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あのDJが涙?2020年マスターズ優勝でダスティン・ジョンソンが流した涙の意味

史上初の11月無観客開催
2020Masters

子供の頃からの夢が叶った!
冷静沈着な男が思わずこぼした涙

1934年から続く春のゴルフの祭典「マスターズ」もコロナウイルスが歴史を変え、11月に、しかも観客を入れずに開催した。
いったい7カ月遅れの「マスターズ」はどんな雰囲気で行なわれたのか?
現地で取材した記者によるレポートも交えながらお伝えする。

 

2020年11月12日~15日
米国ジョージア州オーガスタ/オーガスタナショナルGC

 

©Getty Images

優勝
ダスティン・ジョンソン
(アメリカ)
1984年6月22日生まれ。
193cm、86kg。サウスカロライナ州出身。米ツアー24勝、メジャー2勝。世界ランク1位。世界屈指の飛ばし屋。アイスホッケー界のレジェンド、ウェイン・グレツキー氏の娘ポーリナさんはフィアンセで、2児のパパ。キャディは弟のオースティンが務める。

タイガー・ウッズ
(アメリカ)
1975年12月30日生まれ。185cm、84kg。米ツアー通算82勝(歴代1位タイ)、メジャー15勝(歴代2位)、米ツアー賞金王10回。史上二人目のトリプルグランドスラム達成。2019年「マスターズ」では11年ぶりのメジャー復活Vを果たした。

 

言葉数が少なく、感情表現も乏しいDJが流した涙

ダスティン・ジョンソンは、一言で回答することにかけてはナンバーワンであり、言葉少なに語る達人だ。
しかも、すばらしいショットやパットを決めた後でも、彼はまるでそれが大したことではないかのように振る舞う。

だから、オーガスタナショナルで「マスターズ」に優勝したときの彼の涙は、メジャー2勝した男の別の一面をのぞかせるものだった。
優勝直後、18番グリーンでキャディを務める弟のオースティンとハグし、彼は珍しく涙ぐんだ。

ジョンソンはマスターズを二度制したババ・ワトソンが18番グリーンの外で自分を待っているのに気づいたが、「マスターズ」チャンピオンのワトソンがグリーンジャケットを着用しているのを目にし、「そのグリーンジャケットを着るのがずっと夢だったんだ」と語った。

そして、オーガスタナショナルのパッティンググリーンで催されたグリーンジャケットセレモニーでインタビューを受けたとき、再び言葉を失った。
ただしこのときは、ほんの一瞬だけだったが……。

「僕は気持ちをコントロールするのに、これほど苦労したことはない」と彼は述べている。
おそらくそれは、彼がオーガスタで4日間、マスターズで首位を走ることがまったく大したことではないように振る舞っていたからだろう。

ポーカーフェースのDJにとっても「マスターズ」優勝は特別

©Getty Images

優勝直後、フィアンセのポーリナさんからの祝福のキスを受けるD・ジョンソン。

 

「マスターズ」前にコロナに感染。ホテルの部屋で監禁

ジョンソンは20アンダーという新記録でトーナメントを制した。
タイガー・ウッズ(1997)とジョーダン・スピース(2015)の記録を2打更新したのだ。
ほんの数週間前まで、ジョンソンは「マスターズ」でうまく戦えるかどうか気がかりだった。
ラスベガスのホテルの部屋に閉じ込められ、体を動かすこともゴルフもできなかったからだ。そこを離れることは許されず、選択の余地はなかった。

彼は、「マスターズ」に向けて準備を進めていた10月に、新型コロナウイルスに感染した。
11月に延期された「マスターズ」前に2週間、彼は試合に出ることになっており、そこで「マスターズ」に向けて調整するつもりだったが、実際はその2週間を心配事に費やすしかなかった。

ラスベガスのシャドークリークで開催された「CJカップ」の試合会場でコロナウイルスの検査を受けたジョンソン。
陽性反応が出たため、彼は試合に出場できず、ホテルの部屋で11日間自主隔離することを余儀なくされた。
食事の受け渡しはドア越しに行なわれ、人との接触は一切なし。ただ、じっくり考える時間は十分にあった。

