ゴルフの聖地が判断ミス?
激動のゴルフ界の中でゴルフの聖地も大きく変化
セントアンドリュースの18番ティーの前にかかる、世界のゴルフ場の橋で最も有名な「スウィルカンブリッジ」。その前の部分に、このような石畳のパティオが造られ、物議を醸した。
セントアンドリュースで事件発生!
700年以上の歴史を持つこの橋は、かつて牛や羊の放牧の通路に使われていたという。世界中のゴルファーとゴルフをしない観光客も、セントアンドリュースを訪れる人はこの橋の上で記念撮影することで知られている。
大勢の人が訪れ、この橋の前で撮影したり、順番待ちをするため、芝が擦り切れてしまうことが多かった。
石畳のパティオに対しての批判・苦情が多かったため、すぐに撤去され、芝生が植えられた。
女性用のロッカールームと男性用のロッカールームの追加のため、R&Aの建物の拡張工事が行なわれている。
2月初旬、世界中で最も愛されているゴルフ遺産のシンボルを守ろうとするあまり、痛恨のミスを犯すという事件が、ゴルフの聖地・セントアンドリュースで発生した。
ゴルフ界で最大の写真撮影人気スポットの「スウィルカンブリッジ」は、人の通行が非常に多いことに悩まされており、橋の手前と出口部分の芝がひどく傷んできていた。
この橋を守るために何かしなければならなかったのだが、皆が期待するような方法では行なわれなかった。
この有名な橋の手前に大きな円形の石畳を設置したところ、SNS上では怒号と嘲笑が飛び交い、裏庭のパティオと比較されることになったのだ。
「モナリザに口ヒゲをつけるようなものだ」という見出しが地元有力紙に載ったが、それはこの事態にゾッとしたセントアンドリュースの住民や、世界中のゴルフファンが抱いた、神聖なものを汚す行為に近い感覚を見事に言い表していた。
フォトショップの技術を使って、庭の家具やパラソルを追加し、失われた楽園を模造するというものもあった。
だが当然のことながら、やがて大物ゴルファーたちがこの議論に加わるようになった。
「スウィルカンブリッジでは、料理を提供するようになりました。BBQ料理を提供しています。早めにご予約を」と、元「ライダーカップ」選手でBBC放送のゴルフ解説者であるケン・ブラウンがツイートした。
それに対して、ニック・ファルドは、「よく考えて戦略的に配置された(スロープレーのための)日時計か、トニー・ジョンストン用の深いバードバス(小鳥の水浴び容器)だ」と冗談を言った。
注:トニー・ジョンストンはジンバブエの選手で、欧州ツアー6勝。彼が自身のツイッターでウォーターハザード内にジャンプした動画をツイートしたことがあった。
しかし、ファルドはそこで終わらなかった。
橋の新しい外観を「フェアウェイを左に外すより悪い! もしバケットリスト(死ぬまでにやりたいことリスト)に入れているセントアンドリュースでのラウンドのために、地球の裏側まではるばるやってきたとしたら、靴についた歴史的な土を持ち帰るのと、セメントのくずを持ち帰るのとどちらがよいですか?」と付け加えたのだった。
SNSの非難の嵐の直後に「パティオ」を撤去
自治体も巻き込んで、ファイフ市役所の関係者は、この改造が遡及的な計画許可の申請を必要とするかどうかを調査することを明らかにした。
幸い、この街の広大なゴルフ場の管理者であるセントアンドリュース・リンクス・トラストが迅速に対応し、その間違いを正したため、そこまで大ごとになることはなかった。
この嵐がソーシャルメディアに流れてから48時間以内に、掘削業者は問題の建設物を撤去するために再び動き出し、「パティオ・ゲート」と呼ばれるエピソードは、始まったと同時に終わりを告げた。
リンクス・トラストは声明で次のように述べている。
