• 国境や人種を超えたスポーツの力とゴルフの愉しさをすべての人に。
  1. ホーム >
  2. トーナメントレポート >
  3. グレッグ・ノーマン率いる
    「LIVゴルフ・インベストメ...

グレッグ・ノーマン率いる
「LIVゴルフ・インベストメンツ」が
約350億円をアジアンツアーに投資

Text & Photo/Eiko Oizumi

アジアンツアーコミッショナー兼CEOのチョ・ミンタン氏(左)とLIVゴルフ・インベストメンツCEOのグレッグ・ノーマン。

グレッグ・ノーマンがCEOを務める「LIVゴルフ・インベストメンツ」(世界最大のサウジ政府の投資ファンド・PIFが同社の大株主。以下LIVゴルフ)がアジアンツアーと手を組み、今後10年間、「インターナショナルシリーズ」と呼ばれる10大会をツアー日程に組み込んで開催することはすでに昨年報じられていたが、「サウジインターナショナル」期間中の記者会見で、投資額を2億ドル(約230億円)から3億ドル(約350億円)に引き上げることが発表された。
「我々はアジアンツアーやその選手たち(のポテンシャル)を信じている。今後ゴルフがどこに向かっていくかを確信しているんだ。だから投資額を増額する」(G・ノーマン)
 「インターナショナルシリーズ」は、ノーマン率いるLIVゴルフが今後のゴルフ界の発展のため、世界各地で年間10試合(10年間)をアジアンツアーと組んで開催するというものだが、その投資額は350億ドルに及ぶ。後述の「スーパーゴルフリーグ」とはまた別の話だ。3月にタイ(ブラックマウンテンGC)で初戦を迎えたあとは、イギリス、韓国、ベトナム、中東、中国、シンガポール、香港へと移動する。賞金総額は各大会150〜200万ドル(約2億円前後)となる予定である。

「私は世界中でプレーをしてきた、元世界NO・1プレーヤーだが、私の役目は世界中でゴルフ発展のためにできるだけ手助けすることだと考えてきた。アジアンツアーは眠れる巨人であり、私はどう巨人を解き放てばよいかを理解したいと思っている」

「自分もプロになって初めて、アジアでプレーしたが、アジアはいろいろな国の文化や場所を経験しながら競技に出られる“入口”のようなところだ。あれから40年以上経っているが、その間のアジアや中東、母国のオーストラリア、日本のゴルフの成長ぶりをこの目で見てきた。アジア・アマチュア選手権で優勝した松山英樹がマスターズで勝ったことも、アジアのゴルフの成長の一つ。過去見逃されてきたチャンスを、新たなチャンスとして認識し、新しいゴルフ市場を開拓していきたい」

 ノーマンは、欧米だけでなく、アジアや中東でも広くゴルフ場設計に携わっており、世界のゴルフ事情に詳しいが、アジア〜中東にかけてのゴルフ市場は、世界全体の45%を占めており、現在進められているゴルフ場建設の60%は、中東にあるという。彼は、今後のゴルフの発展について、まだ未開拓な部分もある、あるいは今まで正当な評価を得ていなかったアジアのポテンシャルの高さを再評価し、そこに多額の投資をすることで、アジア・環太平洋地域のゴルフ文化を引き上げ、アジアンツアーを欧米ツアーへの「ハシゴ」から、肩を並べられるツアーにしたいと考えているようだ。彼は30年前から「ワールドツアー」構想を抱いていたが、当時PGAツアーから賛同を得られず、頓挫した。それがサウジの莫大な資金を得て、「世界中でゴルフを発展させ、資金が必要なところには投資をすること」が可能になったのだ。

「アジアンツアーとの取り組みは、始まりに過ぎない。ゴルフ発展のためのすばらしい機会が、目の前にたくさんあるんだ。インターナショナルシリーズも、オーストラリアやアメリカでの開催も考えているし、試合数が増える可能性もある」

タイの選手たちと練習ラウンドをする岩田寛(右から2番目)。久しぶりのツアー再開、しかも高額賞金をかけての戦いにアジアンツアーメンバーたちも嬉しそう。

コロナ禍でも、欧米ツアー、日本ツアーなどが対策を取りながら、トーナメント開催を再開してきた一方で、アジアンツアーはなかなか試合を開催できずにいた。シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、中国……と海外からの入国者規制が厳しい国がアジアには多く、毎週各国を移動しながらの転戦が不可能だったからである。約1年半も試合を開催できなかったということは、スポンサーやテレビ局からの放映権料などの収入が途絶えてしまったということ。もともと欧米ツアーに比べて、豊富な資金があるわけではなかったアジアンツアーに、コロナは大きなダメージを与えたのである。

「アジアンツアーは開かれたツアー。日本の選手の皆さんも、いつでもプレーしに来てください」とチョ・ミンタンコミッショナー兼CEO。

アジアンツアーのコミッショナー、チョ・ミンタンは苦境を振り返りながら次のように語った。
「コロナパンデミックで、アジアンツアーは本当に厳しい局面に立たされた。収入はなくても協会運営のための経費はかかるという状況の中、タイミングよくグレッグ・ノーマンという世界のスーパースターと出会い、多額の資金を投資してくれた。私の役目は、ツアーの選手たちが活躍できる場を増やし、賞金額を上げること。欧州ツアーはDPワールドという冠スポンサーを得たが、我々アジアンツアーがLIVゴルフや他のプロモーターと手を組んだからといって、悪いことではない」

「アジアンツアーにとって、インターナショナルシリーズ10試合の開催は、ツアーのレベルアップにもつながる。ゴルフというスポーツはグローバルなものであり、我々は境界線を設けない。アジアの選手だけに限らず、世界中の選手たちがやってきて、プレーできる“オープンなツアー”だ。PGAツアーもDPワールドツアーもアジアで試合を開催している。もはやゴルフの世界に境界線というものは存在しない」

 チョ氏とノーマンは、ゴルフを「グローバルで境界線のない、開かれたものにするべき」という共通認識のもと、今後のアジアンツアーの可能性を探っていくという。チョ氏は「決して他のツアーから選手を引き抜こうと考えているのではない」と言い、ノーマンは欧米ツアーからのバッシングに対し、「彼らと戦おうとしているのではない。ゴルフ界の発展のために協働したいと思っているのに、彼らから不当な攻撃を受けて、個人的にはとてもガッカリしている。一体何を恐れているんだ?」と語っている。

関連する記事