• 国境や人種を超えたスポーツの力とゴルフの愉しさをすべての人に。
  1. ホーム >
  2. トーナメントレポート >
  3. 松山英樹が米ツアー9勝目&星野陸也DPワールドツアー初優勝!...

松山英樹が米ツアー9勝目&星野陸也DPワールドツアー初優勝!日本人が欧米ツアーで勝利した2週間

今年の2月、日本のゴルフファンにとって最高に嬉しいニュースが、2週連続で立て続けに舞い込んできた。
星野陸也のDPワールドツアー(欧州ツアー)での初優勝と、松山英樹の米ツアー・2年ぶりの勝利である。
ここでは、2人の歓喜とこれまでの苦悩をお伝えする。

松山英樹、ジェネシスインビテーショナルで米ツアー9勝目

松山英樹(レクサス)
1992年2月25日生まれ。2011年「マスターズ」ではローアマを獲得し、2013年プロ転向。2013年日本ツアー賞金王。2021年「マスターズ」でアジア人初優勝。米ツアー9勝で、アジア人最多記録を樹立。
タイガー・ウッズがホストを務める「ジェネシスインビテーショナル」で、日本人初優勝を遂げた松山。©GettyImages

松山英樹、アジア人最多の米ツアー9勝達成!
世界ランクも35人抜きの20位へ……

最終日の18番ホールの2打目を放つ松山。©GettyImages

過去、丸山茂樹、伊澤利光、金子柱憲と、日本人が優勝争いに挑み、惜敗してきたリビエラカントリークラブでの戦いに、ついに日本人がチャンピオンとしてその名を刻む時がやってきた。

タイガー・ウッズがホストを務める「ジェネシスインビテーショナル(以下、ジェネシス招待)」は、賞金総額2000万ドル(約29億6320万円)、優勝賞金400万ドル(約6億円)という2月3週にリビエラCCで開催されたシグネチャーイベント(昇格試合)。
予選落ちのある、限定数の選手のみが出場できる大会だが、松山は最終日に9バーディ、ノーボギーの「62」という圧巻のスコアを叩き出し、通算17アンダーでホールアウト。
6打差の7位タイからスタートし、大逆転劇を演じて、米ツアー9勝目を飾った。
2022年に「ソニーオープン」で優勝し、ツアー8勝目を達成。
韓国のチェ・キョンジュ(崔京周/KJチョイ)と並び、アジア人最多タイ記録を樹立したが、ついにチェを追い抜き、アジア人最多の米ツアー9勝目を達成した。

「8勝目を挙げてから、ケガとかで(9勝目までが)すごく長く感じてましたし、トップ10入りも全然できなくて、もう優勝もできないんじゃないか、と思ったこともたくさんあった。でもこうして優勝できて、すごく嬉しい。KJさんの8勝を超えることは1つの目標だった」(松山)

なお今回の優勝で世界ランキングは、55位から一気に20位に浮上。
フェデックスカップランキングでは3位にジャンプアップした。
優勝賞金は自己最高の約6億円をゲット。
ツアー生涯獲得賞金額は、合計4853万1991ドル(約72億円)となった。

松山英樹 9勝の歩みと優勝賞金額

2014年メモリアルトーナメント(約1億7000万円)
2016年WMフェニックスオープン(約1億7500万円)
2016年HSBCチャンピオンズ(約2億4300万円)
2017年WMフェニックスオープン(約1億8090万円)
2017年WGCブリヂストン招待(約2億6000万円)
2021年マスターズ(約3億1050万円)
2021年ZOZOチャンピオンシップ(約2億7000万円)
2022年ソニーオープン(約1億6000万円)
2024年ジェネシス招待(約6億円)

ようやく首痛から解放された今年
「今年は上位で戦えそうだ」と実感

優勝会見に臨む松山。「この試合で優勝することは、目標の一つだった」と語った。©GettyImages
表彰式の後で、チームのメンバー(右端は、キャディの早藤将太さん。その他、通訳、コーチ、トレーナー、ツアーレップ)と記念写真。みんな嬉しそう!©GettyImages

