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【LIVゴルフニュース】アンソニー・キム 謎の12年間の失踪と突然の復帰

アンソニー・キム(アメリカ)
1985年6月19日生まれ。2006年にプロ転向し、PGAツアー3勝。2008年以降、世界ランクで20週連続トップ10入りし、「ライダーカップ」「プレジデンツカップ」にも出場。2012年6月、アキレス腱断裂により、戦線離脱。2024年3月、「LIVゴルフ・ジェッダ」で競技に復帰。「LIVゴルフ・ジェッダ」で12年ぶりに公の場に姿を現したアンソニー・キム。現在38歳だ。©LIV GOLF
現在のキムの顔は、鼻が変形し、顔が非対称になっているが、コカインの使用により「コカイン鼻」を引き起こし、その再建手術を受けたのではないか、という憶測も広まっている。実際、キムは「僕はゴルフ場以外でも攻撃的で、それが自分のツアーでの終焉につながった。悪い人たちとつるんでいたこともあった」と語っている。©LIV GOLF

約16億円の保険契約の取り決めが失踪の原因か?!

かつて、プロゴルフ界で最も才能豊かな選手の1人として活躍が期待されていたアンソニー・キム。
2012年「ウェルズファーゴ選手権」をケガで棄権後、突如姿を消し、実生活の実態も明かされないまま、12年が過ぎた。
そして今年の3月、LIVゴルフで突然復帰したのだ。
今まで何をしていたのか?また、なぜ復帰することになったのだろうか?

「ジェッダ大会」の練習日、Tシャツ・短パン姿で練習していたキム。キャディバッグやキャップにはLIVゴルフのロゴが入っている。©LIV GOLF
ジェッダ(サウジアラビア)、香港の2試合を終えた時点で、平均飛距離は284.4ヤードだった(55人中52位)©LIV GOLF

2012年にツアーから姿を消した天才

2006年にプロ転向。スポンサー推薦で出場した「バレロ・テキサスオープン」でいきなり2位タイに入賞し、衝撃的なデビューを果たしたアンソニー・キム。
その年末にQスクールを受けて合格し、当時最年少(21歳)でPGAツアーのシード権を獲得した。

2007年からツアーに本格参戦し、2008年には「ワコビア選手権」でツアー初優勝。同年に「AT&Tナショナル」で2勝目を飾り、大ブレークすると、「ライダーカップ」や「プレジデンツカップ」などにも出場。
また、2009年の「マスターズ」では、2日目に11バーディを決め、大会記録を更新。
なお、この記録はいまだに破られていない。そして2010年「シェル・ヒューストンオープン」で優勝し、25歳になる前にツアー3勝を飾った5人目の選手となった(他、フィル・ミケルソン、タイガー・ウッズ、セルヒオ・ガルシア、アダム・スコット)。

このように彗星の如く現れ、スター街道を歩んでいた彼だが、一方でトラブルメーカーと言われることもあった。
ルーキーイヤーの2007年にはパーティ三昧。
「華やかな世界に足を踏み入れ、自分をコントロールできなかった」と語っていたという。
また、真面目に練習もせずにコースを後にすることも多かった。
「プレジデンツカップ」では試合期間中に朝帰りしたこともあったという。

かつてはポストタイガーと目され、そのガッツ溢れるプレーぶりと、パフォーマンスで将来を嘱望されていたが、2012年「ウェルズファーゴ選手権」の初日を終えて棄権すると、そのままツアーに復帰することなく、プロゴルフ界から姿を消した。
当時、26歳だった。

彼はアキレス腱や背中、手首、左手親指の靭帯などを痛めており、その治療のために戦線離脱していたと考えられていたが、2015年にAP通信のインタビューでは「回旋筋腱板(肩甲骨と上腕骨を繋いでいる筋腱の総称)、腰、手などに6~7回手術を受けた」と語っている。
実際、アキレス腱や左手親指の靭帯断裂の手術も受けたそうだが、左前腕の慢性的な痛みに苦しんでおり、世界最高峰のPGAツアーで戦うことが不可能となっていったようだ。

競技に12年間も復帰しなかった理由

しかし、それらのケガを負ったとしても、治療すればタイガー・ウッズのように1~2年後には少しずつツアーに復帰することも可能だったのではないか?
だが、彼は決して戻ってこなかった。
それは、彼が契約していた保険金に主な理由があるという。

キムは、ゴルファーとしてのキャリアを終わらせるほどのケガを負った場合、経済的補填を受けられる巨額の保険をかけていた。
その金額は1000万~2000万ドル(約16億円~32億円)とも言われている。
もし復帰するなら返金しなければならない可能性もあり、それがイヤで復帰しなかったのではないか、と見られている。
だが、真相は不明だ。
もともとツアーには友人と呼べる選手も特におらず、居場所がなかったという一匹狼。
選手仲間からの励ましなども、あまりなかったに違いない。
体の故障のため、精神的にも肉体的にも参っていたキムは、巨額な保険金があれば、プロゴルファーとしてのキャリアを終わらせてもいい、と思ったのだろう。

