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【全米オープン】75年ぶりのロサンゼルス開催!名門ロサンゼルスCCを造ったバラと釣り、犬を愛したキャプテン・トーマス

US OPEN
2023年6月15日~18日/米国カリフォルニア州・ロサンゼルスCC

©USGA

ノースコースの9番ホール(180ヤード・パー3)。谷越えのティーショットとなり、ダフリは厳禁! コース改造したギル・ハンスは、グリーン手前、左奥と右に沿ったエリアを拡大することで、グリーン面積を25%回復。元々の6635平方フィート(616.4㎡)に戻した。

©USGA

ジェイソン・フェイン建築事務所により1年間かけて復元された、104年の歴史を誇るクラブハウスが、2016年に再オープンした。

ジョージ・C・トーマスJr(米国)

©The Family of George C. Thomas Jr

1873年10月3日生まれ(1932年他界)。ゴルフ場設計家であり、植物学者、作家でもある。フィラデルフィア出身でA.W.ティリングハスト、ウィリアム・フリン、ドナルド・ロスらとともに、ゴルフコース設計の「フィラデルフィアスクール」を形成。第1次世界大戦中は陸軍航空部隊に所属し、大尉(キャプテン)に昇格したため、“キャプテン”の愛称で呼ばれるようになった。

「全米オープン」といえば、比較的東海岸のコースで行なわれることが多いが、今年は75年ぶりに西海岸のロサンゼルスで開催される。
75年前に舞台となったリビエラCCも、今年のロサンゼルスCCも同じコースデザイナー、ジョージ・C・トーマスJrが手がけているが特にロサンゼルスCCは、過去4大メジャーが開催されたことはなく、あまり情報が知られていない。
今回はそんな知られざるコースについてお伝えしよう。

ベン・ホーガン初優勝以来のLA近郊開催の「全米オープン」
チャンピオンに輝くのは誰か?

コースのあるエリアは、高級ブランドショップが立ち並ぶ、ロデオ通りから至近。

約5.6km続くサンタモニカビーチまでは、車で約15分。太平洋に沈む夕日は必見。

世界のトッププレーヤーがハリウッドにやってくる!

来る6月15日~18日に、156人の選手が出場する第123回「全米オープン」が、ロサンゼルスCC(以下LACC)・ノースコースで開催される。
ロサンゼルスでの「全米オープン」は1948年、リビエラCCで開催されて以来、75年ぶりだが、この時はベン・ホーガンが彼の「全米オープン」4勝のうちの初優勝を飾っている。

コースはハリウッドから至近距離にあり、ビバリーヒルズはすぐそばだが、この非常に厳格なプライベートコースLACCは、1897年に2つの18ホールのコースとして創設された。
1927年に伝説的なゴルフコース設計家であり、LACCのメンバーだったジョージ・C・トーマスJr(通称キャプテン・トーマス)によってノースコースが改修され、のちに彼の傑作と呼ばれるようになった。
その後、著名なコース設計家のギル・ハンスによって5年間にわたる改修が行なわれ、2010年に終了。
過去の写真や文書などをもとに、トーマスがデザインしたノースコースという傑作の、元の設計を復元する形で行なわれた。
たとえば、トーマスが設計した昔のバンカーを発見し、そのデザインを復元するのに加え、クラシックなグリーン形状にウイングをつけることで、ピンを切る位置を増やすという具合だ。
LACCは、2017年にギル・ハンスによって改修された、この素晴らしいコースレイアウトで第46回「ウォーカーカップ」を成功裏に終わらせ、米国が勝利したことで、2023年「全米オープン」のLACC開催の原動力が生まれたのだ。
改修中に過去の元々のデザインを発見できたことで、「全米オープン」は、よりチャレンジングなものになるだろう。

LACCの特徴とプレー時の注意点

LACCの周辺には、カエデやカシの木々が生え、ビバリーヒルズや周辺の素晴らしい景色が楽しめるが、ノースコースのテストは、高台にある、パッティンググリーンに位置する1番ティーから始まる。

最初のホールには比較的穏やかな起伏があり、トーマスのクラシックスタイルのバンカーを見ることができるだろう。
続く2番ホール・パー4は、谷越えの風景が広がるトーマスの特徴的なクラシックレイアウトで、ミスすれば罰打は免れない。
5番ホールは距離も長くタフなホールで、グリーン右手前というトリッキーな場所にピンが切られた場合は、非常に難しくなる。
7番ホールは、トーマスの「コース内のコース」というコンセプトを際立たせたものとなっており、谷越えの長い284ヤード・パー3として使用する。
小さなティーグラウンドを発見し、改修したことで、通常、このホールはパー4の290ヤードとなっており、谷を越えるか、狭いフェアウェイにレイアップするかの二択が迫られる。

