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【2022年ルール改正】ドライバーの⻑さが46インチ以下に規制!

2022年ルール改正「ドライバーの長さが46インチ以下に規制」

昨年2月、ゴルフのルールを統括するR&Aと、全米ゴルフ協会(USGA)が、飛距離抑制に関して提案。
10月末には、ドライバーの長尺化にローカルルールとして46インチ以下という制限が設けられた。
「飛ばしたい」というのはプロアマ問わず、誰もが抱いている願いだが、飛距離を抑制しないとゴルフ界の発展を損なう可能性もあるという。
これは一体どういうことなのだろうか?

※プロの試合や一部のエリートアマチュア競技などに適用されるローカルルールにおいて。

©Getty

R&A
スコットランドのセントアンドリュースに本拠を構え、ゴルフのルールやアマチュア規定、道具に関する基準などの統一ルールをUSGAとともに作成。アメリカとメキシコを除く、世界のゴルフを統括。

なぜR&Aは飛距離を抑制しようとするのか?

©Getty

48インチのシャフトのドライバーもテストしたことがあるブライソン・デシャンボー。飛距離アップのために肉体改造を行ない、道具の研究を日々重ねている。2021年のドライバー平均飛距離は323.7ヤードでツアー1位。

©Eiko Oizumi

シャフトの長さに頼れなくなったことで身体能力やスイング理論で飛ばしを研究するデシャンボー

46インチ以下の規制に対してデシャンボーは、「ゴルファーの身体能力や運動機能に及ぶものでなければ、彼らが合法と定めるルールに基づいてプレーする」と語った。

飛距離の歴史とゴルフの発展

©Eiko Oizumi

飛距離抑制のための3つの提案

昨年2月、ゴルフのルールを統括するR&AとUSGA(全米ゴルフ協会)は、製造業者などに対し、近年のゴルファーの飛距離増長を抑制するために用具(クラブやボールなど)に対する規制の提案を公表。
広く意見を聞き、今後の決定に反映するとした。その提案とは次の3つである。

①クラブの長さ
パターを除くクラブの最大長を、48インチから46インチに制限することを認めるローカルルールをプロやエリートアマチュアの大会でのみ採用。
②ボールのテスト方法
現行は打ち出し角を10度、クラブヘッド速度120mphに設定してボール速度を決定していたものを、ボールの最適な打ち出し条件(打ち出し角が7.5度~15度の間、バックスピンは2200rpm~3000rpmの間)を使用し、「制限値317ヤード+3ヤードの許容誤差」を超えないボールを適合球とする。
③スプリング効果
反発係数を計測する「ペンデュラムテストプロトコル」でテスト許容誤差を18マイクロセカンドから、6マイクロセカンドに減じる。

飛距離が伸びると、ゴルフの発展に有害になる?!

そして昨年の10月、プロゴルフ及びトップアマチュアの公式競技における、パターを除いたクラブの長さを46インチ以下に制限すると発表した。
これはローカルルールであり、アベレージゴルファーや競技志向ではない、娯楽派ゴルファー向けのものではないと言われている。
今年の1月1日から施行されているが、なぜこのような制限を設けなければならないのだろうか?

ツアー1の飛距離を誇るブライソン・デシャンボーを筆頭に、世界のトッププロ約60名の飛距離も、今や平均300ヤード超えとなっているが、このままゴルファーたちの飛距離が伸び続けるとゴルフ界の発展にとってマイナス面も出てくるという。それはいったいなぜだろうか?

もともと以前からR&AとUSGAは「これ以上、トップレベルでの飛距離の増加は望ましいものではない。ゴルフというスポーツのチャレンジング性を損なう危険性がある」と声明を発表し、総ページ数100ページ以上にわたって、「ディスタンス・インサイトレポート」を公表していた。
そのレポートにはこれまで飛距離が伸びてきた経緯や歴史、飛距離が伸びるとどういうことが起こり得るのかなどが詳細に書かれているのだが、現在の飛距離増長傾向が、大きく分けて次の3つの理由でゴルフの発展に有害であることも記されている。

