PIPボーナス獲得と昇格試合への出場で
PGAツアー選手は大忙し
賞金総額1050万ドルをかけて、78名の選手で争われた2022年「CJカップ」。2021~2022年フェデックスカップ総合優勝のローリー・マキロイが2連覇を果たした。
世界のトッププロをも魅了
予選落ちなしの高額賞金試合
2023年のPGAツアーは新しいものになる。
なぜなら、大半のトーナメントで賞金が増額し、ビッグネームがもっと出場するようになるなど、私たちが過去見慣れているものとは大きく異なる仕組みとなるからだ。
フェデックスカップ・プレーオフ3試合も、1戦目に出場できる人数は、125名から70名に減らされ、GOLFTVによるPGAツアーのゴルフ中継はなくなる。
昨年、サウスカロライナで開催された「CJカップ」は、今年のPGAツアーの昇格試合がどのようなものになるかを、いち早く教えてくれた。
パンデミックの影響で、本拠地である韓国を離れ、2年間ラスベガスで開催された後、10月下旬にコンガリーGCで開催されたこの大会には、世界上位20名の選手のうち、15人が出場。
PGAツアーの2022年最後を締めくくる大会の中では、群を抜いたものだった。
「CJカップ」は、1050万ドル(約14億3500万円)の賞金総額と78人の選手のみで行なわれ、予選はなく、全員が賞金を手にした。
LIVゴルフとその限られた出場選手人数(48名)、高額賞金についてどう思うかはさておき、このような大会がトッププレーヤーたちを魅了することは否定できない。
今回の「CJカップ」では、トップ20入りを果たせば13万ドル(約1800万円)超を獲得できた。
優勝して2020年夏以来の世界ランク1位に返り咲いたローリー・マキロイは、189万ドル(約2億6000万円)をゲット。
予選落ちのない高額賞金試合に、世界ゴルフ選手権(WGC)が4大会から1大会に減る前に、参加資格のある選手の大半が顔を揃えたのだ。
保証された高額賞金がかかった試合を、無視することはできない。
PIPボーナスを受けるために課される条件と矛盾
今年から、4大メジャーと「プレーヤーズ選手権」以外の12の昇格大会が開催されるが、1年間にわたる「プレーヤー・インパクト・プログラム(年間を通じてファンやスポンサーへの人気に貢献したトップ10の選手にボーナスを支払うプログラム・以下PIP)」の140億円相当のボーナスを受ける資格を得るには、選手は参加資格のある全ての昇格大会に出場しなければならなくなった。
そしてツアーは、「職業上または個人的な理由」によって昇格大会、またはツアーが指定大会と呼ぶものの一つを欠場しなければならない選手に対して、一度の「不参加」を認めると発表した。
PIPの獲得候補としてよく挙げられるのが、リッキー・ファウラーだ。
しかし、彼は2022年の大会で優勝しておらず、昨年度のフェデックスカップランキングで30位以内に入っていないため、昇格大会の一つ「セントリートーナメント」への出場資格はない。
そのため、獲得の資格を満たせない可能性がある。昨年のファウラーは、23人のPIP獲得候補選手の一人で、200万ドル(約2億8000万円)のボーナスが支払われることになっている。
一方、ローリー・マキロイは、昇格大会のすべてに出場資格があり、さらに自身が選択する他の3大会を追加する必要がある。
昇格大会は全12試合
GOLFTVでの視聴は不可能
PGAツアーは、今後数年において、毎年の開催が期待される4つの昇格大会を発表した。
「WMフェニックスオープン」、「RBCヘリテージ」、「ウェルズファーゴ選手権」、「トラベラーズ選手権」だ。
この4大会は、すでに発表されている「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ(以下セントリーTOC)」、「ジェネシス招待」、「アーノルド・パーマー招待」、「WGC・デルテクノロジーズ・マッチプレー選手権(以下WGCマッチプレー)」、「メモリアル・トーナメント」、「フェデックス・セントジュード選手権(以下フェデックス・セントジュード)」、「BMW選手権」、「ツアー選手権」の8大会に追加される。
これらの大会は、2019年に初めて発表された「GOLFTV」という定額制ストリーミングサービスでは、観戦できなくなる。
ディスカバリー社の一部として報道で取り上げられている、このベンチャーは、2022年後半にそのサービスを終了することを発表した。
それが今後どうなるのかは、不明である。
予選落ちなしで出場人数が少ない試合はLIVゴルフと何が違うのか?
