
大学内に一流ゴルファーのための室内ゴルフ場誕生!
フロリダ州のパームビーチ州立大学のキャンパス内にある「SoFiセンター」は、大手投資家やタイガー・ウッズ、ローリー・マキロイらの支援を受けてスタートした、テクノロジーを駆使したゴルフリーグ「TGL」の本拠地だ。
1月上旬に開幕し、3月下旬に閉幕するイベントで、ESPNが合計15回の2時間番組を放映した。
このリーグのために、1500人を収容できる施設が建設され、1年間にわたり急ピッチで工事が進められてきた。
しかし、2023年11月に発生した一時的な停電により、密閉されたドームが崩壊。
リーグの開幕は1年間延期された。
このとき、TGLが本当に実現するのかどうか、深刻な懸念が生じた。
TGLの長期的な実現性については、多くの疑問が残るが、主催者がより大きくより良い施設を完成させ、PGAツアーの選手たちが巨大スクリーンに向かってショットできる環境を整えたことは、彼らの本気度を示している。
「延期は結果的に良かったと思う」とマキロイは語る。
この延期によって、リーグはアリーナの改良に時間をかけることができた。
巨大なスクリーンは幅64フィート(約20メートル)、高さ53フィート(約16メートル)で、選手たちは約35ヤード離れた場所からショットする。
本物のバミューダ芝のフェアウェイとラフ、そしてオーガスタ・ナショナルのバンカーで使用されているものと同じ砂が使われたバンカーが再現されている。
施設全体の面積は2万3200㎡で、プレーエリアは長さ97ヤード(約89メートル)、幅50ヤード(約46メートル)となっている。
グリーンまで40ヤード以内のエリアは人工芝で、その下にある油圧システムにより、地形を変えて、7つの異なるピン位置でプレー可能となっている。
「もし予定通り進んでいたら、このような姿にはならなかっただろうから、ある意味ではいいことも少しはあったと思う。SoFiセンターを訪れた誰もが、その素晴らしさに圧倒されているはずだよ」(マキロイ)
延期により、TGLは投資家やスポンサーの確保にさらに時間をかけることができた。
これはリーグの存続にとって重要な要素である。
しかし、このような形態のゴルフに十分な観客が集まり、リピーターになるかどうかは、最大の未知数だ。
マキロイもビックリ!
1年延期されたからこそ可能になった施設のアップグレード

