今年は新型コロナウイルスの影響でメジャーが中止、あるいは9月以降に延期となったが、2019〜2020年シーズンで唯一のメジャー「全米プロ」が無観客で開催。
プロ入り後予選落ちがたったの2回しかないという世界一安定感のある男、日系4世のコリン・モリカワがメジャー初優勝を飾った。
コリン・モリカワ(アメリカ)
1997年2月6日生まれ。ロサンゼルス出身の日系4世。世界アマチュアランキングで1位に輝き、昨年6月鳴り物入りでプロ転向。プロ入り6試合目の「バラクーダ選手権」でツアー初優勝。今年の7月には「ワークデイ・チャリティオープン」でツアー2勝目を飾り、8月の「全米プロ」でメジャー初制覇。

表彰式で優勝カップを掲げようとした時に力が余ってうっかり蓋を落としてしまったコリン・モリカワ。

右はガールフレンドのキャサリン・スーさん。カナダ・バンクーバー出身で、ペパーダイン大時代はゴルフ選手として活躍し、WGCAオールアメリカンの栄誉を獲得。
フル参戦1年目の23歳。メジャーの優勝争いをエンジョイ
サンフランシスコ開催の全米プロ最終日の朝は、ホラー映画『スリーピー・ホロウ』ばりの不気味さがあった。
海上やゴルフコースには、どんよりとした濃い霧が立ちこめ、今シーズン最初のメジャー優勝者に授与される巨大なトロフィーが用意されていた。それはまるで、映画『フィールド・オブ・ドリームス』で野球選手がトウモロコシ畑から出てくるのを待っているかのように……。
コロナ時代に無観客で実施された大会の最終日。1年余り前にはアマチュアの試合で決勝に進出していた23歳のコリン・モリカワが、6アンダー(64)をマークし、自身初のメジャー優勝を果たした。
一時、首位に6人の選手が並び、10人以上の選手が首位を争いひしめき合っていたが、それはまるでNASCARレースのようだった。モリカワはそのような混戦の中でも動じることはなくその状況を楽しんでいたのである。
全米プロの歴代優勝者であるジャック・ニクラスやタイガー・ウッズ、ローリー・マキロイの列に23歳で加わったモリカワは
「今朝目覚めた時、こうなるような気がしていた。メジャーでの優勝争いはとても気分がよく、怖くはなかったよ」
最終日の16番ホールで、モリカワは賭けに出た。294ヤードの短いパー4で、1オンにチャレンジしたのだ。彼の飛距離では1オンはできないが、球が落下した後のコロがりを利用すれば、乗せることも可能と判断した彼は、キャディと相談の上、ドライバーをチョイス。なんとかうまく乗せることができた。
彼のティーショットがグリーンをとらえ、最終的にわずか2メートル強のイーグルチャンスに付けたのを、そのホールをバーディで終えたばかりのポール・ケイシーが17番ティーから信じられないといった様子でじっと見ていた。
「才能っていいものだね」
全米プロでイギリス人としては2人目の優勝を狙っていたケイシーは「才能という言葉は好きではないが、コリンには才能があると言える。メディアが取り上げていなくても、僕たちは彼には才能があると思っていた。そしてそれは間違っていなかったんだ」
ゴルフ界の『フィールド・オブ・ドリームス』
23歳の若手が味わったメジャーの味
モリカワは時々パッティングに苦しんでいるが、今回の全米プロでは「ストローク・ゲインド・パッティング」部門で1位。
PGAツアーの記録では、この部門で164位であるにも関わらず、である。彼は「フェアウェイキープ率」でも1位だった。
「メジャーは選手たちが、最終的に目指しているものだが、ボクはまだ始まったばかり。今回の優勝で大きな自信が生まれたよ。これからが楽しみだね」
メジャー優勝の 味わいは相当美味だろうし、もっと何度も勝ちたいという欲を強めるものだろう。
カリフォルニア出身の若者のハーディングパークでの優勝。それはまさに『フィールド・オブ・ドリームス』だった。

16番パー4ではドライバーで1オンに成功。イーグルを決め、2位のポール・ケイシーを2打差に突き放した。

最終日は最終組から1つ前の組で同世代のキャメロン・チャンプ(左)とラウンドしたモリカワ。
最終成績
2020年8月6日~9日
米国カリフォルニア州サンフランシスコ
TPCハーディングパーク
優勝 | −13 | コリン・モリカワ | 約2億1105万円 |
2位 | −11 | ポール・ケイシー ダスティン・ジョンソン | 約1億320万円 |
4位 | −10 | マシュー・ウルフ ジェイソン・デイ、 ブライソン・デシャンボー トニー・フィナウ、 スコッティ・シェフラー | 約4310万円 |
9位 | −9 | ジャスティン・ローズ | 約3151万円 |
10位 | −8 | ザンダー・シャウフェレ ジョエル・ダーメン、 キャメロン・チャンプ | 約2688万円 |
22位 | −4 | 松山英樹 | 約1008万円 |
29位 | −3 | ブルックス・ケプカ | 約741万円 |
33位 | −2 | ローリー・マキロイ | 約613万円 |
37位 | −1 | タイガー・ウッズ ジャスティン・トーマス | 約480万円 |
71位 | 4 | フィル・ミケルソン ジョーダン・スピース | 約206万円 |
予選落ち 石川 遼
Photo/PGA of America, Getty Images
Text/Jeff Babineau

ジェフ・バビニュー(アメリカ)
元ゴルフウィーク誌編集長。ゴルフ取材を30年以上経て、現在フリーライターとして活躍。マスターズは25回以上取材経験を持つ。