今まで悩まされていた首痛も、今ではストレスフリー

米ツアー3勝の丸山茂樹から、「アジア人の最多優勝が8勝なので、早くKJの8勝を抜いてくれ」と言われていた松山。
2022年「ソニーオープン」で優勝し、タイ記録の8勝に並んだが、その後は首痛などを理由に試合を棄権、あるいは欠場することも何度かあった。
昨年はフェデックスカップ・プレーオフ第2戦「BMW選手権」の2日目に背中の痛みを感じ、大事をとって棄権。
ツアーエリート30名のみが出場できる、フェデックスカップ・プレーオフ最終戦「ツアー選手権」への10年連続出場がかかっていたが、その出場はかなわず、シーズン終了となった。
「10年(連続)出場を目指してたんですけど、優勝も出来ず、悔しい」と松山は語っていた。

体の痛みに悩まされた2023年。
思うように練習も出来ず、ショットやパットに苦しんだことも。
そんな未勝利の2年間を「ジェネシス招待」優勝後に振り返り、「あっという間に2年間が過ぎたな、という感じもある。それはたぶん痛みと戦ってきたというのもあるし、やることがいっぱいある中で、それを一つ一つこなしてきたから、そう思うのかもしれない」と心中を明かした。

だが、今年に入って首の痛みについては「寝る時に痛みの不安を感じることなく眠ることができていた」そうで、「もうちょっとしたら上位で戦えるんじゃないかな」と思っていたという。
去年まではいつ痛みが再発するのか?と不安を感じながらプレーしていたというが、今年はそうした痛みの心配をすることなく、プレーできていると語った。

「9勝目ができたんで、(勝利数を)2ケタに乗せたいという気持ちも強いし、やっと世界ランキングも下げ止まったので、よかったなと思う」とニッコリ。
55位まで下がった世界ランキングも、今回の優勝で20位まで一気にジャンプアップ。
35人抜きで、再び世界のエリートプレーヤーの目安でもあるトップ50内に入ってきた。

「タイガー・ウッズと表彰式で写真撮影できず残念!」

リビエラCC・9番ホールのティーショットを放つ松山英樹。©Eiko Oizumi

ショートゲームに助けられた4日間

最終日に62をマークし、コースレコードまであと1打、と迫ったが、結局、記録樹立とはならなかった。

「ショットは望んでいるものとはかけ離れていたけど、この4日間、パッティングにすごく助けられた。いつもショットの良さが評価されるけど、今日はパットやショートゲームがよくて、このスコアを出せた。これだけショートゲームだけで優勝できたのは初めて。このショットでも勝てるんだという自信もついたし、パッティングももっと磨かないといけないと改めて思った」

ショットメーカー、特にアイアンの精度の高い選手のイメージが強い松山は、「ショットはいいけど、パットが……」と言われることも多いが、今大会では「ショットがバタバタで、そのおかげでパッティングにずっと集中できた」そうだ。

2年ぶりの優勝に大きな喜びを感じた松山だが、たった一つ、残念に思うこともあった。
大会ホストのタイガー・ウッズが、インフルエンザに感染し、表彰式に姿を現さなかったことだ。
通常、タイガーが優勝者へトロフィーを渡し、記念撮影を行なうことになっているが、今年はあいにくホスト不在。
「この試合で優勝することは、目標の一つだったし、タイガーがホストになってから、なおさらその気持ちが強くなった。今日、一緒に写真を撮りたかったんですけど、残念でしたね」と優勝後の記者会見冒頭で語っていた。

今大会の後は、「アーノルド・パーマー招待」「プレーヤーズ選手権」とビッグイベントが続く。
そして4月中旬には今季メジャー第1戦「マスターズ」だ。
ショットの調子が今ひとつ、という状態ながらも、他の選手を圧倒し、今回のような爆発的な勝ち方ができた松山なら、メジャー優勝にも期待が持てる。
まずは「マスターズ」での活躍に期待したいところだ。