彼にとってその間の最大の収穫といえば、「少なくとも〝マスターズ〟ではプレーできそうだ、ということ」だった。

ツアー24勝以上を達成する現役選手は3人のみ

ジョンソンは、「マスターズ」優勝により、今やPGAツアー通算24勝に達している。
この数字を上回る現役選手はタイガー・ウッズ(82勝)とフィル・ミケルソン(44勝)だけだ。
また今回「マスターズ」で優勝したことによって、4年前にオークモントで開催された「全米オープン」で遂げた勝利がフロックではないことが証明できた。
もうこれ以上メジャーで優勝することはできないんじゃないか?という念に駆られていた唯一のメジャー勝利試合が「全米オープン」だっただけに、オークモントは、絶対に忘れることができないだろう。
ジョンソンがマスターズで54ホール終了後、首位に立つのは初めてだったが、最終的には記録を塗り替えた。誰が何と言おうと、彼は殿堂入りを果たしたのだ。もっと大きな出来事が起こらないという根拠はない。

とはいえ、近くのサウスカロライナ州で育った男にとっては、「マスターズ」を超えるものが手に入るとは考えにくい。
彼は、ゴルフの試合で最も敬意を表される場所の一つから、ライフタイムの出場権を与えられるまでになったのだ。

 

©Getty Images

長年キャディを務める、実弟のオースティンさん(左)。

 

最終日に崩れるジョンソンの悲劇の数々

本当なら、ジョンソンは現時点でもっと多くのメジャータイトルを獲得していてもおかしくない。
だが、彼はゴルフ人生の中で、惜しいところで最終日に崩れて負けるという悲劇を何度も経験している。
最近では、2020年8月の「全米プロ」の2位タイがそうだ。最終ラウンドに出した68というスコアは決して恥ずべき成績ではないが、急成長中のコリン・モリカワがそれを上回り優勝した。

ジョンソンがメジャーで3日目を終えて首位に立ち、最終ラウンドを迎えるのは5度目だったが、過去の挑戦はすべてうまくいかなかった

コーチのクロード・ハーモンⅢは次のように述べている。

「出場回数が多いほど優勝のチャンスは増える。彼はとても安定している。通常我々が飛距離を求めようとしたり、たくさんのことをやろうとすると、ショットの安定感を失う。しかし、彼が2020年に歩んできた道に目を向けてほしい。ほぼ毎週のように彼はチャンスを手にしている」

「2019年は「マスターズ」2位タイ、「全米プロ」で2位、「全米オープン」で35位タイだった。オーガスタで勝つというのは、ジャック・ニクラスやタイガーが成し遂げた偉業だ。
今回は彼にとって、台本をひっくり返し、物語を変えるチャンスだったのだろう。
今やこの物語は、54ホールを終えた時点で首位に4度立ったことや彼がこれまでやってきたすべてのこととは大きく異なる。
彼は間違いなくすばらしいゴルファーなのに、いまだ十分な信用を獲得できていない」

 

©Getty Images

普段は冷静沈着なジョンソンが、インタビューの最中に感極まり、珍しく涙ぐんでいた。

 

コロナによる自主隔離中に深めた自信

パンデミックによって3カ月間、ツアーは中断させられたが、再開後の彼は一貫して高いレベルでプレーし、6月に「トラベラーズ選手権」を制したあとは「マスターズ」までの8つのトーナメントで12位以内に入ってフィニッシュした。

その期間に「全米プロ」で2位タイになり、「ザ・ノーザントラスト」で優勝(通算30アンダー)。
「BMW選手権」ではジョン・ラームとのプレーオフで敗れたが、その後で「ツアー選手権」を制し、結果としてフェデックスカップでの優勝(+ボーナス賞金1500万ドル)を果たした。
その後、「全米オープン」6位タイ、「ヒューストンオープン」2位タイとなっている。

最後のヒューストンでの成績は救いだ。ジョンソンにとっては約2カ月ぶりのトーナメントであり、隔離期間を終えたあとだったからだ。
隔離されたことで「CJカップ」と「ZOZOチャンピオンシップ」には出場できなかったが、最終的には隔離期間によって自信を高める結果となり、それが彼には必要なことだった。