そして13番ホールの長いパー4では、ベル・エアとベネディクト渓谷のすばらしい景色に気を取られ、注意散漫になってしまう恐れがあるので注意が必要。
ティーショットは左サイドに打てないと、14番ホールのティーグラウンドに向かって傾斜するグリーンに対して的確なショットが打てず、グリーンを左に外すと、難しいアプローチが残ってしまう。

非常に素晴らしい14番ホール(パー5)は、ティーショットから難しい。
窪地にあるバンカーがレイアップを妨げ、起伏のある難しいグリーンが待ち構えている。
左サイドからアプローチしようとすると、グリーン右手前にピンがある場合は、寄せづらい。
そして、上りの傾斜が続くパー4の18番は、通常はアゲンストの風が吹くこともあり、ロングヒッターに有利なホールだ。
ピンがグリーンの奥に切られている場合は、カップインするまでどんなスコアになるか予想ができないほど難易度が高くなる。

ちなみにLACCメンバーは、ロサンゼルスとその周辺の景色を眺めることができる11番ホールがお気に入りだ。
このシグネチャーホールの11番は、5つの特徴あるパー3ホールの一つで、距離は290ヤード。
打ち下ろしのホールだが、グリーン手前にボールを落とせば、あとはグリーンに向かって転がっていくようになっている。

後進の設計家に大きな影響を与えたトーマス

©The Family of George C. Thomas Jr

トーマスは大物釣りに熱中し、船上で数日間過ごすこともあった。マグロ、カジキ、ジャイアントバスなどを釣り上げたが、1929年にアバロンで吊り上げたマーリン(カジキ)は、釣り上げるまでに9時間以上かかったという(写真)。

©The Family of George C. Thomas Jr

トーマスがメンバーだったゴルフ場やクリケット場のメンバーカード。少年時代に家族の土地にゴルフ場を設計し、それが後のホワイトマーシュバレーCCとなったという。

©The Family of George C. Thomas Jr

トーマスは1900年代初頭にイングリッシュセッター(イングランドの大型犬)を飼育。全米イングリッシュセッタークラブの創設メンバーの一人だった。

©The Family of George C. Thomas Jr

1912年にバラ(ブルームフィールドという品種)を育て始めたトーマスは、日照時間の長いカリフォルニア(ロサンゼルス)に移り住み、ブルームフィールドの改良種など1000種類以上のバラを育成。2冊のバラに関する本も執筆。

〝キャプテン〟の至高のコース設計は、世界最高のチャレンジを生み出している。
彼は自然を生かしたスタイルを好み、多様なリスクと報酬を生むショットメイキングとメンタルゲームがいかに大事かを強調する。
「オーハイ、リビエラ、または私が以前設計したどのコースをも(LACCは)上回るだろう。LACCは自分の最後の設計になるかもしれない」と語っていたという。

2月の「ジェネシス招待」開催前に、タイガー・ウッズが「全米オープン」のヤーデージブックを片手に、LACCをゴルフカートで視察していた様子がLACCのメンバーに目撃されている。
クラブは持たず、コースの人間を従えて、攻め方を聞いていたようだ。
タイガーは昨年の「全米オープン」には出場しなかったが、今年は出場の可能性が濃厚である。
LACCがホームコースのパトリック・キャントレーは、「ノースコースが大好きで、UCLA在学中からコースのことはよく知っている」と語っていたが、彼に大きなアドバンテージがあることは確かだ。

また、「全米オープン」のディフェンディングチャンピオン、マシュー・フィッツパトリックは、「10年前にLACCで一度だけプレーしたが、特別な印象は何も残っていない。しかし、ギル・ハンスの改修が完成する前だったので、今はさらに面白いだろう。プレーするのを楽しみにしているよ」とコメントした。
2021年「全米オープン」チャンピオンのジョン・ラームは笑顔を浮かべながら「そこで何度もプレーし、優勝もしたよ。楽しいね。どのようなセッティングにするかによって、難度が変わると思う。いろいろなセッティング方法が可能なコースだよ。6月にこの地を訪れるのを楽しみにしている」と語った。
ラームは、PGAツアーのトッププレーヤーが参加する「指定イベント」の一つ、「ジェネシス招待」で、ジョージ・トーマス設計の有名なリビエラCCで優勝している。

