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【PGAツアーレポート】R&A USGAレポート!プロツアーやトップアマの競技で飛ばないボールしか使えなくなる?!

R&AとUSGAが提案!プロツアーやトップアマの競技で飛ばないボールしか使えなくなる?!

以前から、ボールの規制については議論が行なわれてきたがゴルフのルールを統括するR&AとUSGA(全米ゴルフ協会)で3月、“エリート競技でのみ、飛ばないボールを使用する”という提案がなされ、選手たちの間でもいろいろな意見が飛んでいる。

飛距離アップは結局は高くつく?!

ローリー・マキロイやダスティン・ジョンソン、ブライソン・デシャンボーら世界のトッププロたちの飛距離は、道具の進化や本人たちのトレーニングの成果で年々伸びているが、それに伴い、大会で使用されるコースの全長も伸びる傾向にある。

ゴルフのルールを統括するR&AとUSGA(全米ゴルフ協会)は今年の3月半ば、飛距離の影響とそれが与える問題に対処するため、エリート競技でのみ、いわば「飛ばないボール」の使用を要求する選択肢を競技の主催者に与える「ローカルルールのひな形」を提案した。

これは、クラブヘッドのスピード毎時127マイル(56・8m/秒)、打ち出し角度11度、スピン量2220rpm(37回転/秒)で放たれた球の飛距離において、現行の標準総合距離の制限である、317ヤード(+3ヤードを許容)を超えてはいけない、というものだ。
R&Aのスティーブ・オットー氏によれば、時速127マイルは、PGAツアーの上位1%のショットを示しているのだそうだ。
これはつまり、最もスイングスピードの速いロングヒッターで、平均飛距離が14~15ヤード減、という計算になるという。
ただし、これを採用するかどうかは、競技を主催する団体に委ねられ、プロのツアー競技、およびトップアマたちの競技などに限られる。
レクリエーションとしての〝遊びのゴルフ〟には影響しない、というわけだ。

この「飛ばないボール」の提案は、今年の8月14日までクラブメーカーや関係者から意見を募っているところで、それらの意見を基に再検討され、もし決定されれば2026年1月から施行される。

ボールの飛距離性能に規制をかけないとコース改造やメンテナンスに費用がかかり設計者本来の意図も損なわれる

©Getty Images

USGA 最高経営責任者
マイク・ワン氏

©Getty Images

R&A 最高経営責任者
マーティン・スランバーズ氏

©Getty Images

R&A 最高技術責任者
スティーブ・オットー氏

なぜ、ボールに規制をかけないといけないのか?

道具の進化によって飛距離が年々伸びることに対し、長年にわたりジャック・ニクラスは、プロレベルでのボールの規制についての変更を求めてきた。
今から10年前の時点でも「ゴルフというゲームは、以前と比べてかなり変化している。それというのもボールの影響だ。もしボールの飛距離性能を戻したら(飛ばなくなったら)、1万7000コースが再び、トーナメントを開催できるようなチャンピオンシップコースとして復活すると思う」と彼は語っている。

ニクラスが語るように、年々道具が進化、とりわけボールの飛距離性能が高まると、その分飛距離は伸び、問題が出てくることも事実だ。
一部の古いコースは距離が短すぎて、トッププロの戦う場所としては使いものにならないものとなってしまうし、設計者の本来の意図が失われてしまうのだ。
だからといって、オーガスタナショナルのように近隣の敷地を購入し、新しいティーインググラウンドを建設することができるコースは少ない。
あるいはボールの落下地点に大きな丘や池、バンカーなどを設置することも飛距離を制限するには役立つかもしれない。
細かなことを言えば、フェアウェイやラフの刈り込みの高さや、芝目の向きなども、そうである。
だが、工事費用だけでなく、水やりなどのメンテナンス、人件費にかかるコストなども増えることになり、ゴルフ場に莫大な負担をかけることになる。