過去、最終日に崩れた経験は物ともせずに乗り越えるほど心の傷が修復されていたかもしれない。
実際、彼はいつも驚異的な立ち直りを見せてきた。たとえば、2016年にオークモントで開催された「全米オープン」で優勝したが、これはシアトル郊外のチェンバーズベイの最終グリーンで3パットし、「全米オープン」優勝を1打差でジョーダン・スピースに譲った1年後のことだ。
また、たとえば、2010年にペブルビーチで開催された「全米オープン」での最終日の大崩れや、同年に開催された「全米プロ」最終ホールでのルール違反、2011年の「全英オープン」最終日のアイアンショットで犯したOBのミスなども経験している。
2019年は、「マスターズ」でウッズに1打差で敗れ、「全米プロ」は優勝したブルックス・ケプカに次ぐ2位でフィニッシュした。メジャーでは5位以内に10回入っており、2位には5回入っている。

「僕は何度もこの状況を経験しているから、何をすべきかわかっているよ」と語った。

ジョンソンは今回の「マスターズ」で65を2回マーク。
彼は初日から最終日まで全ラウンドで首位をキープした。
戦いを終えて目に涙を浮かべる彼の肩にグリーンジャケットがかけられた。
婚約者のポーリナさんも一緒だった(2013年に婚約し、テイタムとリバーという二人の息子がいる)。
ただ、唯一残念なのは、彼がジャケットをキープできるのが短期間だということだ。
それは次の「マスターズ」がたった5カ月後の4月に迫っているからである。

 

Text/Bob Harig


ボブ・ハリグ
(アメリカ)
ESPN.comシニアゴルフライター。25年以上に渡り、ゴルフトーナメントの取材を続けている。全米ゴルフ記者協会会員。

 

O嬢コラム

レジェンドの娘ポーリナ嬢といつ結婚するの?

©Getty Images

 

ダスティンの「フィアンセ」と呼ばれて久しいポーリナさんだが、現在ではすでに2児の母。
彼女はアイスホッケーのレジェンド、ウェイン・グレツキーの娘で、その美しい容姿でモデル業も務めている。子供を出産してもその美しい体型はしっかりキープできており、コースを歩く様もかっこよく決まっている。

そんな彼女とダスティンは結婚せずに、同居している。海外では特に、入籍しない事実上の夫婦も多いが、彼らもこのまま入籍しないのだろうか?

過去、大ゲンカが元でポーリナさんのSNS上からダスティンの全ての写真が削除されたこともあり、お騒がせなことも多かった二人。
彼女と知り合う前は数々の女性と浮名を流していたダスティンも、グレツキーというレジェンドを事実上の義父に持ち、子供に恵まれてようやく落ち着いてきたように見える。
それがメジャー優勝にも好影響を与えているようだ。
彼の「ゴルフよりも家族が大事だ」というコメントは、以前の彼からは聞かれなかったフレーズ。
父になったことで、家族を守らなければならないという責任感が芽生え、メジャー優勝や世界ランク1位への道を極めるきっかけにもなったように思う。

私は「マスターズ」優勝など、夢が叶った時まで、もしかしたら結婚しないと決めているのかもしれない、とも思ったが、「マスターズ」優勝後もまだ入籍という話が出てこないところを見ると、そういうことでもないらしい。
いずれにせよキュートな子供達と美人妻に囲まれ、ゴルフの頂点を極めているDJは世界中のプロゴルファーたちも羨望の的に違いない。

スレンダーな容姿が人目を引くポーリナ・グレツキーさんとの間には二人の子供がいる。

Text/Eiko Oizumi Photo/Getty Images

最終成績

1 ダスティン・ジョンソン −20
2 キャメロン・スミス
イム・ソンジェ
−15
4 ジャスティン・トーマス −12
5 ローリー・マキロイ
ディラン・フリッテリ
−11
7 CTパン
ジョン・ラーム
ブルックス・ケプカ
−10
10 ウェブ・シンプソン
コーリー・コナーズ
パトリック・リード
−9
13 マーク・リーシュマン
松山英樹
ケビン・ナ
エイブラハム・アンサー
−8
34 ブライソン・デシャンボー −2
38 タイガー・ウッズ −1
44 今平周吾
コリン・モリカワ
E
55 フィル・ミケルソン +3

マスターズ史上初の11月開催
いつものマスターズと何が違った?

