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30ヶ月、ゴルフをせずに服役していた
アンヘル・カブレラが「全米プロシニア」優勝

Text & Photo/Eiko Oizumi

優勝したアンヘル・カブレラ(左から3番目)とキャディを務めた息子のアンヘルジュニア(右隣)。ラテンアメリカ出身のプロ仲間、リカルド・ゴンザレス(右・アルゼンチン出身)とフェリペ・アギラ(左・チリ出身)もカブレラの優勝をグリーンサイドで見守った。

  複数の女性への暴行の罪で、刑務所で服役していたアルゼンチンのアンヘル・カブレラ(55歳)が、先週の「リージョンズ・トラディション」(シニアメジャー第1戦)に続き、メリーランド州コングレッショナルCCで開催された「全米プロシニア」でメジャー2連勝を飾った。実は、「リージョンズ・トラディション」は悪天候のため中断し、月曜日に終了したので、1週間で2勝といった方が正しいかもしれない。

 彼は、6番ホールから10ホールで5アンダーという見事な追い上げを見せ、2アンダーの69でホールアウト。通算8アンダーでアイルランドのパドレイグ・ハリントンを1打差で破り優勝した。カブレラは、1990年以降で年初に行なわれる2つのシニアメジャー(「リージョンズ・トラディション」と「全米プロシニア」)を制した5人目の選手となったが、連週での制覇は彼が初めてだ。なお、1990年以降で同じ年にこの2大会を制したのは、リー・トレビノ(1992年)、ベルンハルト・ランガー(2017年)、アレックス・チェイカ(2021年)、スティーブ・ストリッカー(2023年)がいる。

「とても感情的になっている」とカブレラは試合後に語った。彼は昨年、アルゼンチンでの30ヶ月間の服役を終えてゴルフ界に復帰したばかりで、今年からチャンピオンズツアー(米シニアツアー)に出場している。服役中はゴルフが一切できず、「しばらくはクラブに触ることもなく、座っているだけの時間を過ごした。もう復帰することはできないかもしれない、と思っていた」と言うが、出所したあとは、できる限り一生懸命、練習に取り組んできた。その努力が奏功して、突如、チャンピオンズツアーで最強の選手の1人となっている。キャディを務める息子のアンヘルジュニアも「父は、ショットも武器だけど、メンタルも強い」と語る。

シリアスな表情で、優勝後の記者会見に臨んだカブレラ。

「見た目にはそう見えないかもしれないが、本当に感動しているんだ」

 涙を流すこともなく、言葉が詰まることもなかったが、優勝記者会見で彼は厳かな雰囲気の中、そう語っていた。

「2週連続で優勝できたこと、そして1年で3勝目を挙げられたことが本当に嬉しい。これまでの人生を思い返すと、非常に感慨深い。こんなに早く、2週連続で勝てるとは思っていなかった。このツアーには素晴らしい選手がたくさんいるだけに、今回の優勝は誇らしいし、感情的にもなる」

 今回開催されたコングレッショナルCCは、過去「全米オープン」や「全米女子オープン」が行なわれた難易度の高い名門コースで、“モンスター”と呼ばれている。長いブランクと波乱に満ちた人生を乗り越え、“モンスター”を制したアルゼンチンの怪物が、再び大舞台に帰ってきた。

次のメジャーは「全米シニアオープン」。シニアメジャー3勝目も狙い撃ちだ。
18番ホールでは、ティーショットを深いラフに打ち込んだが、パワフルなショットで脱出し、グリーンをとらえた。
10番ホール(パー3)で球の行方を見守るカブレラ。

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