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進化する50歳、フィル・ミケルソン
「全米プロ」で史上最年長メジャー優勝制覇!

弟のティムさん(左)をキャディに従え、50歳で史上最年長メジャー優勝を果たしたフィル・ミケルソン(photo/PGA of America)
弟のティムさん(左)をキャディに従え、50歳で史上最年長メジャー優勝を果たしたフィル・ミケルソン(photo/PGA of America)

Text & Photo/Eiko Oizumi

6月に51歳の誕生日を迎えるフィル・ミケルソンが、歴史的快挙を達成した。

5月20日〜23日に米国サウスカロライナ州・キアワアイランドゴルフリゾート・オーシャンコースで開催された、今季メジャー第4戦「全米プロ」。「マスターズ」で日本人初優勝を遂げた松山英樹のメジャー2連覇が期待されたが、一時2位タイにまで食い込みつつも、最終的には首位と7打差の23位タイに終わった。そして3日目を終えて首位に立った50歳のフィル・ミケルソンが5バーディ、6ボギーの73で回り、通算6アンダーでメジャー6勝目を飾った。「全米プロ」は彼が2005年に初メジャーを制覇した大会だが、それ以来16年ぶり2回目の勝利。メジャー優勝は2013年「全英オープン」以来、8年ぶりの優勝だった。

「今日は本当に素晴らしい日だ。今までこのような結果になるとは考えても見なかった。(今週は)周囲のいろいろなことから気持ちをシャットアウトするようにしたんだ。試合に集中するために、テレビも観ず、電話にも出ず、心穏やかに静かに過ごそうとしたんだ。僕はこのレベルで再びプレーできると長年思っていたよ。できない理由が見つからないからね。でもそう信じることができたのも、たくさんの人たちの助けがあったからだ。特に妻(エイミー)、アンドリュー・ゲトソン(コーチ)、弟のティム(キャディ)、そしてスティーブ・ロイ(エージェントであり、親友)のおかげだ。彼らがいてくれたから僕は前進することができたし、今週成し遂げることができたんだ」

コーチのアンドリュー・ゲトソン(左)と弟でありキャディも務めているティム(右)とワナメーカートロフィとともに記念撮影するミケルソン。
コーチのアンドリュー・ゲトソン(左)と弟でありキャディも務めているティム(右)とワナメーカートロフィとともに記念撮影するミケルソン。

正確に言うと、彼は「50歳11ヶ月7日」で、今回の歴史的なメジャー制覇を成し遂げた。これは1968年「全米プロ」で優勝したジュリアス・ボロスの最年長優勝記録「48歳4ヶ月18日」を約2年以上も更新したことになる。

彼は以前、スリムでアスレチックなライバルのタイガー・ウッズとは対照的にお腹は出ており、大きな体で肉を揺らしながらプレーしていた印象があった。しかしここ数年は栄養士にも相談しながら食べ物にも気を配って質の良い食事を摂るようにし、量も抑えるようになったという。そのおかげでスリムな体型になり、お腹の出っ張り具合も気にならなくなった。

また、トレーニングもしっかりやることで、体力を維持し、怪我のない体作りを目指した。彼のストイックなトレーニングぶりは、練習日に着用する短パンから覗かせる「ふくらはぎ」に現れている。筋張った彼のふくらはぎは、彼の鍛錬の証明だ。

ミケルソンの筋張ったふくらはぎに注目! 彼はここ数年、トレーニングにも力を入れ、自らを鍛錬している。
ミケルソンの筋張ったふくらはぎに注目! 彼はここ数年、トレーニングにも力を入れ、自らを鍛錬している。

そして肉体面だけでなく、精神面をまるで「筋肉を鍛えるかのように」鍛えてきた。試合に出ていない時は1日、36ホール、あるいは45ホール回ることもあるというが、これは単に体力的な鍛錬ではない。そのホール数を回っても、1打1打、集中して打つことができる「集中力」「精神力」を鍛えるためである。

「36ホール、あるいは48ホールを1打1打集中してプレーできれば、18ホールのプレーなど体力的にも精神的にも余裕を持って臨むことができる」

年齢を重ねると集中力を切らさずにプレーするのが難しくなり、ショットを具体的にイメージすることが難しくなるというが、普段から彼は年齢を言い訳にせず、こうした感性も若い時と同様にシャープであり続けるために彼は努力しているのだ。実際、彼の部門別スタッツを見ると、最終日の“ティからグリーンまでのパフォーマンスを示す数値”(ストロークゲインド・ティ・トゥ・グリーン)ではなんと全選手中1位だった。つまり、飛距離、ショットの精度、パッティングの正確さなどあらゆるものを総合的に見ると、ミケルソンのゴルフがどの選手よりも優秀だったということ。ブライソン・デシャンボーに代表される、350ヤード超級の選手が増えている中、自らの身体を鍛えるだけでなく、道具の進化も利用して、ドライバーのシャフトを制限ギリギリまで長い47.9インチのものを使い、極限まで飛距離アップに挑戦。進化する50代は、ありとあらゆるものを積極的に取り入れながら、年齢を言い訳にせずに前進している。

今回の優勝で、向こう5年間の全メジャーの出場権を獲得できた。もともと6月に開催される「全米オープン」へは特別推薦で出場することが決まっていたが、今回の優勝で自力で出場することもできたわけである。彼は「全米オープン」前の2週間を休息と練習にあて、開催コースのトーリーパインズでの練習に多くの時間を費やす予定だと言う。南カリフォルニア出身の彼にとって、トーリーパインズはホームコースのようなもの。「全米オープン」で優勝すれば、キャリアグランドスラムを達成することになるが、たまたまとはいえ、小さい頃から慣れ親しんだコースが開催地の「全米オープン」が巡ってくるとは、本人だけでなく、ゴルフファンたちも何か運命的なものを感じずにはいられないだろう。

「もし僕が現実主義者だから、今回のメジャー優勝が最後に違いないと思うだろうが、一方ではとてもポジティブな気持ちも持っている。精神的にもシャープな感覚を持ち続ければ、トーリーパインズでいいプレーができるだろう。今年の全米オープンは優勝するにはとてもいい機会だ。全力で戦うよ」

今年のメジャーは、松山英樹のアジア人初の「マスターズ」優勝といい、ミケルソンの史上最年長メジャー優勝の記録更新といい、何か歴史的な出来事が続いている。次の「全米オープン」でミケルソンが優勝すれば、これまた歴史的な偉業「キャリアグランドスラム達成」となるだけに、期待が高まる。

サムアップでファンの声援に応えるミケルソン。以前、1日に2000回近くサムアップして、プレー後の夜にアイシングしたこともあったという。
サムアップでファンの声援に応えるミケルソン。以前、1日に2000回近くサムアップして、プレー後の夜にアイシングしたこともあったという。

 

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