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【世界のゴルフ通信】From Europe PGAツアーに欧米ツアーが乗っ取られる?

アメリカPGAツアーにヨーロピアンツアーが乗っ取られる!?

PGAツアー(米国)コミッショナーのジェイ・モナハン氏(左端)とヨーロピアンツアーCEOのキース・ペリー氏(右端)。2018年「全英オープン」会場にて。左から2番目は当時のアジアンツアーCEOのジョシュ・バラック氏、右から2番目は南アフリカ・サンシャインツアーのエグゼクティブディレクター、セルウィン・ネイサン氏。

 

「コロナ禍では、互いに 競い合うのではなく、良いところを共有し協力し合うことが必要」

ヨーロピアンツアーCEO/キース・ペリー

 

©︎European Tour
©︎European Tour


昨年の「サウジインターナショナル」はグレアム・マクドウェルが優勝。本大会はヨーロピアンツアーの試合で、ロイヤルグリーンズG&CCで開催。後ろに見える美しい海は紅海。現在、サウジアラビアは、ゴルフ事業に注力している。

 

米国に有利!?
欧米ツアーの提携の実態

新型コロナウイルスのパンデミックが世界の活動を停止させた一方で、ゴルフ界のリーダーたちが以前から構想していた変革を実施するきっかけになったとも言える。

アメリカに拠点を置く米国・PGAツアーにより、ヨーロピアンツアーとの大胆な新戦略的提携に関する発表が行なわれたが、ヨーロピアンツアーのキース・ペリーCEOは、「合併」、あるいはあえて誰も言わないが「乗っ取り」といった言葉がささやかれていることにいら立ちを隠しきれない。

しかし、ペリー側から今までに提供された非常に限られた情報を見直すと、観測筋がそのような結論に達したこともあながち理不尽なことではない。

普段はトレードマークである明るいヨーロッパ風のブルーの眼鏡をかけて活躍している、快活なショーマンであるペリーにしては、カナダ人らしくもない用心深さがうかがえるもので、今回の発表は、「答え」よりも多くの「疑問」を残すものであった。

まず我々がわかっていることは、2021年のシーズンに実施予定の戦略的提携において、ペリーとPGAツアーのコミッショナーであるジェイ・モナハンは、コラボできるあらゆる面を模索し、トーナメントスケジュールや放映権などを含む商業機会について協力し合うということである。

ただ、この提携には、コンテンツを制作し、世界に発信しているヨーロピアンツアー内の放送会社である「ヨーロピアンツアープロダクションズ」の株式の20%をPGAツアーが取得することも含まれている。

だが、問題なのは、アメリカ人の最高指導者であるモナハンがヨーロピアンツアーの取締役になるのに対し、ペリーにはPGAツアーにおける同等の地位がオファーされていない点である。

このため、この「政略結婚」において、誰が主導権を握っているのかは明らかである。

「これは合併ではない。PGAツアーはライバルからパートナーに変わるだけだ」とペリーは主張しているが・・・・。

経済状況の好調を主張するペリーに対して世論は……?

しかし、相互財産権や影響力という見返りを与えることなく、今や多大な財産と重要な発言権を所有し、より多くの資金力を持っている者をパートナーと呼べるのか?

また、ペリーのような有能なセールスマンは情熱を持って語る術は知っているが、果たして本当に説得力はあるのか?

今回の場合、説得力があるとは思えない。なぜなら、PGAツアーの乗っ取りは避けられないようだというSNSの書き込みに対する彼の反論に、みな納得できないからだ。

ペリーは乗っ取りに関する噂について、「ビックリしているし、うんざりだ」と述べている。

「ずっと長い間語られている噂話は、なんの事実の裏付けもない。我々は決して財政的困難に直面しているわけではない。そのような話は真実ではないんだ。我々の財政状況は、今までにないほど好調で、非常に安定している」

今年余剰人員となったヨーロピアンツアーの従業員68名は、組織の経済状況が今までで最も好調だと主張するなら、どうして我々は解雇されなければならないのかと疑問に思うだろう。

しかし、財政状況がどのようなものであれ、この議論は長年予想されてきたパートナーシップの誕生に辿り着く。

だが、重要な点は、今後ますますグローバル化が進むゴルフという競技にとって何を意味するかである。

欧州ツアー選手のビッグイベントへの出場が困難に?

機密保持の契約により、今の時点で詳細な内容を発表することはかなり制限されているが、両ツアーによる共催試合の開催はありうると認めている。

だがこれによって、欧州ツアーの試合に出ている中堅以下の選手たちにとって、賞金額の高い大きな試合に出ることは難しくなる。

なぜなら大きな大会には米国の強豪が参戦するようになり、欧州の選手たちの出場枠が狭まるからだ。

今回の提携によって、PGAツアー選手を大金のかかったビッグイベントから排除することができるのであれば、欧州ツアーの二流選手に降格するかもしれないと恐れているメンバーたちはホッとするだろう。

しかし、アジア、南アフリカ、オーストラリアなど他のツアーの選手も、欧米ツアーの提携が彼らに与える影響について疑問視しているはずだ。

この新しい提携による最大の負け犬が誰になるかについては、疑いの余地はない。

サウジアラビアに恩を仇で返された欧州ツアー

©Getty Images

昨年の「サウジインターナショナル」には豪華選手が招待された。左からイアン・ポールター、ブルックス・ケプカ、ダスティン・ジョンソン、パトリック・リード。

昨年の2月に、新しく発足されると言われていた「プレミアゴルフリーグ」は、ヨーロピアンツアーの「サウジ・インターナショナル」の試合会場で、「新ワールドツアー」として発足することを明らかにした。

この、サウジマネーでがっちりサポートされた「プレミアゴルフリーグ」発足のタイミングは、これまでサウジアラビアに対して主要投資家を提供してきたヨーロピアンツアーに対して恩を仇で返す恥知らずな行為であった。

フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソンなど、市場価値の最も高いスター選手たちのリーグ入りを狙い、試合前のプロアマ戦を使って口説いていたのである。

だが、20年前にワールドツアーを新たに発足しようと試みた、「全英オープン」チャンピオンのグレッグ・ノーマンの参加も、変革の時がやっと来たというレトリックを強調しただけであった。

そしてその発表から1カ月以内にコロナパンデミックが発生。その結果、欧州ツアーは財政的ダメージを受け、現状維持するのもやっと、という状況である。コロナは同ツアーをより脆弱にした。

そして今もサウジアラビアは、スター選手たちを誘い込む計画を推し進めていると報告されている。

コロナが推し進めた欧米統合のチャンス

ペリーは語る。

「私は常に、ゴルフ界は分裂し過ぎていると言ってきた。今こそ皆が連携する時だ。コロナ禍は多くの難問だけでなく、チャンスをももたらした。我々はコロナ禍で、より多くの時間を出張旅行にではなく、話し合いに費やし、一番よいやり方をお互いに共有し始めたんだ」

「コロナ禍では、互いに張り合うのではなく、協力し合ってそれぞれが持つスキルや最もよいやり方、ビジネスの流れを統合すべきであることを教えてくれた」

今、ペリーに課された大きな挑戦。

それは、この提携から完全に同等でなくとも、少なくとも応分の対価を受けられるようにまずは立場を好転させることである。

 
 

 

Text/Euan McLean

ユアン・マクリーン(スコットランド)

スコットランドを拠点に欧州ツアー、海外メジャーを過去20年以上に渡り取材。

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