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【私の愛したゴルフコース】第20回サンドヒルズゴルフクラブ(アメリカ)

世界のゴルフフォトグラファーの第一人者として今も第一線で活躍するデビッド・キャノン。

彼のファインダーを通して切り取られた世界のゴルフコースの数々は、まるで宝石箱のジュエリーのように一つ一つが個性豊かに輝いている。

私の愛したゴルフコース第20回はサンドヒルズゴルフクラブを紹介する。

Sand Hills Golf Club

©David Cannon (Getty Images)

ネブラスカ州の中心に位置する、自然を生かしたゴルフ場。11番ホール・パー4(408ヤード)。

サンドヒルズ・ゴルフクラブ
設計:ベン・クレンショー/ビル・クーア
全長:7089ヤード・パー71
備考:1995年にオープンした18ホールのコース。第一次世界大戦以降、アメリカで最もナチュラルなゴルフ場と言われ、わずか2億円弱で造られたコースとしても知られている。

アメリカの僻地に存在する傑作

もしあなたが様々なゴルフ場に足を運んでプレーを楽しむタイプの人間なら、世界中どこよりも、サンドヒルズGCを〝マストGO〟の筆頭格のコースとしてオススメしたい。
ネブラスカの辺境の地にあるが、時間をかけてでも行く価値があると断言する。

サンドヒルズGCは、主要な空港から少なくとも4時間の距離にある。
最寄りの空港はゴルフ場から約100キロのノースプラットにあるが、この小さな地方空港には非常に小さなコミューター機しか飛んでおらず、ゴルフバッグ以上のものを積むのに苦労することがよくあるので、注意が必要だ。
なお、ノースプラットは、アメリカ横断鉄道の「ポニーエクスプレス」の中継地点として誕生した興味深い町である。

車や飛行機でノースプラットに到着したら、約110キロ離れた人口わずか600人の小さな町、ミューレンに向かって97号線を北上する。
ミューレンまで約20キロのところで看板が目に入るが、これがゴルフ場への入り口の目印だ。
起伏に富む砂丘をくねくねと縫うように進むと、ディズマル川のほとりに生い茂る低木に囲まれたロッジに到着する。
ロッジは一度に約50人のゴルファーを収容出来、実に快適な宿泊施設だ。
クラブハウス内のレストランのステーキは実に美味しく、肉好きの方は試して欲しい。

私は夜にサンドヒルズに到着したが、ミューレンへの道路脇にある看板を見つけるのが大変で、「マイルポスト50」を探すのが一番の手がかりになった。
ある意味、そうしたことがこの素晴らしいゴルフ体験のミステリアスな雰囲気をさらに高めてくれたともいえる。
町から何キロも離れたこの場所は、地球上で最も明かりの少ない場所の一つに違いない。
澄み切った星空を見、川のほとりに暮らす夜行性動物たちの鳴き声に耳を澄ますのは、最高の経験だった。

なお、ここはメンバーコースであり、プレーの手配は困難。
だが、事前にゴルフ歴やハンデなどの情報とプレーしたい理由を書いて申し込むと、このクラブでプレーするに相応しい、真摯なゴルフ「巡礼者」として歓迎してくれるだろう。

ありのままの自然を最大限生かした風が造り出したゴルフ場

©David Cannon (Getty Images)

18thPar4/467yard

グリーン左手前に大きなバンカーが口を開ける、18番ホール・パー4。このコースでは、風がバンカーを造ると言われている。

©David Cannon (Getty Images)

すべてのパー3ホールのティーに設置されている目土用の砂が入った缶。手作り感満載の味わい深さ。

©David Cannon (Getty Images)

周囲には何もないので、宿泊する際は、敷地内のゲスト用ロッジへ。

サンドヒルズを開発したのは、シカゴのディック・ヤングスキャップ氏と、熱心な支援者グループだ。
1990年、ゴルフ場をデザインするベン・クレンショーとビル・クーアを北米のこの辺境の地に招待した。
私は以前、ベンに初めて行った時のことを尋ねたことがあったが、これまでのどのプロジェクトの初回訪問よりもワクワクしたと言っていたのだ。

