PGAツアーとLIVの統合がアジアの世界ランキングに影響?!
今年の「インターナショナルシリーズ・カタール」で優勝したアンディ・オグレトリー(米国)。LIVゴルファーの一人で、現在、アジアンツアー賞金ランク1位だ。
今年のアジアンツアー開幕戦「サウジ・インターナショナル」で優勝した、LIVゴルファーのエイブラハム・アンサー。
「全米プロ」でLIVゴルフ移籍後、初のメジャーチャンピオンになったブルックス・ケプカ。今年は「サウジ・インターナショナル」などアジアンツアーに数試合、参戦している。
今年「インターナショナルシリーズ・ベトナム」で初優勝したキーラン・ビンセント。日本でもおなじみのスコット・ビンセントの弟で、昨年6月にプロ転向したばかり。
世界ランク・トップ100入りの選手は不在のアジアンツアー
2023年後半に入り、アジアンツアーの賞金王争いが白熱している。
現在、米国のアンディ・オグレトリーが賞金ランキング1位に立っており、それを追う形で、フィリピンのミゲル・タブエナ、日本の金谷拓実、ジンバブエのキーラン・ビンセントが続いている。
また、豪州のウェイド・オームスビー、ケビン・ユアン、トラビス・スミス、タイのサドム・ケーオカンジャナとグン・チャルングン、そして台湾の逸才、タイチ・コーもトップ10入りしており、世界のゴルフ界に名を馳せるほどの存在ではないかもしれないが、彼らは今年、賞賛に値する素晴らしいパフォーマンスを見せている。
しかし、アジアンツアーの賞金ランク・トップ10には、世界ランクでトップ100入りしている選手は一人もいない。
実際、トップ300でもわずか3人しかランクインしていないのだ。
アジアンツアーの主要選手が、世界ランク上位100位以内に入れないという事実は、彼らのプレーのレベルが低いことの表れなのか?
それとも、時代遅れで非民主的なランキングシステムに深い欠陥があることを反映しているのだろうか?
どちらにせよ、これらの厳しい数字はアジアンツアーの競争力やランキングの妥当性、信頼性について、さまざまな問題を提起していると言っていいだろう。
PGAツアー偏重の世界ランキングシステム
世界ランキングは1986年の「マスターズ」の週に発足した。
ベルンハルト・ランガー(ドイツ)が初代1位となり、その後、セベ・バレステロス、ニック・ファルド、グレッグ・ノーマンが1位の座についたが、アメリカ人選手が圧倒的な強さを誇っており、それは今も変わっていない。
実は創設当初から、PGAツアーとその選手に対してランキングポイントが過度に偏って与えられているとの主張もあった。
PGAツアーのメンバーでない選手が世界ランキングで上位に進出するチャンスはほぼ皆無で、現在よりもメジャーへの道が閉ざされていたのだ。
このランキングは、故マーク・マコーミック氏と彼のインターナショナル・マネジメント・グループ(IMG)が考案したもの。
しかし、2004年以降、「公式世界ゴルフランキング(以下OWGR)」という会社によって運営されている。
本部はDPワールドツアー(欧州ツアー)の本拠地であるイギリス・ウェントワースにあり、全米プロゴルフ協会、国際PGAツアー連盟、米国ゴルフ協会(USGA)、PGAツアー、オーガスタナショナル、R&A、DPワールドツアーの7つのメンバーから成り立っている。
ホームページには、「OWGRの目的は、世界中の主要なゴルフトーナメントに参加する男子プロの相対的なパフォーマンスを公正にランク付けするシステムを考案、維持、見直し、更新、管理、認知することを促進すること。
創設以来、ランキングは常に改良されており、世界のゴルフの構造の変化や、選手やツアーからの提案も考慮されている」と記載されている。
世界大会に出場するための選抜基準でもあるOWGR
良くも悪くも、OWGRはメジャーや「オリンピック・ゴルフ」の出場資格の指標として使用されており、さらに「プレジデンツカップ」や「ライダーカップ」のメンバー選出にも一部使用されているほか、多くのツアーが世界各地で開催する大会のツールとしても使用されている。
当初、ポイントを獲得できるツアーはわずか6ツアーだけだったが、現在では24のツアーが認められている。
つまり、それだけゴルフという競技の成長を反映しているということだ。
日本ゴルフツアー機構、アジアンツアー、ISPSハンダ・PGAツアー・オーストラレイジアのほか、オールタイランド・ゴルフツアー、アジアンディべロップメントツアー、中国ツアー、韓国PGAツアー、PGAツアー・チャイナ、タタ・スティール PGTI(インド・プロゴルフツアー)が含まれている。
これらのツアーが認識されることは、明らかに前進ではあるが、ポイントの割り当てが非常に少ないため、選手は複数回勝利してもなかなか順位を上げることができない。
現在、男子プロゴルフ界は、LIVゴルフの台頭により、状況は一層複雑になった。
彼らはOWGRを獲得するため熱心にロビー活動を行なっていたが、72ホールではなく54ホールで開催され、各ホールでのショットガンスタートを採用しているため、その要望は聞き入れられなかった。
しかしPGAツアー、DPワールドツアー、PIF(サウジ政府系ファンド)とそれに関連するビジネス及び権利(LIVゴルフを含む)の統合が発表された今、今後数か月で状況は大きく変わることだろう。
だが、アジアンツアーとそのメンバーにとって、どのような影響があるかは不明であり、追放されたLIVゴルファーが過去のLIVゴルフでの成績に基づいて世界ランクポイントを獲得できるかも、不明である。
なお、アジアンツアーでは、8月に「インターナショナルシリーズ・イングランド」が開催されるが、LIVゴルファーのパトリック・リードやグレアム・マクドウェル、エイブラハム・アンサー、リー・ウエストウッドらが出場する。
この試合から、世界ランクポイントに新たな調整が入るのかどうかも不明だ。
LIV、PIFとアジアンツアーの今後の関係は?
アジアンツアーのコミッショナー兼最高経営責任者であるチョ・ミンタン氏は、今回の変化が最終的にアジアンツアーとそのメンバーにとって有利に働くと確信している。
「アジアンツアーは、PIF、PGAツアー、DPワールドツアーの画期的な発表に関するニュースを歓迎している。おそらくプロゴルフにとって最もエキサイティングな時期となるだろう」
「これはゴルフ界にとって大きな進歩であり、ファン、ブランド、放送局、ツアーおよびそのメンバーにとって素晴らしい結果だ。この非常に重要な進展は、ゴルフサウジとLIVゴルフとの協力により、アジアンツアーの地位向上の実現という、我々の明確な決断を裏付けている。私たちは常に解決策が見つかると確信している」
アジアンツアーのメンバーにとって、公正かつ公平なランキングシステムを通じて自らの地位を向上させる機会が与えられるようになることを祈る。
Text/Spencer Robinson
スペンサー・ ロビンソン
(シンガポール)
ゴルフライター、ブロードキャスターとしてシンガポールを拠点に活動。
アジアゴルフインダストリーフェデレーションの最高コミュニケーション責任者。