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息子がキャディを務めた最後の「マスターズ」
ベルンハルト・ランガー

Text/Eiko Oizumi
Photo/Augusta National Golf Club

18番ホールのグリーンに向かうベルンハルト・ランガーを、パトロンたちがスタンディングオベーションで迎えた。

  今年で41回目の「マスターズ」出場を果たした67歳のベルンハルト・ランガー(ドイツ)は、2日目のプレーを3バーディ、2ボギー、1ダブルボギーの73で終了。最終ホールでパーで収められれば予選通過という場面で、2打目がグリーン奥にオーバーし、ボギーを叩いてわずか1打差で予選落ちを喫した。決勝ラウンドに進むことはできなかったが、大勢のパトロンや関係者に祝福され、「マスターズ」に別れを告げた。

「昨日の1番ティーに向かう時点から、スタンディングオベーションで迎えられて、心からみんなに拍手され、泣きそうになってしまった。“まだラウンドは始まったばかりだ。しっかりしなきゃ”と自分に言い聞かせたんだ。その後もあちこちで何度もスタンディングオベーションがあって、感動の連続だったよ。今日の18番では、まだ予選カットライン内にいたので、複雑な心境だった」

「この2日間、フェアウェイを歩くたびにさまざまな感情が込み上げてきた。妻の姿が見え、4人の子供たち、そして孫2人も応援にきてくれた。本当に意味のある瞬間だった。オーガスタでプレーした瞬間から、コースに恋をし、2度の優勝に恵まれ、長年にわたってここでプレーすることができた。特別な場所だよ」

 そして今回は、息子がバッグを担いだ。彼は「PNC選手権(往年のプレーヤーが息子や娘とペアを組み、プレーするチーム戦)」に父とともに出場し、4回優勝している実力者。「彼にキャディを頼んだら、すぐに『いいよ』と返事してくれたよ。素晴らしいボーナスだね」とランガーは語る。

 現在のオーガスタナショナルGCの「マスターズ」週の全長は、7555ヤード。この距離は、67歳のランガーにとっては長くて過酷なもの。しかも、昨年2月にアキレス腱を断裂して手術したこともあり、いくらトレーニングを積み、今もなおシニアツアーで活躍しているランガーとはいえど、「4日間、このコースを歩くだけでもかなりきついだろう」と語っていた。

 また、今回引退に至った経緯の最大の要因は、グリーンを狙うショットにあるという。
「私はゴルフというゲームが大好きだし、それ以上に競い合うことが好きだ。私は生粋の競技者。熱い戦いの中にいたいし、リーダーボードに名前を載せて、勝つチャンスも持ちたい。でもこのオーガスタでは勝てるとは思えない。うまくプレーすれば、予選通過のチャンスはあり、今日も本当にいいプレーをしたが、報われなかった。問題は、グリーンに向かって打つクラブが長すぎて、ボールを止めたい場所に止められない。このコースは本来、ミドル〜ショートアイアンで攻めるように設計されていて、グリーンは非常にシビア。8番アイアンで打つべきグリーンに3Wやハイブリッドで打ってるわけだから、もう戦えない」

 今回コースを回りながら「引退という決断は、本当に正しかったのか?もう1〜2年待つべきだったんじゃないか?」と自問することもあったというランガー。いいプレーもできていたし、頭を使って攻略できていたからだ。しかし振り返ってみれば、やはりこれが正しい決断だったと思うと話した。それはやはりこのコースは、「自分にとって長すぎる」からだという。

 ゴルフがほとんど知られていなかったドイツでゴルフを学び、欧州ツアーを経て米国で活躍を遂げてきた競技者ランガーにとって、「マスターズ」引退は「世界の強豪と競うチャンス」を失うこと。他のメジャーにはもはや出場資格はないが、「マスターズ」チャンピオンとしてこの大会だけには出場でき、スコッティ・シェフラーやローリー・マキロイら現在の世界の強豪と同じ舞台で競い合える唯一の試合だった。完璧に整備されたオーガスタで1打ごとに迫られる判断をしながらプレーすることが大好きだったというが、それも来年以降は体験できない。「寂しくなるでしょうね」と言い残して、欧州のレジェンドはオーガスタを去った。

末っ子のジェイソンくん(右)をキャディに従え、「マスターズ」の引退ラウンドをプレーしたランガー。
最終ホールで、このパットさえ決まっていれば、予選通過を果たせた。思わず顔を覆い、残念がるランガー。
ホールアウトし、「マスターズ」のチェアマン、フレッド・リドリー氏(右)と握手。
2日間のドライビングディスタンスの平均は、258.3ヤードで95人中92位だったランガー。全長7555ヤードのオーガスタでは「もはや戦えない」という。
ホールアウト後は、愛妻ビッキーさんと孫に迎えられ、引退の瞬間を分かち合った。

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