だが、12年の年月が経ち、保険金の返済を肩代わりしてもらいつつ、プロゴルフに復帰するという奇跡のルートがキムにもたらされた。
LIVのCEO、グレッグ・ノーマンが直接キムに連絡を取り、LIVゴルフへの参加を打診。
その交渉には、彼の保険の返金を1年間肩代わりするという条件が含まれ、それに加えて、賞金とスポンサー契約を獲得できるようになっているという話である。

ショット、パットともに、試合を追うごとに復調。
「香港大会」では平均パット数1位に

韓国人の両親を持つ韓国系アメリカ人(韓国名:キム・ハジン)で、ロサンゼルスで生まれ育った。写真は2010年「マスターズ」に参戦し、3位に入賞したキム。©GettyImages
2009年「プレジデンツカップ」の米国チーム代表メンバーだったキムが、世界選抜チームキャプテンのグレッグ・ノーマンと会話。まさか15年後、キムの競技復帰にノーマンが関わるとは思ってもみなかっただろう。©GettyImages
かつて、コーチのアダム・シュライバーに師事していた。©GettyImages
2008年「ワコビア選手権」では、2位と5打差でPGAツアー初優勝を飾った。©GettyImages
バルハラCCで行なわれた2008年「ライダーカップ」で、米国チームの優勝を祝うキム(中央)。©GettyImages
2005年「ウォーカーカップ」で、ブライアン・ハーマン(左)とタッグを組み、米国チームにポイントをもたらしたキム。アマチュア時代から活躍していた。©GettyImages
2009年「マスターズ」第2ラウンドで、13番ホールを一緒に歩くローリー・マキロイ(左)とキム。©GettyImages
以前は「ポストタイガー」とも言われ、輝かしい才能を発揮していたキム(右)。2010年「WGCブリヂストン招待」最終日にタイガー・ウッズと同組でプレー。©GettyImages

12年が経過。復帰したAKの変貌ぶり

2012年に姿を消して以来、12年ぶりに公の場に姿を現した38歳のアンソニー・キム。
グレッグ・ノーマン率いるLIVゴルフのメンバーとして戦うことになった。
彼は、3月開催の第3戦「LIVゴルフ・ジェッダ」から出場。団体戦13チームには属さない、「ワイルドカード枠」で個人戦のみプレーしている。
自身初戦の「ジェッダ大会」では、通算16オーバーで予想通り最下位の53位に。
52位の「ワイルドカード枠」で出場しているハドソン・スワフォードとは11打差、優勝したホアキン・ニーマンとは33打差がついた。

「厳しい1週間だったが、プロゴルフで再びプレーできるのはワクワクしている。改善しなければいけないことはあるが、今週はいいこともたくさんあり、それを積み重ねて今年のうちに、何かしらの成績を残したい」

「ショットはいい感じだ。スコアにそれが反映できておらず、ガッカリしているが、改善すべきこともたくさんあるのはわかっているし、今、取り組んでいることをやっていくつもりだ」

彼は過去12年間、ほとんどゴルフをしておらず、初日にはポケットにマーカーを入れることも忘れていたくらいだ、と語っていたが、12年ぶりにプレーし、手応えを感じたようだ。
また、その翌週の「LIVゴルフ香港」では、最終日に5つスコアを伸ばし、通算3オーバーの50位に。最下位ではなかった。
彼の下には、ジェイソン・コクラック(6オーバー)、ハドソン・スワフォード(8オーバー)、フィル・ミケルソン(8オーバー)、キーラン・ビンセント(9オーバー)の4人がいた。
また、平均パット数では、1.39で54人中1位を記録した。

「長い間、ゴルフから離れていたので、試合に出るための全ての準備を行なうのは難しかったが、正しいことに取り組んでいると確信している。ゴルフに対して感謝の念を持って、プレーしているんだ。毎週、家族と一緒に過ごしているが、妻と娘は私の生活で最も大事な存在。彼女らのサポートを受けられることに感謝している。そして選手やキャディなどLIVファミリーが私を受け入れてくれて、サポートしてくれていることに感謝してもしきれない」

過去12年間、彼がどのような生活をしてきたのかについては、公表されていないが、顔や鼻の変形、ノドの傷などから、いろいろな憶測が飛び交っている。
コカイン依存症だったのではないか、薬物やギャンブルなどの借金で襲撃され、重傷を負ったのではないか……などだ。
なお、「適切な時期が来たら、自分の話をする。今は、ゴルフに集中している」と本人は語っている。

石川遼もアンソニー・キムとは、「マスターズ」や「全米オープン」で同組でプレーしたことがあった。©GettyImages
キムといえば、ド派手なベルトのバックルが有名だった。©GettyImages
妻と娘の2人との生活が、最も大事だと語るキム。©LIV GOLF

Text/Eiko Oizumi
Photo/LIV GOLF, Getty Images

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