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フィル・ミケルソンが全米プロで歴史的勝利!史上最年長メジャーチャンピオン誕生!

「全米プロ」で歴史的勝利!
フィル・ミケルソンが奇跡の50歳メジャー制覇!

松山英樹の日本人初の「マスターズ」優勝に続くメジャー2連覇が期待された「全米プロ」。
だが、若手の台頭が目覚ましい海外ゴルフで50歳のフィル・ミケルソンが、史上最年長メジャーチャンピオンに輝いた。
コロナ禍以降、初のメジャー現地取材が許されたゴルフ・グローバル取材班が、現地にいないとわからない体験レポートをお伝えする。

優勝
Phil Mickelson
フィル・ミケルソン(アメリカ)

©PGA of America

サムアップでファンの声援に応えるフィル・ミケルソン。1日のラウンド中のサムアップ回数が2000回を超えることもある。

1970年6月16日生まれ。
カリフォルニア州サンディエゴ出身。米ツアー45勝、メジャー6勝、シニア2勝。今年の「全米プロ」では史上最年長メジャー優勝を果たした。タイガー・ウッズのかつての最大のライバル。世界ゴルフ殿堂入り選手。世界のレフティ。「全米オープン」で優勝すれば、キャリアグランドスラム達成。

ミケルソンの優勝を後押しした弟キャディの一言

©PGA of America

弟のティム(左)がキャディを務め、初のメジャー優勝を達成。

誰も予想しなかった50代ミケルソンの快挙

フィル・ミケルソンは、ゴルフ人生でやるべきことはほぼ、やり尽くした。本人も、私たちもそう思っていた。
だが「全米プロ」の日曜日の午後、彼は夕日に染まるサウスカロライナの海岸の空を背にして、キアワアイランド・オーシャンコースの18番グリーン上で、「ワナメーカートロフィー」(「全米プロ」の優勝トロフィーのこと)を掲げた。50歳のミケルソンが「全米プロ」で優勝を飾るなど、誰が予想していただろうか。

彼は、風が吹きつける難しい最終ラウンドを73で回り、72ホールを通算6アンダーとしてメジャー史上最年長優勝を飾った。ミケルソンが最後に「全米プロ」で優勝したのは16年も前、2005年の夏のことだった。

「勝てると思ってはいたけど、実際に終わってみるまでは、大丈夫だろうか?という気持ちもあった」

最終ホールは左ラフから9番アイアンでグリーンに乗せ、2パットのパーでフィニッシュ。
一緒に回ったブルックス・ケプカや、南アフリカのルイ・ウーストハイゼンを2打差で退けた。
ミケルソンはこれでメジャー6勝目。メジャー6勝以上は、史上14人目の快挙である。

©Eiko Oizumi

携帯電話片手にスイング動画を撮ろうとする大勢の観客に囲まれて、傾斜地でのショットを披露するミケルソン。

弟の一言で目が覚めたミケルソンの猛攻

メジャー通算4勝、「全米プロ」2勝のケプカと最終組で一緒に回ったミケルソンは、最初の6ホールで3つのボギー(バーディは2つ)を叩き、出入りの激しいスタートだった。
1ホールおきに2打差が入れ替わるような状況だった。だが、序盤は大荒れだったミケルソンを、6番ホール終了後、キャディを務める実弟のティムが叱咤する。

「勝つつもりなら、はっきりとどういう球を打ちたいのか決め打ちしないと」
「あれにはガツンとやられたよ」

そこからミケルソンは変わった。
パー5の7番ホールでは、ドライバーショットがフェアウェイをとらえ、ここでバーディを奪ってからは、素晴らしいショットを連発した。
最終ホールでは、ミケルソンの復活に沸き立つ何千人もの観客が、18番グリーンを取り囲むように駆け寄ってくる劇的な場面もあった。
誰もが「フィル」と連呼している。
ミケルソンは、群衆の中に消えたと思いきや、また姿を見せて皆を喜ばせる。
それは、セント・アンドリュースでボビー・ジョーンズを見た時、あるいは大観衆の中からアーノルド・パーマーが久しぶりに登場し、日差しの下をおどけた調子でよたよたと歩いていた時を思わせる光景だった。

ミケルソンは、「信じられないような体験だ。こんな体験はしたことがない。ちょっと怖かったけど、それを上回る最高の気分だ」と語った。

18番グリーンから移動するミケルソンを、長いラウンドを終えた他の選手たちがクラブハウスの中や周りから集まってきて祝福。
そこには、同じアリゾナ州立大出身のポール・ケーシーとジョン・ラームの姿もあった。
そしてリッキー・ファウラーは、この偉業に感激し、ミケルソンとハグを交わした。

「タイガーもフィルも、根っからゴルフが好きなんだ。何週間か前に、バルスパー選手権でタンパに行く前に、フィルと2日ほど過ごしたんだけど、その間ずっとゴルフをしてたんだよ」とファウラーは語った。

「ゴルフへの愛があればこそ。フィルにはまだ先がある。これはすごいことだ。あんな人は他にいないと思う」

老若男女に勇気と希望を与えた歴史的勝利

©Eiko Oizumi

最終日は「メジャーの方が勝ちやすい」と日頃から豪語しているブルックス・ケプカ(左)とのラウンドに。ケプカは2打差の2位タイに終わった。

ミケルソンの優勝を阻止できなかったメジャーチャンピオンたち

日曜日、ミケルソンの背後にぴたりと迫っていた他の選手たちは、なかなかプレッシャーをかけられずにいた。
ケプカは11番までの3つのパー5を4オーバーで回るなど、今週はパットが振るわず、13番ホール終了時点でこの日は4オーバーとなり、「全米プロ」2勝を挙げる彼も、昨年に続いて優勝を逃した。
個人的には残念な結果に終わったものの、ケプカはミケルソンの優勝を自分のことのように喜んだ。