新型コロナウイルスの影響を受け、7カ月遅れで開催された昨年の「マスターズ」。
無観客で行なわれ、4月の開催とは数々の相違点も見られたが、何が違ったのだろうか?

 

ツツジの代わりに紅葉

©Getty Images

紅葉越しに13番グリーンを望む。

 

4月には美しいツツジやハナミズキなど花々が咲き乱れるオーガスタだが、11月開催の今回はその代わりに紅葉が見られた。

芝もところどころ茶色く変色し、晩秋のオーガスタをテレビ観戦で感じた人も多いだろう。

ブライソン・デシャンボーは「4月に比べると湿気を感じる」ともコメント。

 

日照時間が2時間30分短縮

©Getty Images

4月開催時よりも日照時間が短く、日没が早い。

 

4月に開催される場合の大会期間中の平均日照時間は、12時間53分。

そして今回は、10時間27分と約2時間30分ほど日照時間が短い中行なわれた。

つまり夜明けが遅く、日没が早いという状況である。

そのため、通常は予選ラウンドの2日間も1番ティーからスタートするが、今回は1番、10番の2ティーでスタート。

予選カット後の決勝ラウンドでも2ティーを採用し、日照時間の短縮に備えた。

 

無観客

©Getty Images

例年なら大勢のパトロンたちが座って、選手たちの練習風景に見入る練習場も、今回は無観客。

 

11月に延期したものの、コロナウイルスの蔓延は収束を見ず、無観客での開催となった。

マスターズでは観客のことを「パトロン」と呼ぶが、「パトロン」のいない「マスターズ」についてタイガー・ウッズは次のように語っている。

「他のホールからの歓声もないし、パッティンググリーンから1番ティーに向かうところでの歓声や拍手もない。13番でイーグル、という時の歓声もない。本当は観客たちがこのトーナメントの全てなのに、今年はそれがない。エネルギーが足りない」

 

芝がバミューダ

©Getty Images

主にバミューダ芝が生えているが、ところどころライグラス混じりだった11月のオーガスタナショナル。

 

通常、春先のオーガスタでオーバーシードされているバミューダ芝がコース全体、特にグリーン周りに生え残っており、ところどころライグラスも生えていたという。

タイガーは「ボールが沈みやすく、グリーン手前からコロがし寄せるか、スピンをかけて止めるかの能力が試される」と語る。

また、春先の「マスターズ」ではグリーンが硬く、高速だが、今回は普段よりもソフトで止まりやすく、積極的にピンを狙っていかないとスコアを伸ばすことができなかった。

オーガスタは「経験と知識がモノを言うコース」だが、今回の大会にはかえって邪魔になることもあったようで、イム・ソンジェやキャメロン・スミスなどオーガスタでの経験が浅い選手が上位に行く傾向があった。

 

©Getty Images

写真は18番ティーショットを打っていくタイガー・ウッズ。普段は観客の人垣で非常に狭く見えるティーショットも、無観客のため、広々と見える。

 

攻め方・打ち方

©Getty Images

「普段は考えないようなルートも無観客なら可能だ」とローリー・マキロイ。

 

普段は観客を避けて狭いエリアに向かって打っていかなければいけないところも、無観客のため幅広く思い切って打っていけた今回の「マスターズ」。

観客がホールの両サイドに二重三重の人垣を作ると、狙いがくっきりと定められる一方、精神的な圧迫感も感じるため、普段よりも楽に攻められたのではないか。

フィル・ミケルソンは「パトロンがいないから、もっと広くコースが使える」と言い、ブライソン・デシャンボーは「通常パトロンがいるラインに対して打っていける。

例えば13番では通常人がいる14番の方に向かって打っていくこともできる」と語っている。

 

©Getty Images

選手やその家族に配布された「マスターズ」ロゴ入り・グリーンマスク。もし購入できるなら、希望者が殺到しそうだが……。

 

©Getty Images

アプローチやバンカーショットが普段よりも止まりやすいため、積極的に狙いに行く選手も多かった。

 

Text/Eiko Oizumi
Photo/Getty Images

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