だから大半は、「ドライバーの使えない」ホールとして、フェアウェイウッド、あるいはアイアンで刻むしかなくなる。
一般のアマチュアが遊びのゴルフでプレーする分には問題ないが、プロやトップアマの本格的な競技のための場所としては物足りないのだ。

USGAのマイク・ワン氏は次のように語る。

「このボールの提案は、今日のゴルフに関するものではなく、過去10年、20年、40年の歴史的な傾向を理解した上で、今後20年、40年後にゴルフというゲームが持続できるかどうか、ということ。何もしないでこのままでいると、次世代や世界中のゴルフ場に、その問題を押し付けることになるからだ」

また、R&Aのマーティン・スランバーズ氏は、「私たちの役割は、ゴルフの未来を守ること。それはスポーツとしての誠実さ、優れた結果を生み出すための幅広いスキルの組み合わせ、そして次の20~30年間の環境に対する責任に関してだ。統括団体としての責任は、正しいことを行ない、将来の世代によりよい状態でゴルフを残すことだ」という。
ここで一歩引くことで(ボールに規制を与えることで)、今後10~15年の余裕が生まれるが、マイク・ワン氏によれば「おそらく12~15年後には今の状態に戻る」と言う。
この規則がもし決定した場合、どの競技団体がこのルールを使うかは不明だが、少なくともUSGAの主催する「全米オープン」「全米女子オープン」や「全米アマ」などのエリート競技や、R&Aが主催する「全英オープン」などは新ルールに従うことになるだろう。

©Getty Images

飛距離が年々伸びるに従って、バックティーを下げたり、あるいは、ボールの落下地点周辺にマウンドやバンカーを造るなどの改修工事が必要になる(写真はイメージ)。

飛ばないボールの使用に対するデメリットは?

一方、このルール変更に懐疑的な選手もいる。
反対の声を上げている選手には、ジャスティン・トーマスやブライソン・デシャンボーなどがいる。選手の中には次のように語っている者もいる。

「ゴルフの最も素晴らしいことの一つは、一般のプレーヤーが同じ場所から同じ道具を使ってプレーできること。PGAツアープレーヤーたちが、自分たちの飛距離よりも飛ばなくなるのは誰も見たがらないだろう。ローリーが320ヤード飛ばすのを見るためにプロのゴルフを観戦する人だっている。ファンはこれを望んでいないし、プロも望んでいない。テレビも望んでいないし、メーカーも望んでいない。誰のためのものなのか?」

また、プロとアマチュアが異なるボールを使うことになれば、プロにボールの宣伝をしてもらう必要もなくなり、メーカーからの契約金も少なくなるという危惧もある。
それらの理由もあり、ツアーがR&AとUSGAが提案したガイドラインを基とした勧告を受け入れるかどうかを疑問視しているプロも多いのだ。

ボール規制・反対派

ブライソン・デシャンボー

©Eiko Oizumi

ボールの規制は最もひどいことだ。ゴルファーにとって「不公平」なルールであり、僕のショットに影響を与えることになるだろう。
また、このルールが採用されることになれば、ゴルフの長い歴史と伝統が破壊される。
ゲームの面白さを損なうものだと思う。誰もが選手たちが遠くまで飛ばすのを見たがっているんだ。
僕たちがどれだけ努力して距離を伸ばす方法を学んだかと考えると、大きなハンデであり、ひどいことだ。

ジャスティン・トーマス

©Eiko Oizumi

僕はガッカリはしたけど、驚きはしなかった。
過去、USGAは自己中心的な決断を下し、ゴルフにとっていいことではないことも行なってきたと思うから。
これまでメーカーが最高の製品を作り出すために、時間やお金を費やしてきたのに、また元に戻すようにいうつもりなのか?
時速127マイルでスイングできるなら、それはプレーヤーの能力。
アスリートたちのトレーニングの賜物だ。
ボールの規制を進めることには反対だ。

Text & Photo/Eiko Oizumi
Photo/Getty Images

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