大会2日目のシェフラーの1日
◉5時9分:ゴルフ場付近で歩行者(大会関係者の1人)が、シャトルバスに撥ねられ死亡
◉6時1分:スコッティ・シェフラーが、ルイビル警察に拘束される
◉7時28分:ルイビルメトロポリタン留置所で逮捕
◉8時40分:釈放
◉9時12分:コース到着
【罪状】
①警察官に対する第2級暴行
②第3級犯罪行為(器物破損)
③無謀運転
④交通整理をしている警察官の指示を無視(交通信号無視)
人生初の留置所でストレッチ
試合1時間前にコース入りし、66をマークして4位タイに浮上!
暴行、器物破損、信号無視の容疑で逮捕されたシェフラー
「全米プロ」第2ラウンド開始前から、バルハラGC周辺は騒然となった。
世界ランク1位のスコッティ・シェフラーが、ラウンド前になんと逮捕されたのだ。
5月17日金曜日の午前5時9分。試合会場に物資を運ぶベンダーの1人(ジョン・ミルズ氏)が、シャトルバスに轢かれて死亡。
その影響でコース周辺には大勢の警察官が集まり、交通整理にあたっていた。
そして午前6時過ぎ、午前スタート(もともとは8時48分スタート予定だったが、死亡事故のため、1時間20分後の10時8分スタートに遅延)のシェフラーが会場入りしようとやってきたが、この時、警察官の交通整理を無視し、コースへと車を走らせようとしたとして、警察官がシェフラーに対し、大声で車から出るよう叫び始めた。
警察官は車から出たシェフラーを車に押し付け、後ろ手にし、手錠をかけてパトカーへ。
シェフラーはそのままルイビル警察に連行された。
取り調べを受け、第3級の犯罪行為、第2級の警察官への暴力行為で7時28分に逮捕されたが、8時40分に釈放。
9時12分にコースに到着した。
コースに到着すると練習場へ直行し、練習開始。
スタート時間まで1時間を切る慌ただしい中での練習となったが、予定通りにティーオフした。
シェフラーはラウンド前に次のように語っている。
「今朝、警察官の指示に従って行動していたが、先ほど起こった悲惨な事故(ベンダーの1人がシャトルバスに轢かれて死亡)を考えると当然のことだが、非常に混乱した状況だった。そして、自分が警察官から求められていると思っていたことについて、大きな誤解があった。指示を無視するつもりは全くなかった。今日はゴルフに集中したい」
コース入りしてからのシェフラーの1日
通常プロはスイングや体、メンタルを整えるために2時間は最低限練習や準備に費やすものだが、シェフラーは本来のスタート時間の約3時間前に、バルハラに到着していた。
だがこの日は釈放後、1時間弱の時間しかなかったため、準備不足は否めなかった。
留置所の中でストレッチをして過ごし、クラブハウスに到着した後も10分間、トレーナーとともにストレッチセッションを実施。
その後スタート時間の35分前に雨の中、ドライビングレンジに向かったシェフラーだが、「逮捕されるとは思ってもみなかったこと」であり、こんな慌ただしい中ティーオフしなければいけない彼にとって、プレーに悪い影響が出てもおかしくない状況だった。
しかしこの日のシェフラーは、6バーディ、1ボギーの66で回り、通算9アンダーの4位タイに浮上した。
「正直、何が起こったのかよくわからない。まだ頭が回っていない感じで、今朝の出来事は説明しがたいが、留置所でストレッチをして過ごした。これは私にとって、初めての経験だった。待っている間にウォームアップを始めたが、まだ今日、ここでプレーできる可能性があると感じていたゴルフができて幸運だった」
「今日はたった1時間弱の中で、ショットもパットも短縮しながら練習を行なわなければならなかった。そのためか、いつも通りのプレーができるまでに数ホールかかった。準備の時間は大切だが、数ホール経ってから落ち着いた」と語った。
彼は精神面も強く、少しのことでは動じない強心臓の持ち主と思われているが、実際は好スコアとは裏腹に、さすがの彼でもショックで、体が震えていたのだという。
「非常に動揺した。私を留置所に連れて行った警官はとても親切で、車の中での会話で落ち着かせてくれた。僕は怒ってはいないけど、ショックで体が1時間ほど震えていたんだ。こんな感覚になったことは、今までになかったよ」
シェフラーは親切な警察官に付き添われ、冗談も交わしながら、サンドイッチをもらって食べたという。
コースに出てからもショックと恐怖で震えは止まらなかったそうだが、心を落ち着け、冷静にプレーをしようと心がけた。ポーカーフェースの彼の精神状態が、そんな状況だったとはプレー中の姿を見ても全く感じられなかったが、「ファンの応援が背中を押してくれた」とシェフラーが語るように、ファンはシェフラーに好意的で、彼らの後押しが彼の気持ちを落ち着かせ、目の前の1打に集中させたようだ。
また、サム・バーンズやリッキー・ファウラー、ブレンダン・トッドらプロ仲間からのハグや励まし、温かい言葉にも助けられた。
早朝からの珍事に動揺したシェフラーだったが、世界ランク1位らしい強さを見せ、1日を終えた。
Photo/Eiko Oizumi、Getty Images、PGA of America
Text/Eiko Oizumi
大泉英子
「ゴルフ・グローバル」編集長。海外メジャー取材は男・女・シニア合わせて130試合以上。現在も海外ツアーをメインに取材。全米ゴルフ記者協会、欧州ゴルフ記者協会、日本ゴルフジャーナリスト協会会員。