「近年、私たちは様々な解決策を検討し、試行錯誤を繰り返してきた。このように人気のある場所の通行量に見合うものでありながら、周囲の環境と調和するものを見つけることだった。私たちは、橋の手前と出口に設置した石細工を、長期的な解決策の一つとして考えていたが、この設置は今回、ある程度の保護を提供できたものの、その象徴的な設定に見合った景観を保つことができないと考え、撤去する決定を下した。私たちは、この神聖な地が600年以上にわたって必要に応じて進化し続けてきたことを認識しながら、この遺産を守るという役割を自覚している」
18番ホールの奥では、ランドマークであるR&Aの建物の地下で大規模な拡張工事が行なわれているため、 さらに大きな掘削が進んでいる。
完成すれば、新しい女性用ロッカールームと、男性用ロッカールームに330個のロッカーが追加される予定だ。
地上には駐車場が新設され、壁や手すり、階段も新しくなる。ゴルフがかつてないほど激変している激動の時期に、ゴルフの聖地でのこのような変化は象徴的なものだ。
LIVゴルフと欧州ツアーの評決はいかに……
1月に開催されたDPワールドツアー「ヒーローカップ」。今年の「ライダーカップ」で欧州チームが優勝トロフィー奪還のため、行なわれた予行演習のような大会だ。写真は優勝した欧州大陸チーム・キャプテン、フランチェスコ・モリナリ。
英国&アイルランド連合チーム・キャプテンのトミー・フリートウッド(右)と、欧州大陸チーム・キャプテンのフランチェスコ・モリナリ。勝負は欧州大陸チームの勝利に終わった。
現段階では、DPワールドツアーがLIVゴルフメンバーに罰金と出場停止を科した後、LIVゴルフメンバーとDPワールドツアーとの間の仲裁を考慮した、独立弁護士団の評決を待っている段階だ。
2月上旬の1週間、双方がそれぞれの主張を述べた後、審判部が判決を下すまでに数週間を要すると予想されている。
この評決の結果は、ツアーの将来と、LIVゴルファーが「ライダーカップ」欧州代表チームに選出されるためのポイント獲得ができるかどうかに大きな影響を与える。
だがその前に、この9月、キャプテンのルーク・ドナルドのチームルームで、それが意味することを考えてみてほしい。
離脱した反乱軍とローリー・マキロイのようなツアーの忠実な支持者の間には多くの怒りや憎しみがある。
ドナルドの役割はチームのスキッパーというより、国連の平和維持軍に近いだろう。
この30年間、欧州チームは、アメリカとの対戦での圧倒的なチームワークを、その比類なき選手間の調和と互いのために勝利するという強い意思によって、築いてきたことは有名だ。
そんなチームにとって、対立する派閥の選手を組み合わせることは、ドナルドにとって冷や汗ものであることは間違いない。
「ライダーカップ」の予行演習を実施
特に、1月に行なわれた欧州大陸チームと英国&アイルランド連合チームによる第1回「ヒーローカップ」は、彼の準備に大きな弾みをつけることになった。
アブダビGCで行なわれたこの試合は、かつての「セベ・トロフィー」の形式を復活させたもので、今年の「ライダーカップ」デビューに意欲的な新戦力にとって、理想的なテスト場となったのである。
欧州大陸の勝利自体にはほとんど意味はなく、すべての選手間にチームスピリットを育む絶好の機会となったことが最も重要だった。
「皆がチームの雰囲気にどう反応するか、マッチプレーでのプレッシャーのかかる状況にどう反応するか、とても興味深かったよ。だから、イタリア『ライダーカップ』の予行演習として、私にとってとてもいい勉強になった。学ぶべきことはたくさんあり、いい選手もたくさん揃っている。ただ単に良いチームというだけでなく、強いチームで、全員、非常にモチベーションが高い。選手たちは皆、『ライダーカップ』メンバーになりたいと強く思って『ヒーローカップ』を後にしたと思う。今は、出たくてウズウズしていることだろう」とドナルドは語っている。
Text/Euan McLean
ユアン・マクリーン(スコットランド)
スコットランド・グラスゴー在住のスポーツライター。『サンデーメール』などに寄稿。欧州ツアーなど過去20年にわたり取材。