2023年以降、昇格大会を増やし、賞金を増額する意向を昨年8月に伝えたPGAツアーコミッショナー、ジェイ・モナハン氏。
「セントリーTOC」、「WGCマッチプレー」、「フェデックス・セントジュード」、「BMW選手権」、「ツアー選手権」の5つの指定大会は、予選落ちなしの大会だ。
「ジェネシス招待」、「アーノルドパーマー招待」、「メモリアル・トーナメント」の出場人数は120名。後者の3つの招待試合は出場人数を減らし、202
4年から予選落ちなし、となることが噂されているが、これはLIVゴルフを支持する人たちの思うつぼであり、「LIVゴルフと何が違うのか?」ということになる。
この計画は失敗に終わる可能性も高い。出場人数を減らし、予選落ちなし、とするというアイデアは、これ以上そのような試合を増やしても不安材料が増すだけだと、大いに酷評されている。
一方現状では、フェデックスカップ・プレーオフは、すべて予選カットなしの大会に規模が縮小され、初戦の「フェデックス・セントジュード」に出場できる人数は70人、「BMW選手権」は50人、「ツアー選手権」は30人が出場できることになっている。
これらは良い変化だといえるだろう。
なぜなら、プレーオフの出場権を得ることに重点を置き、実際にもっと多くの試合でプレーする人が増えるかもしれないからだ。
2024年になると、出場権を得るための大会が少なくなるので、良いプレーをしなければならないというプレッシャーがかかるだけでなく、巻き返しを図るための時間が少なくなることも意味する。
しかし、計画を始めるには明らかに潜在的な落とし穴があり、そのいくつかは簡単には避けられないものだ。
「自分の人生を好きなように生きるため、ボーナスを諦める選手もいるだろう」
―スコッティ・シェフラー
テキサス出身で、地元の試合に出場することを望むスコッティ・シェフラー(左)とジョーダン・スピースは、今年はテキサスの試合も含め、5週連続出場、ということもあり得るという。
例えば、2月の「WMフェニックスオープン」を皮切りに、指定大会のすべてに出場する選手は、「マスターズ」翌週の「RBCヘリテージ」まで10週中、7週プレーすることになる。
「RBCヘリテージ」と「トラベラーズ選手権」の2つの昇格大会は、メジャーの翌週に開催される試合で、「アーノルド・パーマー招待」は、「プレーヤーズ選手権」の前週に開催される。
つまり、PIPのボーナスを獲得するためには、この一連の試合に出場しなければならず、特別な理由がない限り休むことはできない。
また、スコッティ・シェフラーやジョーダン・スピースのように、地元テキサスの大会でプレーすることを望むのであれば、「ウェルズファーゴ選手権」、「AT&Tバイロン・ネルソン(テキサス)」、「全米プロ(メジャー)」、「チャールズ・シュワブ・チャレンジ(テキサス)」、「メモリアル」を連続してプレーすることになる。
PIPの争奪戦から手を引くことを考える選手も出てくるかもしれない、とシェフラーは言う。
「それがバケーションであろうと、ただ休みを取るだけあろうと、皆にとってバランスを取るのが厳しくなると思う。それは少し難しい決断かもしれないが、きっとみんなPIPボーナスを諦めることを厭わないだろう。自分の人生を自分が生きたいように生きることは、何ものにも代え難い価値がある」(シェフラー)
スピースもその意見に同調。
「ダラスの2大会に出場したいと思う、僕やスコッティ、ウィル・ザラトリスなど数名の選手は、5大会連続で出場することになるという状況になっているが、僕はこれを一度やったことがある。4大会以上連続で出場したいとはあまり思わないが、地元の大会が大好きだし、それらの大会で本当にいい成績を残している。『ウェルズファーゴ』(クエールホロー)のコースでは、昨年『プレジデンツカップ』でプレーし、5戦5勝を飾っているからね。だから、その後『全米プロ』に出て、ジャックの試合(ニクラスがホストを務める)『メモリアルトーナメント』にも出る。そうなると、おそらく5週連続になると思う」と語った。
こういう問題は、前から想定はできていた。だが、PGAツアーとそのコミッショナーのジェイ・モナハン氏は、昨年8月のフェデックスカップ・プレーオフの最中にタイガー・ウッズとローリー・マキロイによって行なわれた選手会のミーティングの後に、急遽このプランを思いついた。
モナハン氏は「ツアー選手権」で新体制を発表し、来年の日程もすでに発表済みである。
今後、いくつかの変更が行なわれる可能性もあるが、おそらく、いくつかの日程がシャッフルされ、他のトーナメントが昇格大会になることで、賞金を分散させることができるようになるだろう。
一つ注意しなければならないのは、PGAツアーが昇格を希望する試合に関しては、タイトルスポンサーからの同意と、その試合を実施できる日程が必要だということだ。
通常の試合と昇格試合との賞金の差はおよそ1200万ドル(約16億円)。
これをどこからか捻出しなければならないが、全部が全部、PGAツアーからではないだろう。
どういう展開になっても、2023年のPGAツアーはこれまでとは違ったものとなる。
Text/Bob Harig
ボブ・ハリグ(アメリカ)
ESPN.comシニアゴルフライター。25年以上に渡り、ゴルフトーナメントの取材を続けている。全米ゴルフ記者協会会員。
Photo/Getty Images