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ローリー・マキロイ、「マスターズ」初優勝で、
キャリアグランドスラム達成!
優勝を示唆する、数々の啓示

Text/Eiko Oizumi
Photo/Augusta National Golf Club

「マスターズ」初優勝を遂げ、キャリアグランドスラムを達成したローリー・マキロイ(左)と、オーガスタナショナルGC委員長のフレッド・リドリー氏。

 2011年の「全米オープン」でメジャー初優勝を果たし、2012年には「全米プロ」、2014年には「全英オープン」と、異なるメジャー大会のトロフィーを順調に手にしてきたローリー・マキロイ。4大メジャー全制覇に向けて、残すは「マスターズ」の優勝のみという状況になってから11年――ついに今年、その悲願が叶い「マスターズ」で初優勝を遂げた。
 これにより、ジーン・サラゼン、ベン・ホーガン、ゲーリー・プレーヤー、ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズに続く史上6人目の「キャリア・グランドスラム」達成者となった。また、今大会の優勝により、マキロイは420万ドル(約6億円)の優勝賞金を獲得。世界ランキングでは依然としてスコッティ・シェフラーに次ぐ2位となっているが、フェデックスカップ・ランキングでは今季3勝目で、2位のセップ・ストラーカに1100ポイント以上の差をつけて、独走状態に入っている。

「本当に夢が叶った。物心がついた頃から、ずっとこの瞬間を夢見てきたんだ。1997年にタイガー・ウッズが優勝したのを見て、彼が最初のグリーンジャケットを手にした瞬間、僕の世代の多くが『自分もいつか、彼のようになりたい』と思っただろう。正直、自分でも“グリーンジャケットに袖を通す日が来るのか?”と疑った時期もあった。今日のプレーもラクではなかったし、すごく緊張していた。自分のゴルフ人生の中でも、最も厳しい1日だったと思う」

 3日目を終えて、2位のブライソン・デシャンボーと2打差の12アンダーで首位に立っていたマキロイは、1番でいきなりダブルボギーを叩き、ブライソン・デシャンボーと並んだ。そしてデシャンボーが2番でバーディを取り、マキロイはパー。この時点でデシャンボーに逆転された。その後、デシャンボーは3番、4番で2連続ボギーを叩き、11番ではダブルボギー。12番でもボギーを叩いてこの時点では、デシャンボーの優勝のチャンスはほぼなくなっていたと言ってもいい。

 一方のマキロイは6バーディ、3ボギー、2ダブルボギーと出入りの激しいプレーで、オーバーパーの73でホールアウト(11アンダー)。この日10バーディ、4ボギーで6つスコアを伸ばしたジャスティン・ローズが11アンダーで先に上がっており、18番ホールを12アンダーのマキロイがパーで上がれば優勝という状況だったが、最終ホールで1.5メートルのパットを外し、ローズとのプレーオフに。1ホール目でローズがパー、マキロイがバーディとし、マキロイの優勝、そしてグランドスラム達成が決まった。
 ローズとは、「ライダーカップ」でも長年チームメイトとして共に戦ってきた仲間でもある。ホールアウト後に2人は抱き合い、ローズはマキロイに「このグリーンで、キミがキャリアグランドスラムを達成する瞬間に立ち会えて、本当によかった。ゴルフの歴史に残る、最高で意義深い瞬間だった」と祝福の言葉をかけた。ローズにとっては、昨年の「全英オープン」に続く2位。そして「マスターズ」では、セルヒオ・ガルシアとプレーオフの末敗れた2017年以来の2位である。「悔しいが、プレーオフで2度目の敗戦というのは、自分がいかにあと一歩だったかを突きつけられているようなもの」と語った。

プレーオフ1ホール目でバーディを取り、ジャスティン・ローズを下して優勝を果たしたマキロイ。カップにボールが沈むと両手を突き上げ、パターを放し、グリーンに座り込み雄叫びをあげた。

 マキロイにとって、2014年に「全英オープン」で優勝して以来、メジャー優勝から遠ざかっていた。11年間、オーガスタに来るたびにグランドスラム達成について質問され続けてきたが、終わってみれば何か今週は優勝の前触れのような、啓示的な出来事がいくつかあった。
 最終日の1番ホールでダブルボギーを叩いたマキロイだが、2023年にジョン・ラームが大会初日の1番でダブルボギーを叩きながらも優勝したことを思い出し、気持ちを落ち着けることができた。また、マキロイとローズは、火曜日の夜にクラブのメンバー数名に招かれ、ディナーに出席したのはこの2人だけだったという。不気味なほどの偶然だ。
 さらにもう一つ加えるなら、「パー3コンテスト」に愛娘ポピーちゃんと参加したが、最終ホールで8メートル 弱の距離のパットを彼女に打たせたところ、明らかに大ショートしそうなパッティングだったにもかかわらず、途中から急に加速し始めカップに吸い込まれていったのだ。これを現場で見ていた私は、オーガスタにはやはり女神がいるのかも、となんだかゾクゾクした。ポピーちゃんは、パットを決め、周囲が大騒ぎしているので怖くなったのかもしれない。パットが入って大喜びするどころか、泣き出しそうな顔をしてマキロイにしがみついた。

「パー3コンテスト」の最終ホールで8メートル弱のパットを鎮め、マキロイに抱きついたポピーちゃん。左は、シェーン・ローリーの娘。

 そしてもう一つ。2011年「マスターズ」の最終日にともに回った「マスターズ」チャンピオンで、DVの罪で30ヶ月の服役を終えたアンヘル・カブレラがマキロイのロッカーに「幸運を祈る」というメッセージを今年の大会の最終日の朝に残していた。2011年というのは、マキロイが最終日の前半を首位で折り返したにも関わらず、10番ホールでトリプルボギーを叩き、優勝戦戦から脱落した年だ。あの悲劇の日にともにプレーしたカブレラからのメッセージは「粋な計らいでもあったし、皮肉でもあった。14年間は本当に長かったけど、ようやく達成できて本当に嬉しい」と語っている。

 ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤー、トム・ワトソン、タイガー・ウッズらに「マキロイはいつかマスターズで勝つ」と言われることは光栄なことだが、同時にかなりの重荷だったと優勝会見で告白。
「正直にいうと、助けにはならないんですよ(苦笑)。言わないでくれればいいのに、と思うこともありました」と大きな偉業を成し遂げた男は、清々しく笑って語った。

昨年5月「全米プロ」では離婚を発表をしたマキロイだが、その1ヶ月後の「全米オープン」では離婚の解消を発表。エリカ夫人(右)、ポピーちゃん(中央)が彼の精神面での拠り所となったからこそ、この歴史的な偉業を達成できたに違いない。
同胞のシェーン・ローリーもハグで祝福。後ろには敗退したジャスティン・ローズとトミー・フリートウッドの姿も見える。今年の「ライダーカップ」の欧州チームの強い結束力をこんな場面でも垣間見ることができる。
北アイルランドで7歳の時に知り合ったという、キャディのハリー・ダイヤモンド(右)は、マキロイにとって兄のような存在。マキロイがメジャーで優勝できないのは、キャディのせいだと理不尽な批判を浴び続けてきたが、今回の優勝でその批判も一掃されるだろう。

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