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松山英樹がマスターズ初制覇!日本人初参戦から85年で歴史的快挙!

松山英樹がマスターズ初制覇!日本人初参戦から85年で歴史的快挙!

今年の「マスターズ」は、松山英樹が日本男子プロとして初めて「メジャー優勝」を成し遂げ、歴史的快挙を達成。
コロナ禍で気持ちが沈みがちな昨今に、大きな希望の光をもたらした。

改めて松山の偉業を振り返るとともに、現地取材を行なっていた米国人記者たちによるレポートや、国内外のレジェンドたちの祝福の声をお届けする。

 

©Getty Images

悲願の「マスターズ」優勝を達成し、満面の笑顔を浮かべてガッツポーズする松山。

 

松山英樹(LEXUS)

1992年2月25日生まれ(29歳)。
愛媛県松山市出身。東北福祉大卒。
日本で通算8勝(「日本オープン」でメジャー1勝)、
米ツアー6勝(メジャー1勝)。
2011年「マスターズ」でローアマ獲得。
2013年プロ転向。世界ランク14位(4月18日現在)。

 

©Getty Images

日本人として初めてグリーンジャケットに袖を通した松山(右)。左は、前年度チャンピオンで、世界ランク1位のダスティン・ジョンソン。

 

個人の優勝にとどまらない松山優勝の大きな意味

©Getty Images

記念撮影する「チーム松山」。左から飯田光輝トレーナー、早藤将太キャディ、通訳のボブ・ターナー氏、松山英樹、目澤秀憲コーチ。

アジアの人々に夢と希望と可能性を感じさせた松山

松山英樹の「マスターズ」優勝は、早朝からテレビ中継を観ていたお茶の間のゴルフファンたちに大きな感動と希望を与え、涙を誘う劇的なドラマとなった。

「まさか、日本人がメジャーに優勝できる日が来るとは……!」

そう思った人は大勢いるに違いない。松山の優勝を我がことのように喜び、その余韻にしばらく浸っていたのは私だけではないはずである。

現在は、新型コロナウイルスの蔓延で暗く沈みがちな世の中だが、松山のマスターズ優勝のニュースは世界中を駆け巡り、世界の人々に一筋の光をもたらした。

特に、日本を含むアジアのゴルファーには、欧米人ばかりが優勝してきた「マスターズ」の歴史に、1人のアジア人がその名を刻んだことで、「次は自分が……」と想いを秘めた人も多いはずである。

東北福祉大の後輩で、先日「東建ホームメイトカップ」でツアー2勝目を挙げた金谷拓実も然りだ。

世界のゴルフ界にとって、ゴルフの裾野を広げる意味で、彼の優勝はとても大きな意味があったのだ。

10年前のローアマ獲得からカウントダウンは始まった

そんな今回の優勝は、今から10年前、松山が日本人で初めて「マスターズ」にアマチュアとして出場し、ローアマを獲得した時から、運命のレールが敷かれていたのかもしれない。

2011年3月、東日本大震災が東北地方を襲った当時、松山はオーストラリアで東北福祉大ゴルフ部の合宿を行なっていた。
帰国後すぐに被災地に向かい、その惨状を目の当たりにしたが、「マスターズ」からの招待状を受けながら「自分自身も被災者なのに、こんな時にマスターズに出場してもいいのか?」と自問したという。

その前年、「アジア・パシフィックアマチュア選手権」で優勝した彼は、アマチュアとして「マスターズ」に出場する権利を獲得していた。
本大会は2009年からスタートしたものであり、松山で2回目。
過去、このような大会はなかっただけに、アマチュアの松山が「マスターズ」に行ける権利を獲得できたのはラッキーだった。

現地オーガスタ入りを果たしても、彼の心は揺れ動いていた。
しかし、自分を応援してくれる大学関係者、ゴルフ部の友人、両親たちの後押しもあり、来たからにはベストを尽くそうと決心。
大会前の公式記者会見で「自分のためだけでなく、自分を支えてくれた人のためにも、夢の舞台で精一杯プレーすることがみなさんへの恩返しだと思っている」と誓ったのである。

練習日には、80を叩くこともあったが、試合がひとたび始まると実力を発揮。
第3ラウンドにはアマチュアにして60台を叩き出し、ちょうど9ホールのプレーを終えてすれ違ったスティーブ・ストリッカーに「ナイスプレー」と声をかけられたという。
そして初出場にして日本人初のローアマを獲得したのだった。

10年後、マスターズチャンピオンになった松山は次のように語った。

「10年前の大変な時に送り出してくれた感謝の気持ちは忘れていないし、こうしてグリーンジャケットを着て会見できて、僕自身も嬉しい」

「日本人はメジャーで優勝できない、という考えを、僕は今回覆せたと思う」

©Getty Images

最終日の1番ホールでは右の林に打ち込み、トラブルからのボギー発進。バーディを取ってスコアを伸ばしていたザラトリスには1打差まで迫られた。

今季、上位争いがなかった松山がなぜ勝てたのか?