❶飛距離の伸びに合わせてホールを拡張しないと、コースが本来持っている戦略性を失ってしまう。
たとえば、ドライバーで遠くに飛ばしさえすれば、2打目のアイアンショットやアプローチも短いクラブで届く距離になり、スコアメイクも容易になる。
戦略的な攻略も必要なくなり、ドライバーショットさえうまく打てればいいという傾向が強まるため、他のクラブの技術習得が疎かになることも考えられる。

❷飛距離が伸びた分、コースを拡張しようとすると、バックティーの追加やバンカーの追加、フェアウェイエリアの拡大などが必要になり、追加コストがかかる。
コースを100ヤード伸ばし、フェアウェイが約2834㎡増加すると、年間の維持費は平均約66万円増加する。
一般的な維持費は年々大幅に増加し、物価やリソースコスト(水・肥料・農薬・人件費など)も上昇し続けているため、その上追加コストがかかるとなると、ゴルフ場の維持・存続自体、難しくなる。

❸コースの全長を伸ばすと、移動距離が長くなり、プレーのペースは遅く、所要時間も長くなる。
最近では初心者でも気軽にゴルフを楽しめるよう、9ホールでのプレーも推奨されているが、時間が長くなれば、逆に手軽さ・気軽さは失われる。

飛距離が伸びると、ゴルフ場やゴルファー 数の減少につながる!?

©Getty

1930年、シカゴで開催された「全米ドラコン選手権」で優勝したジム・レイノルズ(写真右)のヘッドスピードを計測しているシーン。ヘッドスピードは125mph(約56m/秒)。

©Golf Laboratories

R&AやUSGA、クラブメーカーなどで道具のテスト時に使用されている「ゴルフラボラトリー・コンピューター制御ロボット」。スイングスピードや球筋を打ち分けられ、ドライバーからウェッジまでのショットを打つことができる。

©Getty

1980年代後半までは、パーシモンのクラブに糸巻きボール、が全盛だった。道具の進化がゴルフの質を変えたといっても過言ではない。

飛距離が伸び続けると、コースの拡張、維持費の上昇、プレー時間の延長などが付随する。

つまり、こういうことだ。
飛距離の伸びに合わせてコースを拡張しないと、ドライバーで飛ばせば、あとは短い距離のアイアンショット、あるいはアプローチが残るのみとなり、コース本来が持っている戦略性や攻略の面白味がなくなる。
そこでコースを拡張しようとすると、今度はティーを増設したり、戦略性の高いコースにするためにバンカー、池などを配置、あるいは位置の変更をしなければならず、改修のためのコストがかかり、通常のメンテナンス費用に加え、負担が大きくなる。
資金力のあるゴルフ場はともかく、そうでない場合はその負担が大きくのしかかってくるため、最悪の場合、営業を継続することができなくなるというわけだ。

さらに、ゴルファーの立場で考えれば、コースが長くなればショット間の移動距離も長くなり、プレー全体の所要時間も長くなる。
海外では自宅から30分以内で気軽に行けるコースも多いが、日本は1時間以上かけてゴルフ場に出向くことも多く、早朝から夜までの1日がかりとなるだけに、所要時間がさらに長引けば、気軽にゴルフに行こうという気持ちも萎えてしまうだろう。初心者ならなおさらだ。

「ディスタンス・インサイトレポート」によれば、1969年~2019年までのPGAツアーでの飛距離とゴルフコースの全長を比較すると、平均飛距離が45ヤード増加し、コース全長が450ヤード増加。距離の増加により2019年のラウンド時間は1969年よりも4分30秒長くなっているという数値を割り出している。

上級者ほど“ゴルフは飛距離より 精度が求められるべき”と考える−USGAマイク・ワンCEO

「たいていの人は、今までスピード制限などなかった」と考えているようだが、それは間違い。我々はゴルフを守るため、飛距離の規定を60年間定めてきたのだ。子供や孫の代である、100年後のゴルフが健全なものであるように、考えないとダメ。実際、1976年、1986年、2002年、2004年…と規定を見直してきたし、 R&AやUSGAの歴史は「変化の歴史」。5年、10年、15年後に見直して、必要に応じて変化していかないといけない。

ゴルファーたちが求めているコースとは?

