LIVゴルフ行きを決めたステンソンに代わり、ルーク・ドナルドが「ライダーカップ」欧州キャプテンに就任
Luke Donald
ルーク・ドナルド(英国)
1977年12月7日生まれ。米ツアー5勝、欧州ツアー6勝、日本2勝。2011年には史上初の欧米両ツアー賞金王に。世界ランク最高位は1位。
2004年、2006年、2010年、2012年に「ライダーカップ」欧州代表として出場。2021年大会では副キャプテンを務めた。
2023年「ライダーカップ」のキャプテンに就任していたが、LIVゴルフメンバー入りしたことで、キャプテンを解任された、ヘンリク・ステンソン。
「ライダーカップ」ではおなじみの、欧州チームのベテランたち。L・ウエストウッド、I・ポールター、S・ガルシア(左の3人)はLIVゴルフに参戦中で、「ライダーカップ」への参加資格はないものとみられている。右は今回キャプテンに就任したルーク・ドナルド。
米国チームも羨んだ欧州チームの結束の崩壊
選手たちはポイントをゲットすると拳と拳を突き合わせ、観客からは「オーレ、オーレ」の大合唱。
いつも話題にのぼるのは、「ライダーカップ」欧州チームメンバーたちの、特別な絆であったはず……。
いわゆる「ミスター・ライダーカップ」と呼ばれるイアン・ポールター、セルヒオ・ガルシア、リー・ウエストウッドらが、LIVゴルフ入りした今、すべてが虚しく思えてくる。
今思えばこの20年間、2年に一度の米国との戦いで自分たちが優勢を維持してきたという欧州チームのプロパガンダを信じた私たちが甘かった。
圧倒的に格上の、米国のスーパースターたちを相手に、自分たちの重量以上のパンチを繰り出す勇敢な男たちの熱狂に、私たちはどれほど興奮したことだろう。
不利な形勢を逆転させ、酒に酔ったファンの熱狂を掻き立ててきた彼らの能力を、私たちはどれほど誇らしく思ったことだろう。
欧州の勝利に対する彼らのひたむきさと、チームメイトを失望させたくないという気持ちに感動したものだ。
欧州のレジェンドたちが、「ハメルンの笛吹き」に誘われたネズミのように、いそいそと金に釣られてLIVツアーへ行ってしまったのだから、そんな彼らを信じたことをファンは虚しく感じている。
グレアム・マクドウェル、ポール・ケーシー、マーティン・カイマーと、次々と「ライダーカップ」のヒーローたちのLIV行きが続き、DPワールドツアー(欧州ツアー)本部では、裏切られた感が強まるばかりだった。
「ライダーカップ」主将を辞してまでLIV入りを決断したステンソン
しかし、本当に驚いたのは、ヘンリク・ステンソンが「ライダーカップ」欧州キャプテンの座を辞し、LIVに加わったことだ。
彼の声明は、自分がキャプテンの座に留まることもできたはずだと示唆していたが、説得力はなく、欧州チームの上層部に責任転嫁しようとする、恥知らずな二枚舌だった。
ニュージャージー州ベッドミンスターで行なわれた自らのLIVデビュー戦で、彼は次のように述べた。
「(ライダーカップのキャプテンを)あきらめたわけではない。キャプテンの任務を果たせるよう、できるだけ準備をしてきたし、それを可能にするためにLIVから大きな援助を受けている。それでも、私は解任された。この状況にはガッカリしている」
以前、「キャプテンを務めるということは、LIVゴルフに参戦しないという約束をするということか?」と聞かれたことがあった。
「キャプテンは契約書にサインをするが、そんなことをするのはキャプテンだけで、選手や副キャプテンはサインする必要はない。キャプテンは『ライダーカップ』欧州と契約しているので、私はキャプテンとしての役割を全うし、ローマで期待に応えられるよう、一生懸命頑張る。いろいろな憶測が飛び交っているが、先ほども言ったように、私はキャプテンの座と『ライダーカップ』欧州の名にかけて目の前のやるべきことに全力を尽くしている」
しかし今やもう、ステンソンはキャプテンではない。
彼がLIVゴルフから数百万ドルを手にする一方で、残されたダメージを修復するキャプテンの仕事は、過去の失意から「ライダーカップ」に背を向けてもおかしくない人物に託されたのだ。
元世界ランク1位のルーク・ドナルドが新キャプテンに
2014年、グレンイーグルスでの「ライダーカップ」にキャプテン推薦で出場することはできない、と元世界ランク1位のルーク・ドナルドが知らせを受けたとき、かなり落胆していた。
当時のキャプテン、ポール・マギンリーはドナルドとの個人的な友情に、ひずみをもたらしたことを認めている。
威勢の良いポールターや少年のようなガルシアに比べると、ドナルドは静かな性格の持ち主であることが、不利に働いたのだろう。
彼が冷遇されたのはこれだけではない。過去2回の大会では、いずれもドナルドがキャプテン候補に挙げられたにもかかわらず、パドレイグ・ハリントンとステンソンがキャプテンに選ばれたからだ。
そして今、大会前から、ステンソンの行動によって、深刻なダメージを受けた組織を再結成し、再建する任務を任されたのだ。
しかも、LIVゴルファーが、欧州ツアーのメンバーとしてのステータスを維持できるかどうかによっては、ドナルドが前任者のステンソンを選手として管理する立場に立つ可能性はまだあるのだ。
ガルシアは、「ライダーカップ」の参加資格の状況が裁判所を通じて明らかになるまで、DPワールドツアー(欧州ツアー)の会員資格を辞退しない、と述べている。
もしLIVゴルファーに有利な決定が下された場合、ドナルドはホームツアーを離脱した者とホームツアーに忠誠を誓った者が混在するチームをどうまとめるのだろうか?
彼は、「一体感」という言葉を特に強調しながら次のように語った。
「12人編成の強くて一体感のあるチームを作ることが必要だ。これから14か月間、努力するつもりだ。LIVのことについてはまだわからないが、今後数か月の間に、何らかの決断を下すことができるようになればいい。ライダーカップのキャプテンになる機会を与えられたことは、私のゴルフ人生において最高の栄誉の一つだ」
しかし、どんなに金を積まれても、ステンソンのように辞任することはないと、ドナルドは明言している。
「私は契約書にサインし、それを遂行するつもりだ。向こう14か月間、キャプテンの座にいることを約束する」
ポールターら、派手な欧州チームの選手たちほど快活ではないが、ドナルドの物静かな行動には、はるかに説得力がある。
Text/Euan McLean
ユアン・マクリーン(スコットランド)
スコットランドを拠点に欧州ツアー、海外メジャーを過去20年以上に渡り取材。