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「LIVのため、よりもまずは自分のため」
ブルックス・ケプカ、「全米プロ」でメジャー5勝目

Text & Photo/Eiko Oizumi
Photo/PGA of America

表彰式でワナメーカートロフィを掲げる、ブルックス・ケプカ。

 2017年、2018年と「全米オープン」で2連覇を果たし、2018年、2019年には「全米プロ」で2連覇を果たしたブルックス・ケプカが、4年ぶりにメジャー「全米プロ」で優勝。今大会3勝目、メジャー5勝目を飾った。「全米プロ」で3勝以上の選手には、ウォルター・へーゲン(5勝)、ジャック・ニクラス(5勝)、タイガー・ウッズ(4勝)、ジーン・サラゼン(3勝)、サム・スニード(3勝)とズラリとレジェンドの名前が並ぶが、ケプカはそのレジェンドたちの仲間入りを33歳にして果たした。

「メチャクチャうれしいね!この優勝は本当に特別なもので、今までの優勝よりも最も意味のあるものだと思う。ここ数年、いろんなことがあったからね。でもこうして優勝争いの場に戻ってきて、メジャー5勝目を飾れてよかった」

 3年間でメジャー4勝を挙げていた当時、PGAツアーの通常の試合よりも「メジャーのほうが勝ちやすい」と豪語していた彼だが、その後、ヒザの故障に悩まされ、2021年「WMフェニックスオープン」で優勝したものの、メジャー優勝からはしばらく遠ざかっていた。そして去年の夏には、PGAツアーを離れ、LIVゴルフに移籍。「もう試合で優勝争いができないかもしれない」とこぼしていた時期もあったが、ヒザの故障が、少なからず彼の移籍には関係している。

 だが、昨年の11月には「LIVゴルフ・ジェッダ(サウジアラビア)」で優勝し、今年も「マスターズ」直前の「LIVゴルフ・オーランド」で優勝。昨年はダスティン・ジョンソンの賞金の荒稼ぎが目立ったが、実はLIVゴルフでは「ボストン」の1勝しかしていない。一方、2回優勝しているのは、ケプカだけである。「オーランド」で優勝した時、彼は「今年の1月から、ヒザの調子も良くなり、ゴルフの調子もよくなってきた」と語っていた通り、「マスターズ」でも連日、リーダーボードの上位で優勝争いを続けていた。最後は、ジョン・ラームに逆転され、2位に甘んじたが、メジャーで再び優勝争いできる、という大きな自信を取り戻せた1週間でもあった。

「今回の優勝は、間違いなく、自分が大きなことを成し遂げたということだ。汚い言葉で申し訳ないが、クソみたいにいろんなことが起きた。誰もそんなことは知らないし、僕の痛みなどわからない。ヒザを曲げることさえできなかったんだからね」

「オーランドの試合以来、毎週優勝争いにいるような感じだ。プレーの調子もいいし、今の状態にとても満足している。これを続けるだけだ」

「優勝した時よりも、2位に終わった時の方が学びが多い。失敗からどのように学ぶかが大事で、それによって自分を改善できる。どんなミスを犯したのかを認識し、毎回、調整している。これはどちらかというメンタル的なことだけど。ゴルフスイングとか、そういう問題ではないんだ。大きなカギは、自分に対して正直であること。もしそれができれば、誰よりも先に行くことができる」

 ケプカは、物静かに目の前の1打に集中しながら「自分のやるべきこと」をコツコツとこなした。LIVゴルファー同士ではあるが、決して親しい関係とは言い難い、ブライソン・デシャンボーと3日目に同組でプレーすることもあったが、そんなことはお構いなく、寡黙にアグレッシブにバーディを取りにいく、ケプカらしいプレーを貫いた。「僕はメジャーではほとんど(同伴競技者と)話をしない。ただ目の前のやるべきことに集中しなければならないから」と会見で語っていた。

優勝直後の記者会見で、インタビューを受けるケプカ。

 今回の優勝で、彼の世界ランキングは、13位に浮上。その前週は44位だった。現在、LIVゴルフでは世界ランキングポイントがもらえないため、ダスティン・ジョンソンやブライソン・デシャンボーなど、かつての世界ランク上位者たちは軒並み順位を下げているが、唯一、彼らにとってビッグポイントを獲得できるメジャーで活躍して、ポイントを稼ぐか、あるいはケプカのようにメジャーで優勝し、複数年のメジャー出場権を自力で手に入れなければ、メジャーの舞台に立つことはできない。

「今回の優勝は、LIVにとっても大きな優勝だが、同時に全米プロで個人として優勝争いできたことは大きい。優勝トロフィを3度、家に持ち帰ることができて、ただただ嬉しい」

「僕はLIVイベントで初めて2勝を挙げた。メジャーで勝つことは、普段どこでプレーしていようが、常にすごいことなんだ。オーガスタで負けたことで、(僕がもうメジャーで勝てないんじゃないか?と)疑っていたかもしれないが、今回のことで自分を証明できた。僕はメジャーの優勝者として戻ってきたんだ」

 これまでメジャー優勝の際は、ジェナ夫人が必ず現場で祝福してきたが、今回は彼女の姿はなかった。まもなく第一子(男児)が誕生するからだ。

「我々の人生は、すでに変わり始めているが、生まれてきたらどんな感じになるかは想像できるよ。超ワクワクする!ここ数年、父親になりたいと思ってきたから。待ち遠しいよ」

 「マスターズ」で負けなければ、今回の優勝もなかったというケプカ。失敗で学んだことはあるそうだが、今後もその学びを活かしてどの試合でも、どのメジャーでも優勝争いをするときには活かしていくという。では、その学んだこととは? ケプカは「秘密」と言って明かさなかったが、来月には「全米オープン」、7月には「全英オープン」を控えている。数年のブランクを経て、メジャー最強男・第2章が始まりそうである。

17番ホールのティショットを右に曲げ、ラフからグリーンを狙うケプカ。
最後まで優勝争いを演じた、ケプカとビクトル・ホブラン。ホブランは、スコッティ・シェフラー同様、2打差の2位タイに終わった。

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