タイガー・ウッズのマスターズでの復活優勝から3日。まだあの勝利の余韻が冷めやらぬゴルフファンも多いだろう。今回の勝利によりマスターズ5勝、メジャー15勝、ツアー通算81勝を達成したわけだが、米国のみならず、日本のスポーツ紙でも1面で大々的に報じられ、テレビではワイドショーなどでこれまでのタイガーの経歴や、山あり谷ありの私生活を振り返って、じっくりと特集を組んでいた。こんなところにも、タイガー・ウッズの存在感の大きさと偉大さ、彼が数日前に達成したことがいかにすごいことだったのかを改めて感じる。
今思い返しても、最終ホールで彼が勝利のパットを決めた瞬間のあのガッツポーズと、雄叫びは、近年見られなかった興奮度合いだった。本人もあとでこのシーンを振り返り「何を言ってたのか自分でもわからないくらい、興奮していた」と語っている。昔のタイガーは、派手なガッツポーズや雄叫びがトレードマークのようなものだった。なかには「試合中に、急にあんなに力んだガッツポーズをしては、その後のスイングに悪影響を与えるのでは?」と余計な心配をする人もいたほどだ。静のスポーツ「ゴルフ」で、あれだけ躍動感あふれるアスリート選手も過去いなかったはずである。それが最近では、そこまでの興奮みなぎるプレーができなかった、ということもあるだろうが、年齢を重ねるとともに動きは大人しくなり、バーディを取っても顔色ひとつ変えず、体で思い切り喜びを表現することはなかった。だから、優勝が決まり、彼の喜びが最大限にスパークしたあの瞬間、一気に過去背負っていたものから解放され、11年ぶりにやっとメジャーで勝てた喜びが自然とあのような力強いガッツポーズと雄叫びで湧き出たのだろうと思う。やっと勝てた! しかも二人の子供たちの前で、強い父親を初めて見せることができた! と……。
マスターズ 最終日
2019年4月14日ジョージア州オーガスタのオーガスタ・ナショナルGCで開催されたマスターズ最終ラウンドで、タイガー・ウッズ(米国)が18番グリーンで優勝パットを決めて喜びを表す。(Photo by Kevin C. Cox/Getty Images)
「正直言って、夢みたいだ。95年にアマチュアとして初めてここにきてプレーし、97年には優勝。それから22年、こうして再び優勝することができ、すべてが今日につながっていた。この優勝は僕と家族にとって大きな意味があるし、決して忘れられない日となるだろう」
22年前、タイガーはゴルフを教えてくれた今は亡き父アールさんに抱きすくめられ、涙で優勝を喜んだ。そして今年、今度は自分が父親となって二人の子供たちと祝福のハグ。娘のサムは、メジャー14勝目を挙げた全米オープンの時にも現場にはいたが、まだ1歳の乳幼児には父親の偉業を理解することはできなかったし、息子のチャーリーも、タイガーが2012年に優勝したブリヂストン招待での優勝シーンに立ち会ってはいたが、やはりまだ幼い子供には父の達成したことの意味がわからなかったかもしれない。タイガーの全盛期のプレーを知らない二人は、YouTubeでしか父のスーパープレーを観ることができず、二人は父親のことを「ユーチューバー」だと思っていたのだ。だから今回、彼らの目の前でようやく優勝することができたのは、どんな偉業達成よりも価値があったはずだ。
「彼らが僕のことを誇りに思ってくれたらいいね。子供たちにオーガスタにきてもらって、この優勝を見せたかった。彼らは今まで一度もオーガスタにはきたことがなかったからね。だからこのコースの傾斜のこととかいろいろなことを説明して、この大会はとてもユニークで特別な大会だから、絶対に観に来られるようにしてほしい、と伝えたんだ。実際、なんとかそれが実現して、ここにきてくれているよ」