
ゴルフ界の分断を解消するキーパーソン
セベ・バレステロスが1980年代から90年代にかけて、ゴルフ界に革命を起こし、このスポーツに新たな次元をもたらしたように、スペイン北部バリカ(バスク地方)出身のもう一人のスペイン人が、この混乱したゴルフ界を和解させ、新しいゴルフの世界を創り出そうとしている。
それがジョン・ラームだ。
ライオンは、ジャングルの王であり、自然界の強く優雅で、力強い存在。
そして、ジョン・ラームに深く結びついた象徴でもある。
現在、ゴルフ界で最も優れた選手の一人であるラームに、なぜライオンが関係あるのか?
ラームはバスク地方で生まれ、幼少期から地元のサッカーチームであるアスレティック・クラブ・デ・ビルバオ(スペインでは「ロス・レオネス《ライオンの意》」として知られる)の大ファンだった。
伝説によれば、のちにカトリック教会によって聖人マメスは、迫害された多くの聖人と同じ運命を辿り、ローマのコロッセオでライオンに食べられて死ぬ運命にあったが、彼は獣を手懐け、ライオンたちはこの聖人の前で謙虚になったという。
ライオンはまた、ラームが所属するLIVゴルフのチーム「リージョンXⅢ」のシンボルでもある。
現在のルーマニア、モルドバ、ブルガリア、ウクライナなどのカルパチア山脈一帯の地域に駐屯し、最終的に姿を消したのが、ジュリアス・シーザーの主要部隊の一つで、ルビコン川を渡ったレギオXⅢジェミナ(第13双子軍団)であり、そのシンボルは、ライオンだった。
我々はラームの性格や強い競争心を持つDNA、ゴルフ場での情熱的なプレー、信念のために戦う彼の粘り強さにレギオXⅢとの類似点を見出せる。
そして彼がLIVゴルフに参加したこと(金銭的なことは別として)によって、ゴルフ界を統一する可能性があるということを、我々もラーム自身も信じている。

世界のゴルフ界に激震をもたらしたラーム
サウジアラビアの「ビジョン2030」プログラム(石油だけに頼らない国家を作るという構想)に基づき、昨年12月、ジョン・ラームを数百万ドルという巨額の資金でサウジが後援するLIVゴルフに引き入れた。
すでにダスティン・ジョンソン、パトリック・リード、ブルックス・ケプカ、フィル・ミケルソン、そしてセルヒオ・ガルシアなど、多くのゴルフ界のレジェンドたちがLIVゴルフに参加しており、彼らは「メジャー」で何度も優勝してきた。
しかし、決定的な一撃がまだなかった。
タイガー・ウッズを招こうとしたが、失敗に終わったのだ。
そして驚きのニュースが届いた。
ジョン・ラームの移籍である。
彼の契約は、PGAツアーの独占に挑戦した、リーグを推進するためのものであり、世界のゴルフ界に激震をもたらした。
天文学的な高額賞金がかかった個人戦やチーム戦の試合が、突然カレンダーに登場し、脚光を浴びる都市で開催されるようになったのだ。
それからわずか10か月後、ラームは、期待を裏切るどころか、「LIVゴルフ」の歴史にその名を刻み込んだ。
LIVゴルフは、米国や欧州のツアーとは大きく異なるルールを導入し、伝統と現代性という点で革新を起こしている。
ラームに向けられた失望と疑念

ラームのLIVゴルフ最終戦での勝利は、今シーズンが彼にとって失望や衝撃で彩られていただけに、なおさら祝福されるべきものである。
LIVへの移籍を最も批判していた人々は、バスク地方出身のこのゴルファーが、今夏にロチェスター(イングランド)のJCBゴルフ&カントリークラブでようやく初勝利を挙げるまで疑念を募らせており、その前のスペイン・バルデラマでの大会でも期待を裏切られていた。
そしてその疑念は、「パリ五輪」でのラームの衝撃的な転落によって、途方もない失望へと変わった。
8ホールを残して4打差でリードしていたにもかかわらず、ラームは信じがたいほどの崩れを見せ、メダル圏外にまで転落。自身でもその原因を説明することができなかったのだ。
しかし、今では懐疑的だった人々も、この不屈のスペイン人ゴルファーの見事な実力を、目の当たりにしている。
シーズン中、全ての大会でトップ10入りしたラームは、シカゴのボーリングブルックで行なわれた個人・最終戦の最終ラウンドでは、チリのホアキン・ニーマンに3打差で優勝。
3日間大会の初日のラウンド後の段階では、非常に楽観的か、無条件に彼を信じていなければ、ラームが最終的に勝つと予測するのは難しかっただろう。
しかし、最後の2ラウンドで記憶に残るプレーを見せ、11アンダーで首位に浮上。ニーマンは、果敢に攻めて差を詰めようとしたが、運が味方しなかった。
そして、カステヨン出身のセルヒオ・ガルシアが、シカゴ大会での活躍(2位タイ)によりLIVゴルフ個人戦総合で3位に浮上し、世界のゴルフ界で最も堅実で、見事なプレーをする選手の一人、イギリスのティレル・ハットンを僅差で上回った。
来年の「ライダーカップ」に出場するために

今秋、ジョン・ラームはDPワールドツアー(欧州ツアー)にも挑戦した。
彼はマドリード・カントリークラブでの「スペインオープン」に出場し、プレーオフで敗れて2位に。
セントアンドリュースで開催された「アルフレッド・ダンヒル・リンクス選手権」では7位タイに入り、「アンダルシア・マスターズ」は6位で終えた。
原則として、欧州ツアーが課している制裁金を支払うことなく、これらの大会に出場したが、この問題は現在も裁判所で審議中である。
サウジリーグの新チャンピオンとなったラームは、LIVと欧州ツアーの両方に参加。
「スペインオープン」の優勝賞金は、約49万ユーロで、この額はスペインや欧州では大きな額だが、LIVゴルフで得られる額に比べれば「小銭」に過ぎない。
しかし、この不屈のバスク人は「私の存在が、スペインのゴルフとスペインにとって良いものだと知っているから出場する」と主張していた。
ライオンの心の中は、全てがお金だけではないようだ。
Text/Isabel Trillo Amores

イサベル・トリロ・アモーレス(スペイン)
PGA・オブ・スペインのコミュニケーションディレクター。80年代後半からゴルフ取材を始め、その数は世界250試合以上。ゴルフのラジオ番組も手がける。