Text/Eiko Oizumi
Photo/USGA
ラウンド中は、感情をむき出しにしてプレーすることで知られるジョン・ラーム。特にショットが悪い時や、スコアを崩した時などは顔を真っ赤にして怒り、「ランボー」のニックネームも持つほどだ。実際、取材で近くで見ていても、近寄りがたい雰囲気を醸し出すほどである。
そんな彼が、難易度の高いセッティングでスコアを大きく崩しがちな「全米オープン」でメジャー優勝を果たした要因の一つに、メンタル面の変化があるようだ。
「全米プロの最終日以来、ボクは精神的に少し変わったような気がしていた。自分自身に対してではなく、コースに気持ちがシフトしたような感じなんだ。まだ今でもガッツはあるけど、今までのような感情が激しすぎて失敗していたようなことは少なくなった。なぜかはわからないけど、息子にいいところを見せたい、尊敬できる父になりたい、ということからかもしれない。以前なら、決して自慢できないようなこともコースでやっていたけど、そういうことはなくしたいと思っていたからね」
彼とケリー夫人の間には、今年の「マスターズ」直前に生まれたケパちゃんという男児がいるが、彼の存在が“ランボー”を大人に変えたようだ。メジャーでは特に感情を表に出さず、淡々と目の前の1打に集中することが必要になってくるが、ケパちゃんにとって自慢の父親になるために、今までのように自分自身に対して怒りの感情をあらわにすることはやめ、コースの攻略に静かに気持ちを向けることができるようになってきたらしい。ミスをしても「受け入れる」姿勢を取れるようになったのだ。
「過去の全米オープンでは、フラストレーションを抱えながらプレーしていた。たくさんのバーディも獲ったけど、それと同じくらいボギーもダブルボギーも叩いていたんだ。全米プロからなんとなく精神的に変わってきたことはわかっていたが、今週は今までの気持ちを切り替えてプレーしたことでボギーよりもバーディがたくさん取れるようになったんだ」
ジョン・ラームが、寡黙で心穏やかな別人になったわけではない。普段と比べると、冷静にプレーしているかに見えたかもしれないが、実際は「心穏やかではなかった」そうだ。
「もしボクの心拍数を人が見たら、とても緊張していたことがわかるだろう」
しかし彼は我慢強く、希望を持ってプレーしていた。決して希望を失わず、何かいいことが起こると信じてプレーしたのだ。
「昔の自分なら、もし怒りを感じてもそれを沈めるための言い訳をいつも用意していた。でも今は、息子にとって模範の人間なんだ。今では自分が何をできるか理解しているし、フラストレーションを人に見せることなくベストを尽くすこともできる。全米プロの3日目が終わった後、その術を身に付けたんだ。結果には満足していなかったけど、今までよりもうまく対処できたと思っている。今はまだ息子も生後たった10週間だけど、そのうち大きくなったら息子から尊敬される人間になりたいね」
父の日に「全米オープン」で優勝したラーム。ケパちゃんの存在が、父のメジャー優勝を大きく後押ししたと言っていいだろう。