「飛距離の伸び」が必然的に「コース拡張」につながり、今後のゴルフ界にとっては有害としてR&AやU SGAは懸念しているが、一般ゴルファーたちは自分自身の「飛距離」やラウンドしたいと思う「コース」についてどう思っているのだろうか?
「ディスタンス・インサイトレポート」の調査結果によれば、自分自身の飛距離が10年前よりも伸びていると回答している人は全体の41%を占め、飛ばなくなっていると回答した人は32%だったという。
これには年齢的な要素が大きく関わっており、若ければ若いほど飛距離が伸びたと実感。
年配のゴルファーは飛ばなくなるか、変わらないと答える傾向がある。

また、飛距離が伸びたと回答した理由として、ゴルファーの98%は「自分の技量、体力、クラブやボールなどの用具に起因している」と考えている一方、飛ばなくなった人は「年齢」「体力の低下」に起因していると考えている。

これがトップアマやプロゴルファーのレベルになるとどうなるのか?
88%が5年前より飛距離が伸びていると考えており、その理由は「プレーヤーの技量、クラブとボールの進化、プレーヤーの体力」の組み合わせによるものだと考えている。

では、ゴルファーを含むゴルフ業界の人たちは「飛距離の伸び」をどう思っているのか?

「飛距離」が問題になるのは、エリートゴルファーやプロゴルファーにとってである、とする人が大半で、娯楽派にとってはほとんど問題にはならないと捉えている。
そして「飛距離」を「脅威」と捉えるか、「機会」と捉えるかについては大きく意見がわかれ、用具製造業者は38%が「機会」と捉える一方(「脅威」と捉える人は18%)、コース設計者の63%が「脅威」と捉えているのだという。
またゴルファーの中でも、初心者や、ゴルフ未経験者に飛距離アップを肯定的に捉えている人が多く、ゴルフというゲームを知れば知るほど、「ゴルフは飛距離よりも精度が求められるべきだ」と思う人が多くなる。

そして、娯楽派のゴルファーのほとんどは自分のティーショットの距離に適した長さのコースでプレーすべきだと考えているが、「困難なゴルフ場に挑戦」することも一方では楽しんでいるようだ。
スコアをよくするために簡単なコースを回りたいと考えている人は決して多くはない。
あまりにも長い、8000ヤード以上のトーナメントコースでのプレーには興味ないが、難易度の高いコースへの挑戦はしたいという、身の程をわきまえつつ、向上心を持ち合わせているチャレンジャーが多いようである。

抑制反対!

R&AやUSGAは、飛距離アップの先に起こりうる事象を想定し、抑制ルールを作っているが、一方では「ゴルフをつまらなくするルール」とプロの間で不評を買っている。

世界を代表するプロ2人の言い分は?

フィル・ミケルソン 「ゴルフの楽しさを損なう」

©Eiko Oizumi

40年ぶりのゴルフブームなのに…

一昨年、47.5インチのドライバーを使用し、米シニアツアー「ドミニオン・エナジークラシック」で優勝したフィル・ミケルソン。
改正ルール発表前、彼は「USGAが近々1Wの長さを46インチに戻すらしいけど、バカバカしい。
40年ぶりのゴルフブームなのに、ゴルフの楽しさを減らそうとしている」と語った。

ローリー・マキロイ「時間と金のムダ」

©Eiko Oizumi

ゴルフ人口の99.9%は楽しむためにプレーしている

R&AとUSGA両団体は、すごく小さなレンズでゴルフを見ている。
彼らは「飛距離に関するレポート」を作成しているが、時間と金のムダ使いだ。
作成に費やされたお金は、たくさんの人にゴルフをさせたり、子供やマイノリティたちにゴルフをさせるために使えたはず。
ゴルフ人口の99.9%はエンジョイゴルファー。
彼らが使う道具について、議論する必要はない。

Text & Photo/Eiko Oizumi
Photo/Getty Images, Golf Laboratories, USGA
References/Distance Insights Report by R&A and USGA

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