Text & Photo/Eiko Oizumi
Photo/Getty Images
もともと「プレジデンツカップ」は、欧米間で行なわれている「ライダーカップ」に出場できないアジア、豪州、カナダ、南米、南アなどの地域の選手たちが参加できる場を、ということで豪州のグレッグ・ノーマンの発想により造られた大会。かつては自らも出場し、世界選抜チームのキャプテンを2回務めたことがあったが、世界選抜チームの躍進を、皮肉にもノーマン自身が足を引っ張る形となってしまった。サウジアラビア政府系のファンドが支援する、グレッグ・ノーマン率いる「LIV ゴルフ」が今年発足し、PGAツアーはこれを敵対視。PGAツアーが開催する「プレジデンツカップ」へLIV移籍選手の出場を停止したため、その煽りを大いに受けたのだ。世界ランク3位のキャメロン・スミス、21位のホアキン・ニーマン、24位のエイブラハム・アンサー、33位のルイ・ウーストハイゼンあたりは、LIVとPGAツアーの確執がなければ今年も出場していただろう。しかし、PGAツアーから出場停止を言い渡されたため、出場不可能になった。もともとあまりLIV組脱退の影響を受けていなかった米国チームは、さらに有利な展開に。世界ランキングで上位を占める米国は、12人の平均順位が12位であるのに対し、世界選抜チームの平均は49位、とその実力差は大きくかけ離れてしまった。
しかも初出場者が世界選抜は8人、と約7割が未経験者。だから大会前から「米国の圧倒的勝利」を予測する関係者やゴルフファンは多かったのだが、実際に試合が始まってみると、下馬評通りの結果に……。2日目を終えて、米国8ポイント、世界2ポイントとなった時には、「やはり今年の世界選抜には、米国との戦いは荷が重すぎるのでは?」と感じた人も多かったことだろう。
だが、3日目になると、戦況は一変。世界選抜は逆襲をしかけてきた。午前と午後にフォーサム、フォーボールが4マッチずつ(合計8マッチ)行なわれたが、米国3勝に対し、世界は5勝を挙げ、米国11ポイント、世界7ポイント、とその差を3ポイントに縮めたのだ。
キャプテンのイメルマンは大会前から 「我々に勝ち目がないことは明らかだし、その状況は過去ずっと続いてきた。でも過去の記録や、世界ランキングを見比べても、我々は失うものは何もない。だから好きなようにプレーすればいい」と語っていた。7カ国の文化も言葉も違う選手が集まり、徐々にチームの雰囲気にも慣れてきた頃に実力を発揮し始める、と言うパターンは過去にもあり、たいていはシングルス戦でようやく発揮されることが多かったが、今年は負けを経験し続けてきたベテラン選手達がLIVに移籍した代わりに、順応性の高い、フレッシュ若手が集まったぶんだけそのタイミングも早かったのかもしれない。3日目(土曜日)のチーム戦で、その傾向が見られ始めたのだった。
シングルス戦では、米国6.5ポイント、世界5.5ポイントと、ほぼ互角の戦いを展開。特に1組目のジャスティン・トーマスとキム・シウーの対戦では、クエールホローでの2017年「全米プロ」でも優勝し、コースとの相性も良い格上のトーマスを、シウーは撃破するという番狂わせもあった。
「WGCの試合でも彼とプレーしたことはあったし、すごくプレッシャーはあった。でも、1マッチ目は大事だし、ポジティブシンキングで臨んだんだ」(K・シウー)
最終的に米国との差は5ポイントに終わり、過去の大会と比べても、遜色のない成績に終わった。大会史上、世界ランキングの上では、米国との差は最大だったかもしれないが、有力選手が抜け、明らかに戦力ダウンした世界選抜チームは、予想に反して米国にプレッシャーをかける戦いぶりを見せたのだった。
アダム・スコットは「彼らは(世界選抜チームの)未来だ。今回の経験がプレジデンツカップだけでなく、大きな舞台で自分たちのキャリアを押し上げてくれることは間違いない。チームルーム全体が、将来の世界選抜だ」と語っている。今回初出場の8人がさらに今後経験を積み、戦い方がわかってきた時に、世界選抜が優勝カップを手に入れるチャンスも出てくるに違いない。