ジェネシス招待 最終成績

優勝松山英樹−17
2位ウィル・ザラトリス
ルーク・リスト
−14
4位アダム・ハドウィン
パトリック・キャントレー
ザンダー・シャウフェレ
−13
7位ハリス・イングリッシュ−12
8位トム・ホギー−11
9位ジェイソン・デイ−9
10位トミー・フリートウッド
サム・バーンズ
スコッティ・シェフラー
エリック・コール
アダム・スベンソン
J.T.ポストン
−8
19位ビクトル・ホブラン−6
24位ローリー・マキロイ−5

予選落ち:ジャスティン・トーマス
棄権:タイガー・ウッズ
失格:ジョーダン・スピース

星野陸也、コマーシャルバンクカタールマスターズでDPワールドツアー初優勝

星野陸也(興和)
1996年5月12日生まれ。2016年プロ転向。日本ツアー6勝、欧州ツアー1勝。2020年東京オリンピックゴルフでは、日本代表として松山英樹とともに出場。
カタール文化の象徴である、真珠をかたどった大きなトロフィーを掲げる星野。©GettyImages

ついにDPワールドツアー初優勝を飾った星野陸也
久常ルートで来季のPGAツアー入りを目指す

昨年からDPワールドツアーに本格参戦している星野。薬丸龍一キャディ(左)とともに、世界を股にかけ戦う。©GettyImages

今季3度目の優勝争いでつかんだ欧州ツアー初V

日本ツアーで6勝を挙げ、昨年からDPワールドツアー(以下、欧州ツアー・DPWT)に本格参戦している星野陸也が、松山英樹が米国で優勝する前週の2月2週目にカタールのドーハGCで開催された「コマーシャルバンク・カタールマスターズ(以下、カタールマスターズ)」でDPWT初優勝を飾った。
欧州ツアーの試合では、昨年9月に優勝した久常涼以来の日本人優勝。
青木功、松山英樹、久常涼に次ぐ、日本人4人目の欧州ツアー制覇となった。

「去年は2回優勝争いをして、2位と惜しい試合があったので、今回、優勝できて嬉しい。『カタールマスターズ』は日本人が優勝したことがない試合なので、これからに生きる大切な優勝です」

昨年の11月、DPWTの開幕戦「フォーティネット・オーストラリアPGA選手権」と「ISPSハンダ・オーストラリアンオープン」でいきなり2週連続で優勝争いし、いずれも2位に入賞。
特に「オーストラリアンオープン」では、ホアキン・ニーマンとのプレーオフにもつれ込み、あと一歩のところで優勝を逃した。
だが、この2試合で来季(2025年)のシード権も確定させ、「全英オープン」出場権もゲット。
今年に入り、「ドバイデザートクラシック」「ラス・アル・カイマ選手権」とドバイ2連戦で予選落ちを喫したが、その翌週の「バーレーン選手権」で12位タイに入ると、再び好調の波に乗り、翌週の「カタールマスターズ」でついに優勝した。

「今年に入ってドバイでちょっとつまづいてしまったんで、バーレーンから巻き返したいと思っていた。緊張はしたけど、楽しむことを意識した。最後は少ししびれてしまったけど、勝ててよかった(笑)」

狭いコースに対応できるよういろいろな球筋で攻められるように

昨年から持ち球のドローボールに加え、フェードボールでもしっかり攻められるように、スイングを改造。©GettyImages

星野は昨年、体力的にも精神的にもキツかったのだという。
試合に毎回出られるわけでもないので、ウェイティングの日々が続き、海外の食事が合わず、体重も5キロほど減ってしまったという。
帰国した際は、体重を戻すために「めっちゃくちゃ食べた」そうだ。
だが、今年は食事にも慣れ、ツアーの半分近くは去年経験したコースなので、「去年とは違った気持ちで臨める」という。
また、昨年末のオーストラリアでの優勝争いを経験したことで自信がついたことも大きな変化で、「去年は自信がなくて攻めきれない部分があったけど、今年は優勝したいし、去年1年間の経験を活かして、試合に臨みたい」と語っていた。

