアマ」もビッグネーム不足だった。
だが、「アメックス」と「ファーマーズインシュランスオープン」にはいずれも、ラームを含むトッププロ15人が参加していた。

©Eiko Oizumi

1月は「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ」と「ソニーオープン・イン・ハワイ」の2試合に出場したジョーダン・スピース。

指定試合以外の試合でも、優勝すれば、ポイントを稼ぐチャンスとなり、メジャーへの出場権も獲得できる

©Eiko Oizumi

PIP対象選手のジャスティン・トーマスも、指定試合とメジャー、自身が選ぶ3試合をプレーする。

指定試合以外の大会はビッグチャンスが転がっている

「多くの大会は、劇的に変わることはないだろう」とジャスティン・トーマスは語っている。

「1人か2人、あちこちの試合でビッグネームがいなくなるかもしれないが、他にもいろいろなストーリーが生まれる、素晴らしいきっかけになると思う。そのストーリーの内容は、初優勝してキャリアを飛躍させる選手たちのものになるかもしれないが、昇格試合でなくともPGAツアーのイベントであることに変わりない。オーガスタやメジャー出場を目指す選手にとって、同じチャンスがある。素晴らしい大会であることに変わりないのだが、そのように受け取られないのは残念なことだ」

トーマスの言う通りだ。
指定試合以外の試合にも、まだたくさんの才能あふれる選手たちが散らばっており、優勝者に提供されるフェデックスカップポイントは、指定試合とほぼ同じだ。
だから、賞金額が違うとはいえ、これらの大会もフェデックスカップ・プレーオフやメジャーへの出場権を提供することには変わりはないのだ。
それどころか、メジャーなどのビッグイベントへの出場が容易といえるかもしれない。
「指定試合」以外の試合には、トッププロがあまり出ない、ということもあり、無名の選手が優勝したり、上位入賞を重ねたりして、ポイントを積み重ねるチャンスになるかもしれない。
そして、トップ75の選手は、指定試合に出場する一方、年末が近づくにつれ、来季へのシード権やメジャーへの出場権をかけて同じくらい重要になりそうな「指定試合以外」の試合で順位を上げる機会も得ることができるのだ。

今のところ、未知数な部分が多く、予想外の展開になることは間違いない。
もし、PIP選手が19大会に出場しなかったら?
もし、「指定試合以外」の大会に大きな影響が出たらどうなるのか?
最後まで見届けなくてはならない。

ビッグネームが連戦しなければならない試合が目白押し

「WMフェニックスオープン」を皮切りに、「ジェネシス招待」、「アーノルド・パーマー招待」、「プレーヤーズ選手権」、「WGCデル・テクノロジーズ・マッチプレー」、「マスターズ」、「RBCヘリテージ」と、10週のうち7週が指定大会というスケジュールになっている。
多くのビッグネームが、しのぎを削る試合が頻繁に行なわれるということだ。
これまでのところ、PGAツアーは少なくとも全試合の半分を強化し、より多くのトッププロがより頻繁に集結するようにすることで、成功しているかのように見えるが、今後数か月間にわたってそれが続いていく。

そして、これによって少なくともLIVゴルフへ移籍した選手たちの存在は目立たなくなっている。
LIVの何人かは「マスターズ」で見ることになるが、今後、事態はさらに興味深いものとなるだろう。

Text/Bob Harig
ボブ・ハリグ(アメリカ)

ESPN.comシニアゴルフライター。25年以上に渡り、ゴルフトーナメントの取材を続けている。全米ゴルフ記者協会会員。

Photo/Getty Images

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