彼らは、その後数か月の間に、近隣住民たちとの小さな区画の「土地交換」を経て、最終的にこの素晴らしい砂丘にゴルフ場をレイアウトすることを決定した。
この設計の最も素晴らしいところは、コース建設中に動かした土の量が極めて少なかったこと。
なにしろわずか3058㎥の土を掘削しただけで、この傑作を造り出したのである。

彼らが発見した自然からの贈り物は、これだけではなかった。
土や砂の一粒一粒が丸いこと、そしてその土地が天然の帯水層の上にあり、驚くほど自然に排水され、無限に水が供給されることが判ったのである。
そのため、全米ゴルフ協会仕様のグリーンを造るための費用は、通常約543万円かかるのに対して、1グリーンあたり約80万円で済んだ。
実際、このゴルフ場を建設するにあたり、唯一、多額な費用がかかったのは散水装置だけであり、建設総額でもわずか約1億6000万円だった。
世界でもトップ10に入るであろうコースが、これだけの金額で出来上がったのである。

現地で初めて迎えた朝、なだらかな丘陵地帯に、鮮やかな緑色のフェアウェイが「指」の形のように自然な曲線を描いているのを見て、ゴルフ界で最も素晴らしい景色の一つだと思った。
美しい日の出で、どこを見ても壮麗なシャッターチャンスに溢れていたのだ。

Natural Masterpiece
自然の織りなす傑作

©David Cannon (Getty Images)

12番ホール・パー4(417ヤード)の美しい夕日。太陽は、このホールの奥に沈んでいく。

アメリカ先住民の地でスピリチュアルゴルフ体験

ウォームアップが終わり、丘を越えて最初のティーに向かう。
1番ホールは2オン可能な素晴らしいパー5で、自然の形状を生かしたフェアウェイバンカーの間を緩やかに蛇行しながら、若干打ち上げのグリーンへと向かう。
また、タフな4番ホール(485ヤード・パー4)も、美しく仕上げられたホールだ。
何世紀も前からそこにあるかのようなグリーンに向かって打っていく。
ここが新しいコースであるとはとても信じられない。
9番と18番のグリーンの上に位置する「ベンのポーチ(ベランダ)」で軽食をとった後、私は10番ホールに向かった。
10番ホールから11番にかけての眺めは、それ自体が名画のようである。
バック9の2つのショートホールも圧巻で、私の友人であるニック・ファルドは、1999年にここを訪れ、きつい上り坂のある13番ホール(216ヤード・パー3)でホールインワンを達成したことで有名だ。
1回しか挑戦していないのに大したものだ。

16番グリーンから17番ホールのティーに登ると、サンドヒルズで最高の景色を見ることができる。
サンドヒルズのすべてのバンカーは自然な形状を生かしたものだが、もし私が第2の人生でゴルフ場の設計家になるなら、正直言って、これほどまでに絶好の土地はないと思う。

サンドヒルズでのゴルフは、とてもスピリチュアルな体験である。
プレー中ずっと、「シッティング・ブル(先住民・スー族の戦士)」と彼の仲間たちが今にも地平線上に現れるのではないか、と錯覚してしまうほどだ。
パッティングすると、ボールがグリーンをコロがり、鳥がさえずり、別のホールで誰かがカップインする音しか聞こえない、不思議な空間である。

Text & Photo/ David Cannon (Getty Images)

David Cannon デビッド・キャノン(イギリス)

海外メジャー100大会以上を取材し、現在も第一線で活躍中のゴルフフォトグラファー界の巨匠。自身もシングルハンデの腕前で、息子はプロゴルファー。アメリカ、ヨーロッパ、中東、オーストラリア、アジアと世界各国を股にかけて撮影している。2022年、PGAオブ・アメリカ生涯功労賞を受賞。Getty Images所属。

Text & Photo/ David Cannon (Getty Images)

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