「フィルが優勝して本当に嬉しい。僕も50歳になってもプレーしていたい。だが、試合で実際に勝つというのは、全く別の話だ。だからこそ、フィルに喝采を贈りたい。見ていてほれぼれしたよ」

今大会で5度目のメジャー2位に終わったウーストハイゼンは、安定したプレーをしていたが、パットが決まらなかった。
最初の2日を71と68で回り、メジャー2勝目の可能性は大いにあったが、最終日は、パー4の13番ホールでダブルボギー。
優勝のチャンスを潰してしまった。

2010年「全英オープン」で優勝しているウーストハイゼンは、「メジャー2勝目を目指して全力でプレーしていたし、自分にはそのチャンスがあった。でも、あと一歩だった。日曜のプレーはあまり良くなかった。ちょっと意気込み過ぎたかな」

50歳を過ぎても自分のメジャー優勝を疑わないミケルソンの今後の可能性

©PGA of America

最後のパットを決め、キャディを務める弟のティム(右)と抱き合って優勝の喜びを分かち合った。

©Eiko Oizumi

表彰式で優勝スピーチをするミケルソン。大会初優勝を遂げた2005年の「全米プロ」から、16年後の快挙だ。

年齢を言い訳にしないミケルソンの努力

ミケルソンは、6月に51歳になった。
10年ほど前に乾癬性関節炎と診断され、キャリアが危ぶまれたこともあった。
しかし50歳を過ぎても、多くの才能ある若手たちに負けないよう、信じられないような犠牲を払い努力している。
トレーニングに勤しみ、プレーと練習に明け暮れ、以前よりも質の良い食事をとるようになった。
そして体のリセットをするために、毎週36時間、つまり1日半の断食をしているそうだ。
関節炎の症状は、食生活を見直したおかげで大いに改善。そして頭の中を整理し、集中力を高めるためのメソッドに熱心に取り組んできた。
「『全米プロ』で優勝できたことで、大きな一歩を踏み出すことができたかもしれない」と語ったが、確かにあの日曜日、これまで払ってきた犠牲は報われた。

ミケルソンの50歳での優勝は、老若男女を問わず、全てのゴルファーに勇気と希望を与えた。
ジャック・ニクラスは、「私がすごいと思うのは、50歳でメジャーに勝てたこと。(私がマスターズで勝った)46歳よりも年上の彼が勝ったんだからね」と語った。

世界のトッププロ100人のうち99人がキアワで戦い、ベテランのパドレイグ・ハリントンも「今まで見たメジャー大会の中でも最高の舞台だった」と絶賛したこの「全米プロ」で、ミケルソンは世界ランキングを115位から32位へと大幅に上げた。

弟でありキャディのティム・ミケルソンは、18番ホールのグリーン上で、そのまま永遠に自分の兄と抱き合っているのではないかと思わせるほど、感情を高ぶらせていた。

「兄が自分の力を疑ったことは決してない。意志の強さと勝利への欲求は、これまで以上に高まっていると思う」

勝者にさえ、自分の未来のことはわからない。
実際ミケルソンは、ひょっとすると、これが最後のメジャー優勝かもしれないと言っていたが、フィル・ミケルソンがこれからもフィル・ミケルソンであり続ければ、6度目のメジャー優勝は、素晴らしい新たな一章を綴るきっかけになるかもしれない。

「無理だと思われていたことを、こうして成し遂げることができて、なんとも言えない高揚感と、満ち足りた達成感を味わっている。間違いなく、人生の大切な瞬間の一つだ」

キアワアイランドの爽やかな日差しの下で、強く思い出に残る瞬間を共有した多くの人々もそうだと思う。
あれはまさに歴史的な出来事だった。

全米プロ
2021年5月20日~23日
キアワアイランド・ゴルフリゾート
オーシャンコース(米国・サウスカロライナ州)
7876ヤード・パー72

最終成績

優勝−6フィル・ミケルソン216万ドル
2位タイ−4ルイ・ウーストハイゼン
ブルックス・ケプカ
105万6000ドル
4位タイ−2シェーン・ローリー
パドレイグ・ハリントン
ハリー・ヒグス
ポール・ケーシー
46万2250ドル
8位タイ−1ジャスティン・ローズ
コリン・モリカワ
ジョン・ラーム
ウィル・ザラトリス
スコッティ・シェフラー
トニー・フィナウ
リッキー・ファウラー
ケビン・ストリールマン
26万3000ドル
23位+1松山英樹10万3814ドル
30位+2ジョーダン・スピース5万9750ドル
38位+3ブライソン・デシャンボー4万2000ドル
49位+5ローリー・マキロイ2万4950ドル

予選落ち:ダスティン・ジョンソン、セルヒオ・ガルシア、ジャスティン・トーマス、金谷拓実、星野陸也

Text/Jeff Babineau

ジェフ・バビニュー
(アメリカ)
ゴルフ取材を30年以上行ない、現在フリーライターとして「全米プロ」のオフィシャルライターを務めるなど活躍中。

Photo/Eiko Oizumi、PGA of America
Text/Courtesy of PGA of America(Jeff Babineau)

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