また、彼は「欧州ツアーのコースはすごく狭いイメージなので、あまり攻めすぎても危険。今まではドロー一辺倒だったけど、去年からフェードも打てるように練習し、それがものになってきた」と言う。
欧州の選手は、距離の長いパー4で、ティーショットでライン出しをしながら攻める選手が多いそうで、以前の星野のようにドロー一辺倒の攻め方では、曲がってしまうことも。
そこで去年の後半から、スイングを変化させながら、フェードボールの習得にも力を注いだ。

好成績を出しながら体を休めるのが理想

DPWTは、欧州だけでなく、アフリカ、アジア、オーストラリア、アメリカにも転戦する「ワールドツアー」。健康第一で、体力がものをいうツアーだ。
だから、今の順位を下げたくないからといって、連戦していては身が持たない。

「成績を出して、休めるのが理想。本当は全部出たいという思いはあるが、体やスイングの調子を整えながら、転戦に備える必要がある」

その上で、星野の掲げる目標は、DPWTのレース・トゥ・ドバイランキングで上位に入り、50人が出場できる最終戦「DPワールドツアー選手権」に出場すること。
そして、久常涼のように有資格者以外の上位10名に入り、来季からPGAツアーへ行くことだ。
「常ちゃん(久常)が去年、ポポポーンとスムーズにPGAツアーに行ったので、自分もそういうルートを目指したい」と久常に刺激を受けている。
優勝直後のデータでは、レース・トゥ・ドバイランキングでローリー・マキロイに次ぎ2位。
PGAツアー枠では1位にいる。

世界中を旅していると人生観が変わる

最後のパットを沈めて、優勝を決めた瞬間、安堵の表情を浮かべる星野。©GettyImages
今年はDPワールドツアー6シーズン目の大先輩・川村昌弘(右)と、昨年の日本ツアー賞金王であり、DPワールドツアー1年目の中島啓太(右から2番目)とともに転戦し、食事にも一緒に出かける星野(左から2番目)。

DPWTで6シーズン目を迎えている川村昌弘同様、星野も旅(歴史)が好きで、転戦の合間に観光を楽しんでいる。
彼のLINEのアイコンは、ベルギーのフランダースの犬でおなじみの教会前で撮影された写真だ。

「今年は、スコティッシュオープン以外は全部出られるので、イタリアオープンに行くのも楽しみ。ギリシャとかオーストリアにも行ってみたいですね。その国の文化や人々、食べ物、考え方にも発見があるので、世界は広いなと思うし、人生観も変わる」

星野は、転戦していくうちに知識も増えるし、心が広くなったような気がするという。
日本では自分のプレーにイライラすることもあったが、今では感覚も変わり、「良い意味で鈍感になった」と語る。
試合でうまくいかないと、もちろん苦しいことには変わりはないが、それでも、ゴルフ以外のことに楽しみを見出したり、何が起きても気持ちを切り替えられるようになったという。

DPWTは、どのツアーよりも世界を股にかけながら1年間フルに戦う、過酷な舞台。
ゴルフの技術も、人間力や精神力も、この舞台だからこそ磨かれるものがある。
それと同時に世界各国の文化や歴史も楽しめるという旅を続けている。

コマーシャルバンクカタールマスターズ 最終成績

優勝星野陸也−14
2位ウゴ・クサウド−13
3位スコット・ジェイミソン−12
4位トム・マッキビン−11
5位ホルヘ・カンピーヨ−10
6位ラスムス・ホイガード
ポール・ワリング
アントイン・ロズナー
−9
9位イワン・ファーガソン
ハイドン・バロン
呉阿順
リチャード・マンセル
−8
16位川村昌弘−6
33位中島啓太−3

Text & Photo/Eiko Oizumi
Photo/Getty Images

Text/Eiko Oizumi

大泉英子

「ゴルフ·グローバル」編集長。海外メジャー取材は男·女·シニア合わせて130試合以上。現在も海外ツアーをメインに取材。全米ゴルフ記者協会、欧州ゴルフ記者協会、日本ゴルフジャーナリスト協会会員。

関連する記事