ラームのコメントに言及するなら、USGA・チーフチャンピオンシップオフィサーのジョン・ボーデンハマー氏は、「我々は速く、硬いグリーンに仕上げるべきだ。春の雨は、南カリフォルニアにとって恵みの雨だったが、6月(の『全米オープン』開催時)にはバミューダ芝やラフの状態を注意深く観察し、『全米オープン』を最適なコンディションで行なえるように調整したい。『ウォーカーカップ』をやってみてわかったことがたくさんある」と断言している。

今日の世界有数のゴルフ場設計家たちは、キャプテンの作品に対して敬意を示しているが、受賞歴のあるデザイナーのギル・ハンスは、「私たちの作品に最も影響を与えた設計家は、過去10年間でいえば間違いなくジョージ・トーマスだった。コースのアングルや、戦略、そして『コース内のコース・コンセプト』は彼の得意分野でしたからね」と述べている。
トム・ドークは「ジョージ・トーマスほど深く思考する設計家はいなかった」と確信している。

タイガーもLACCを下見
地元で「全米オープン」復活優勝を狙う

©USGA

15番ホールのグリーン周りには、複雑な形をしたガードバンカーが配置されている。コース改造をしたデザイナー、ギル・ハンスはトーマスが元々造っていたバンカーを見つけ出し、ありのままの姿に復元させるよう進めた。

©ROLEX

トーマスの設計したコースを改修したギル・ハンス。2022年「全米プロ」開催コースのサザンヒルズCCの改修や、リオ五輪のゴルフ場オリンピックGCの設計を担当している。

©USGA

ロサンゼルスCCノースコースのシグネチャーホール11番。ロサンゼルスの高層ビル群を眺めることができるすばらしい景観が特徴のパー3ホールだ。距離は290ヤードで、バンカーを越え、手前から攻めるのが鉄則。

今後「全米女子オープン」や   2回目の「全米オープン」を開催する予定   のLACC

Illustration/Koji Kitamura
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ロサンゼルスの繁華街ビバリーヒルズのすぐ近くに位置するLACC。

©USGA

コースから高層ビルが見えるのもロサンゼルスCCならでは。

©USGA

昨年はマシュー・フィッツパトリックが優勝した「全米オープン」。今年のチャンピオンは誰か?

©Getty Images

2017年「ウォーカーカップ」が開催されたLACC。メジャーで大活躍のウィル・ザラトリスや世界ランク2位のスコッティ・シェフラー、メジャー2勝のコリン・モリカワ、飛ばし屋キャメロン・チャンプも米国優勝に貢献した。

ロサンゼルスCCのこれまでの歴史と未来

LACCはUSGAと深い関係があり、過去には1930年に「全米女子アマ」、1954年には「全米アマ」が開催されたことがあった。
そして近年では2017年に英米のアマチュアが対決する「ウォーカーカップ」が行なわれ、スコッティ・シェフラー、コリン・モリカワ、キャメロン・チャンプらが出場し、米国を勝利に導いている。
そういう意味では以上の3人はギル・ハンス改修後のLACCを知り尽くした選手であり、有利と言えるだろう。

「全米オープン」開催コースとしては南カリフォルニアエリアでは、リビエラCC(1948年)、トーリー・パインズGC(2021年)に次ぐ3番目のコースであり、今後は2032年「全米女子オープン」、2039年「全米オープン」の開催が決まっている。

ノースコースは、他の「全米オープン」開催コースに比べ、比較的フェアウェイが広く、角度などは元々のトーマスの設計を生かしたものとなっている。
1番と12番が最も狭いフェアウェイとなっているが、それでも横幅は28~29ヤードはあるという。
大会中の1番ティーは、クラブハウス前のパッティンググリーンの中央まで下げており、580ヤードでプレーすることになっているが、トーマスのもう一つの設計コース・リビエラCCのように、1番は比較的難易度は低めで、スタートしやすい設計になっている。

なお、「全米オープン」には他のメジャー同様、LIVメンバーも参戦できることになっており、「全米オープン」チャンピオンのダスティン・ジョンソン、ブライソン・デシャンボー、グレアム・マクドウェルらも出場する。 

Text/Susanne Kemper, Eiko Oizumi
Photo/USGA、Riviera CC、Bel-Air CC、Stanford CC、The Family of George C. Thomas Jr
Illustration/Koji Kitamura

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