松山の今季の戦歴を見ると、決して絶好調ではなかったことがわかる。
17試合に出場し、予選落ちは3回だが、トップ10入りは今回のマスターズ優勝を含めたった2回。
通常の松山にしては安定感に欠けていた。なのになぜ「マスターズ」で勝てたのか?
それには新しく契約した目澤秀憲コーチの存在が大きいと指摘する声も多い。

松山は過去、1人でスイング調整を行なってきたが、昨年末に目澤コーチを迎え入れ、初めてコーチをつけた。
それによって、スイングに関する相談相手ができたことが、心の余裕を生み、自分がやってきたことに自信が持てたのではないか。

「去年、スイングに対して悩んでいた。思うような結果が出ない時に、コーチにお会いし、話をしていく中で自分が大事なことを忘れている部分もあり、それを見つけてくれた。毎日新たな発見があり、今までとは違う感じでプレーできていた」

マスターズの週に入り、水曜日の練習が終わった段階で「今週はいけるかもしれない」という気持ちに変わってきた松山は、練習ラウンドも3日間で1ラウンドしかしなかった、という。
自分自身の技術を練習場で徹底的に再点検し、これで大丈夫だ、という自信を持てたことが大きかったのかもしれない。

©Getty Images

今大会のプレー中、何度も笑顔を見せた松山。「ミスを受け入れ、怒らないようにする」という彼のメンタル術が奏功した。

オーガスタの女神が優勝の手助けをしてくれた!?

今大会の松山にはツキがあった。
ティーショットが木に当たってフェアウェイど真ん中に出てきたり、クリークに入る寸前でボールが止まっていたり、あるいはカップに入らなければ大オーバーというミスパットが、カップインする場面などもあった。

一方で他の選手のショットは大きく曲がったり、パットでカップに蹴られるなど、松山追撃モードに入りたくてもなかなか入れないように見えた。
今年の松山には目に見えない女神のサポートが本当にあったのではないか、と思えるほどだ。
今後の松山への新たな期待、それは「グランドスラム達成」だ。
ゴルフ史上、6人しか達成していない歴史的大記録に、挑戦していく。

 

2021年4月8日~11日
Augusta National Golf Club(米国・ジョージア州)
7475ヤード・パー72

最終成績

優勝 −10 松山英樹
2位 −9
ウィル・ザラトリス
3位 −7
ジョーダン・スピース、ザンダー・シャウフェレ
5位 −6
ジョン・ラーム、マーク・リーシュマン
7位 −5
ジャスティン・ローズ
8位 −4
パトリック・リード、コーリー・コナーズ
10位 −3
キャメロン・スミス、トニー・フィナウ
  E
ジャスティン・トーマス
  +5
ブライソン・デシャンボー
  予選落ち
ダスティン・ジョンソン、ローリー・マキロイ

 


松山英樹・優勝直後の一問一答

「すごいことをしたんだな、と実感してます」

帰国翌日に行なわれた凱旋リモート記者会見。
40分に渡って、じっくりとテレビ局や記者からの質問に答えた。

優勝直後のオーガスタでの公式記者会見や帰国後に行なわれた緊急リモート記者会見での彼のHOTな声をお届け!

 

――「マスターズ」チャンピオンになれて、日本のゴルフ界にどういう影響があると思うか?

これからゴルフを始める人とか、10代、高校生でゴルフをやっている人に影響があるのかなと思う。
今までは日本人ではメジャー優勝できないんじゃないか、と思われてきたかもしれないけど、僕はそこを覆すことができたと思う。
そういう子たちにもっともっとプラスの影響を与えることができるよう、自分も頑張っていきたい。

 

――最終日は初めから緊張していた、と言っていたが……。

最終日は9時半くらいに起きるつもりが、思いのほか早く起きて、その後も寝られなかった。
練習やウォーミングアップはすごくいい状態でできたが、1番ティーに立った時に「最終組でトップに立っている」ということを考えたらナーバスになってきた。
でも、この3日間終わって、トップに立っているのは自分だし、最後の18ホールをしっかりやり遂げよう、いいプレーをして終わろうと頑張った。

©Getty Images

最終日の18番ホールのティーショット。松山本人は、このティーショットでフェアウェイキープできたことが優勝のカギだと語った。

 

――今回、よかったところは?

今年に入り、先週まで1度もトップ10入りしてなかったし、期待はしていなかったが、水曜日の練習をしている時にすごくいいフィーリングが戻ってきて、〝いけるかもしれない〟という自信が持てた。
最後の方はショットが荒れてしまったけど、3日目まではすごくいいショットを打てていたので、それが勝因かな、と。
最後の18番のティーショットがフェアウェイにいってよかった!

 

――今大会での表情が違った(笑顔が見えた)というのがあったが、何か心がけていることはあったか?

スイングの調子が上がってきて、ミスを許せるようになったのではないか、と。自分でもよくわからないが、自然とそういう行動になったんじゃないかな、と思う。

 

――オーガスタでしか感じない苦手意識があると昨秋は言っていたが、変化のきっかけは?

前の週の試合で初日、いいスタートを切ったが、その後はなかなか思うようなラウンドができなくて、イライラしていた。
キャディの早藤に当たったり、チームのみんなにも迷惑をかけたりして、「何やってるんだろう?」ってはたと気づくことがあった。
それが「マスターズ」前でよかったと思うが、「マスターズ」週に入って自分の状態がどんどん上がっていくのがわかり、「今週は怒らずにミスを受け入れていこう」という気持ちでやっていた。

 

――97年のタイガー優勝を見てゴルファーを志したそうだが、今回自分が優勝できてどう思ったか?

最後にガッツポーズできなかったし、最後の上がり方もかっこ悪かった。
それでも日本人がグリーンジャケットを着れるということは証明できた。
僕がタイガーのようになりたい、と思ったように、子供たちが僕のようになりたい、と思ってくれたらすごく嬉しい。

 

Eiko Oizumi

O嬢(大泉英子)/ゴルフ誌の元編集長。国内男子、海外ツアー取材を主に担当し、男女シニア海外メジャー取材は100試合超。現在はフリーで活動中。 全米ゴルフ記者協会会員。

 

Photo/Getty Images

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