タイガー、マキロイが賛同したトゥモロースポーツとは?
TGLには、リーグの株式を与えられた24名の選手が参加しているが、シーズン終了時に総額2100万ドルの賞金が支払われ、そのうち優勝チームには900万ドルが与えられる。
近年、ゴルフ界では賞金額が大きく取り沙汰されており、それがマイナスに捉えられる傾向にあるため、TGLは賞金面を強調せず、現在のゴルフ界の基準からすると比較的控えめな賞金額となっている。
TGLは「Tech Golf League(テクノロジー・ゴルフ・リーグ)」または、「Tiger Golf League(タイガー・ゴルフ・リーグ)」「Tomorrow Golf League(トゥモロー・ゴルフ・リーグ)」の略称と言われているが、「TGL」は正式名称で、略称ではないのだと言う。
このリーグは、元ゴルフチャンネル幹部のマイク・マッカリー氏が設立した「tmrw sports(以下、トゥモロースポーツ)」の一部門となっている。
「このアイデアが具体的に形になり始めたのは、2016年頃だった。リオ五輪や私の生まれ育った世界と、その中にゴルフがあることを知ったことの影響が大きかった」と、NBCでさまざまなスポーツ関連の役職を歴任したマッカリー氏は語る。
「五輪でゴルフが開催されるのを見て、チームとしての結束が生まれる瞬間に気付いた。また、全米オープンが西海岸で開催された際、ゴールデンタイムにゴルフが放送されると、視聴者数の規模や層が変化することにも注目した。それに加えて、チームゴルフの要素や選手同士の会話の面白さ、それらを組み合わせたら面白いものができるのではないか、と考えた」
マッカリー氏によると、この構想を実現するための技術的なアイデアが具体化し始めたのは2018年から2019年頃のこと。
そして、その1年後、彼はタイガー・ウッズにこの計画を持ちかけた。
ウッズが賛同したことで、次にマキロイに話を持ちかけ、彼もすぐにこの構想を受け入れた。
2021年初頭には、マッカリー氏はこうしてトゥモロースポーツの最初の2人の投資家を確保。
2022年8月の「ツアー選手権」で正式にトゥモロースポーツが公表された。
なお、ウッズとマキロイの関連会社も、投資家として関与している。
興味深いことに、この時期はPGAツアーが構造改革を発表し、「シグネチャーイベント」の新設やトッププレーヤー向けの賞金増額を決定したタイミングと重なる。
LIVゴルフが発足し、ゴルフ界は大きな変革の時期を迎えていたが、トゥモロースポーツとTGLの計画は着々と進んでいった。
TGLの構成·仕組みと支援する投資家の面々
TGLは6チーム編成で、各チーム4名の選手が在籍。
8週間のリーグ戦で5回、対戦する。
各試合では、4名のうち3名が出場する方式で、試合は15ホールで構成。
前半は「トリプルマッチ(3人1組の交互打ち)」、後半は「1対1のマッチプレー」で行なわれる。
各ホールごとに1ポイントが与えられ、引き分けの場合でも繰り越しはない。
15ホール終了時に同点だった場合は、「ニアピン対決」によって勝敗が決まる。
リーグ戦では各チームが他のチームと1回ずつ対戦し、その後、3月17日~18日に上位4チームによるプレーオフ。
そして、3月24日~25日に「2勝先取制」の決勝戦が実施される。
「ニューヨークGC」は、ニューヨーク・メッツのオーナーであるスティーブ・コーエン氏と彼の投資会社「コーエン・プライベート・ベンチャーズ」が所有。
コーエン氏は最近、外野手フアン・ソトと7億6500万ドルの契約を結んだことでも話題となった。
テニスプレーヤーのセリーナ・ウィリアムズとビーナス・ウィリアムズは、「ロサンゼルスGC」のオーナーの一員となっている。
タイガー・ウッズは、自身のチーム「ジュピターGC」の共同オーナーであり、彼と共にオーナーとなっているのがデビッド・ブリッツァー氏だ。彼は、NHLのニュージャージー・デビルズやNBAのフィラデルフィア76ersのオーナー権を持つなど、様々なスポーツチームに関わっている。
また、NBAスターのステフィン・カリーは、「ザ・ベイGC」のオーナーの一人だ。
TGLはチームの売却価格を公表していないが、価格は8桁(1000万ドル以上)を大きく超えていると考えられている。
「アベニュースポーツファンド」のマーク・ラズリー氏は2023年11月、CNBCのインタビューで「ザ・ベイGC」の購入について語り、「価格は2500万ドル以上で、1億ドル未満だった」と明かしている。
彼はTGLの魅力について、次のように語る。
「私たちが目指しているのは、ゴルフを2時間で観戦可能にし、ゴールデンタイムで放送し、バーチャル環境でプレー。そして、ゴルフ場を歩く選手を延々と見なくても済むということだ」
スポンサー、PGAツアー、タイガー·ウッズがともに災害支援


ロサンゼルス郊外の火災の影響で、開催地が変更
「ジェネシス招待」は毎年、ロサンゼルス近郊のリビエラCCで開催されているが、その地域は大規模な山火事により、住宅や商業施設が甚大な被害を受けた。
リビエラ自体には被害はなかったものの、被害の大きかったパシフィックパリセーズ地区に近いため、安全上の懸念からリビエラでの開催は不可能と判断された。
その結果、大会は最終的にトーリーパインズで行なわれることになった。
トーリーパインズでは毎年「ファーマーズ・インシュランスオープン」が開催されており、今年はハリス・イングリッシュがが優勝したばかりだったが、困難な状況の中、PGAツアーの関係者とTGR財団(タイガー・ウッズの財団)が協力し、開催地の変更を実現させた。
なお、ジェネシス、TGR財団、PGAツアーは「カリフォルニアライズ」を立ち上げ、被災地域の復興支援を推進。100台のトーナメント車両と現金による800万ドルの寄付を行ない、ウッズがホストを務める本大会が、地域社会、消防士、慈善団体による復興への取り組みを称える場となった。
Text/Bob Harig

ボブ・ハリグ(アメリカ)
Sports Illustrated誌のゴルフライター。25年以上にわたり、ゴルフトーナメントの取材を続けている。全米ゴルフ記者協会会員。