Text/Eiko Oizumi
昨年、新型コロナウイルス感染拡大のため、1年延期された2020東京オリンピック。今年は無観客で開催され、男子ゴルフは、米国のザンダー・シャウフェレが金メダル、南アフリカからスロバキア国籍に登録変更したローリー・サバティーニが銀メダル、台湾のCTパンが銅メダルに輝いた。
30度を超える猛暑の中、1打を争う熱い戦いが繰り広げられていた霞ヶ関カンツリー倶楽部。3日目を終えて単独首位に立っていたシャウフェレは、最終日もスコアを4つ伸ばし、18アンダーでホールアウト。マルティナ夫人がキャディを務めた45歳ローリー・サバティーニが、61という好スコアを記録したが、あと1歩及ばず。サバティーニに1打差リードで最終ホールを迎えたシャウフェレは、そのままパーで逃げ切り、金メダルを獲得した。
「父のために勝ちたい気持ちが強かった。彼はどこかで泣いていると思う」
ホールアウト直後にインタビューを受けた彼は、そう語った。
シャウフェレの父ステファンさんは、かつて10種競技のドイツ代表選手だったが、飲酒運転をしていたドライバーの車にハネられ交通事故で片目の視力を失うという悲劇を経験した。そのため、オリンピックに出場する夢は叶わなかったが、その後ゴルフについて学び、スポーツ選手として成功する夢を、コーチとして息子に託すこととなった。
以前ならゴルフという競技は、五輪種目にはなかった。しかし、2016年の「リオ五輪」から112年ぶりにゴルフ競技が復活したおかげで、ステファンさんの「金メダルを獲る夢」もまた、実現できる目標に変わった。
オリンピックはメジャーと比較すると、高額賞金もなければ、フェデックスカップのポイントもつかない競技だ。世界を代表するアスリートとして、母国を代表して戦う「誇り」を胸に全力を尽くすのみである。ゴルファーにとってオリンピックは、メジャーに比べると歴史も浅く、実質2回目の「若い競技」のため、オリンピックに対してあまり積極的でない選手がいることも否めないが、ザンダーの場合は父が叶えられなかった夢を自分が代わりに叶えたい、という気持ちと、祖父母の住む日本(母ピンイーさんの両親は東京に住んでいる)でメダルを獲る姿を見せたい、といういろいろな思惑が重なって、今回の金メダルにつながったように思う。
「母国のために戦うというのは非常に光栄なことだし、人生でもすごいことだと思う。陸上や水泳、柔道などほかのスポーツの選手たちにとって、オリンピックは究極の競技だ。一方ゴルフの歴史は非常に浅く、新しいことだから、かえって僕やコリン(モリカワ)のように若い選手にとってはオリンピックは最高だ。国を代表して出場し、金メダルを獲りたいと思う。そう思わなければ、僕もこの場所にはいないはずだ」
金メダルを獲得したシャウフェレは、帰国前に祖父母に会うことができ、喜びを分かち合えたという。そして現在金メダルは、サンディエゴに住む両親の元にあるようだ。ステファンさんが水着姿に金メダルを首にかけている映像がSNSで発信されており、ザンダーも、しばらくは自分の手元に戻ってくる気配はなさそうだ、と諦めている。
金メダルを獲得したシャウフェレは、帰国前に祖父母に会うことができ、喜びを分かち合えたという。そして現在金メダルは、サンディエゴに住む両親の元にあるようだ。ステファンさんが水着姿に金メダルを首にかけている映像がSNSで発信されており、ザンダーも、しばらくは自分の手元に戻ってくる気配はなさそうだ、と諦めている。