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奇跡の人「タイガー・ウッズ」オーガスタ復活劇

交通事故で瀕死の重傷からわずか14ヶ月でカムバック
なんと予選も通過し、47位に

奇跡の人タイガー・ウッズ
オーガスタ復活劇

©Augusta National Golf Club

昨年の交通事故により、右足粉砕骨折の重傷を負ったタイガー。グリーン上でも、まだヒザを曲げてラインを読むことができない。

©Augusta National Golf Club

タイガーのエースキャディは事故前と同様、ジョー・ラカバ(左)。4日間の戦いを終えて、握手を交わした。

タイガーが「マスターズ」に帰ってきた!

2022年の「マスターズ」は、いろいろな面で違っていた。
美しいオーガスタナショナルGCのセカンド9(オーガスタナショナルのバック9)にそびえる高い木々から、伝統的な春の大歓声が鳴り響いた2019年以来、初めて満員のパトロン(ファン)が戻ってきたのである。

2019年の歓声は、5度目の「マスターズ」制覇、そして2008年「全米オープン」以来、約11年ぶりのメジャー制覇を果たしたタイガー・ウッズに向けられたものであった。
ウッズは背中や左ヒザの手術を何度も経験し、世界中のゴルフファンが「彼はもうメジャーで勝てないのではないか」と思っていた。
だが2019年、彼は43歳で「マスターズ 」に勝った。ジャック・ニクラスの歴代記録にあと3つという、メジャー15勝目を達成したのだ。

大事故からわずか14ヶ月でマスターズ出場
「勝つために出る!」

©Augusta National Golf Club

大会前の公式会見に臨んだタイガー・ウッズ。「ここで初優勝してから25年も経ったなんて信じられない」

©Augusta National Golf Club

他の誰よりも多くのパトロン(マスターズではギャラリーをこう呼ぶ)を引き連れていたタイガー。足に重傷を負った彼が、事故から14ヶ月後に「マスターズ」に出場したこと自体、奇跡だ。

©Augusta National Golf Club

プレートやネジなどが埋め込まれているため、柔軟性が失われている足。それでも彼の持ち味のアイアンの精度は、健在だった。

©Augusta National Golf Club

下半身はリハビリ中のため、トレーニングはまだまだのようだが、上半身はしっかり鍛えられ、ムキムキだった。

©Augusta National Golf Club

坂が多いことで知られるオーガスタナショナルで「歩くことが一番大変」と語っていたタイガー。

12月に47歳になるウッズは、松山英樹が優勝した2021年の「マスターズ」には出場していない。
代わりに、その2か月前にロサンゼルスでひどい交通事故を起こし、ロサンゼルスの病院のベッドから試合を観戦していた。
PGAツアーの「ジェネシスインビテーショナル」の翌々日、朝の写真撮影に向かっていたウッズは、SUVを運転中、カーブの多い道路から外れ、急な斜面を転落したのだ。
ウッズはその日の朝、命を落としていたかもしれない。
医師たちは、ピンとネジで固定されたひどく損傷した彼の右足と足首を救うことができるかどうか、何週間も悩んだ。
私たちは、タイガー・ウッズが再びゴルフをすることができるのかどうかを、心配したのではない。
タイガー・ウッズが再び歩けるようになり、2人の子どもたちと一緒に普通の生活を送れるようになるのかを心配したのだ。

いろいろなことを考えると、今年4月の「マスターズ」は、ウッズがメジャー16勝目を挙げるかどうかの大会ではなかった。
彼はまだ、必要なときに必要なショットを打つことができるということを証明したのである。
ウッズは4か月前にフロリダの非常にフラットなゴルフコースで2日間のチーム戦「PNC選手権」で彼の息子・チャーリーと一緒にプレーしそれを示した。
オーガスタはフロリダのコースとは違う。これほど丘陵地帯にあるコースはなかなかない。1番ホール(パー4)でいったん坂を下り、その後急な坂を上り、18番ホールはアップヒルでクラブハウスに向かって長い坂を上る。
ウッズは、毎日10キロほどの距離を歩くことができるのだろうか?
第86回「マスターズ」の開幕を4日後に控えた日曜日に、彼が現地に到着したとき、それは疑問だった。
彼は、歩けるかどうかをテストするために9ホールをプレーし、さらに月曜日の午後遅く、フレッド・カプルス、ジャスティン・トーマスと一緒に9ホールをプレーした。
活気と彼と一緒に歩く観客により、練習ラウンドが、まるで週末の午後のトーナメントラウンドのような雰囲気に包まれていた。

火曜日までに、世界中から集まったメディアを前に、ウッズは「出場する予定だ」と意思表示をした。
このニュースで、トーナメントに衝撃の稲妻が走った。彼が14か月の療養生活を送る中で(最初の3か月、彼は病院のベッドを離れられなかった)親交を深めてきた数名の選手たちは、彼がトーナメントに参加することに胸を躍らせた。
タイガーは、ゴルフの針を動かすだけでなく、針そのものなのだと、彼らは言った。
恐らく今年の「マスターズ」は、米国で過去3年間において本大会最高テレビ視聴者数を記録すると予想された。

「勝つために試合に出る」は不変

彼はプロ入り前の1995~1996年に「全米アマ」チャンピオンとして「マスターズ」に出場したときも(ウッズは「全米アマ」で3連勝し、その後プロ転向)、「大会に出るなら、勝つために出る」といつも言っていた。
それはとても大胆に聞こえたが、その後、実際に彼はそれをやってのけたのだ。
そして、サム・スニードの歴代記録に並ぶ「PGAツアー82勝」、「メジャー15勝」を挙げた。
2022年「マスターズ」でも勝てると思うか?の問いに「ああ、勝てると思うよ」と大会の2日前に彼は言ってのけたのである。

「ちゃんとショットできるし、ゴルフの観点から言えば、身体的にプレーできることには何の疑問もないよ。ただ、歩くことが大変だ。ここは、もともと簡単に歩けるようなところじゃない。今の私の脚の状態を考えると、さらに難しくなる。72ホールは長い道のりだし、タフなチャレンジになるだろう」と述べた。

そして、ウッズは想像を超えることをやってのけた。
タイガーはやっぱりタイガーだ。彼の能力を疑う人間などいないだろう。
木曜日の午前中に、難しいコンディションの中、彼は1アンダーの71で回った。
彼は10位タイで、ホールアウトしたが、この時点ですでに優勝について語っていた。

ある意味彼は、プレーしているだけですでに勝ったも同然だった。
週末は、78・78で回り、通算13オーバーの47位に。
優勝したスコッティ・シェフラーとは23打差だったが、タイガーのスコアは、パトロンにとってはほとんど重要ではなかった。
彼は大好きな場所に戻ってきたのだ。14か月前はこの地に戻ってこられるかどうかなど知る由もなかったが、2度優勝経験のあるセントアンドリュースで行なわれる「全英オープン」への出場についてすでに話しており、「全米プロ」「全米オープン」への出場も決まっている。

タイガー・ウッズ最終成績

+13 (71·74·78·78) Rank 47

Text/Jeff Babineau

ジェフ・バビニュー

(アメリカ)
ゴルフ取材を30年以上行ない、現在フリーライターとして「全米プロ」「マスターズ」のオフィシャルライターを務めるなど活躍。マスターズ取材は25回以上。

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