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スペインの英雄、セベ・バレステロスの誕生日に
ジョン・ラームが「マスターズ」初優勝!

Text/Eiko Oizumi
Photo/Augusta National GC

「全米オープン」に続き、今年の「マスターズ」でメジャー2勝目を挙げたジョン・ラーム。

 4月9日はスペインの巨星、故セベ・バレステロスの誕生日だが、スペイン人のジョン・ラームが「マスターズ」で初優勝。グリーンジャケットを手にしたスペイン人は、セベ・バレステロス、ホセ・マリア・オラサバル、セルヒオ・ガルシアに続き、4人目となった。

 第2ラウンドを終えた時点で、1位ブルックス・ケプカ(12アンダー)、2位ジョン・ラーム(10アンダー)、3位サム・ベネット(アマチュア・8アンダー)とケプカとラームのほぼ一騎打ちの様相を呈していた。第3ラウンドを終えた時点でも、ケプカの背後に2打差でピタリとつけていたラームだが、最終ラウンドに突入すると、ケプカがスコアを伸ばせず、後退。フロント9でスコアを3つ落とし、首位の座をラームに譲ると、その後はバーディを取っては、ボギーも叩くという出入りの激しいゴルフで通算8アンダーにまでスコアを落とし、優勝争いからは脱落してしまった。なお、最終日の日曜日は、前日からの第3ラウンドの残りを持ち越しており、最終組のケプカとラームは、1日で30ホールを消化しなければならなかった。

「すごくガッカリしたよ。優勝するのに十分なプレーができなかった。そんなに悪いゴルフをした感じはないんだけど……。我慢強くプレーしたが、仕方がない。全力を尽くしたし、今日はよく眠れるよ。俺も健康であれば優勝争いができる。今日のジョンは、とても素晴らしいプレーをしていたよ」

 一方のラームは、9番でボギーを叩いたものの、4バーディ、1ボギーの69をマークし、2位のケプカ、フィル・ミケルソンに4打差をつけて優勝。最終18番ホールでは、2打目をグリーン手前のバンカーの手前に運び、そこからピンそば1.5メートルにつけパー。カップインした瞬間、天を仰ぎ、グリーンサイドで待っていたケリー夫人と二人の子供たち、そして両親と喜びを分かち合った。そして、スペインの「マスターズ」チャンピオン、オラサバルもグリーンサイドに駆けつけ、ラームの優勝を祝福した。

優勝が決まった瞬間、天を仰いで雄叫びを上げたジョン・ラーム。

「なんと言えばいいのか、言葉にならないほど嬉しい。僕にとっても、スペインのゴルフにとっても大きな出来事だし、今回の優勝は、スペイン勢ではメジャー10勝目、マスターズでは4人目の優勝。そして個人的には、メジャー2勝目を飾ることができた。本当に信じられないよ」

「(マスターズと全米オープンに優勝した初のヨーロッパ人選手になれて)初めてなんて信じられない。歴史を作ったんだ。どんなことよりも達成感があるね。僕の前にはたくさんの偉大な選手たちがヨーロッパにはいたが、自分がその初めてのプレーヤーになったなんて恐縮してしまう」

 以前はスコアを崩すと、顔を真っ赤にして怒っていた「ランボー(彼の愛称)」も、今ではメンタルをコントロールできるようになっており、昨年の8月から現在に至るまで、“最強のラーム”を維持している。「ここ最近では、自分が世界で一番強いと思える」というほど、自他共に認める世界のトップランクのプレーヤーとして君臨しているのだ。ほか、スコッティ・シェフラー、ローリー・マキロイと世界ランク1位の座を巡って激しく争っているが、今年に入ってすでに4勝をしているラームには、死角が見当たらない。

「(今日の)僕は、落ち着いていた。決してフラストレーションがたまることはなかったんだ。全てがコントロールされている感じだった。もちろん緊張はしていたけどね。9番でボギーを叩いた時は、あまりメンタルのコントロールがうまくいってなかった。なぜなら、フィル(ミケルソン)とジョーダン(スピース)が、バーディを取って追い上げてきたから。10〜12番までもタフだった。見た目には落ち着いているように見えていたかもしれないが、かなり緊張していたんだ。パニックになりたくなかったし、決してそうはならなかったよ」

 最終ラウンドの最終組は、ブルックス・ケプカとジョン・ラームの2サムだったが、記者に「パトロン(観客)の自分自身への応援が、いつもよりも多く感じられたか?」の問いに対し、

「いや、そうでもなかったね。最初の方はブルックスがリードしていたし、彼を応援する声援が多かったから。でも、8番で僕がバーディを取り、(ケプカを)逆転してからは、9番でボギーを叩いても、かなり応援してくれていた。バック9に入ると『セベ!セベ!セベ!セベのために優勝しろ!』という声も聞かれるようになった。この言葉が最も今日は気持ちのコントロールを難しくさせたね。もし優勝したらと思うと、感情的になってしまうから」

 今回の「マスターズ」は、「LIVゴルフ VS PGAツアー」というような見方をするゴルフファンも多かったと思うが(実際、メディアもそうだ)、彼らの組についているパトロン(観客)たちの反応を見ていると、どちらかといえば、米国人のケプカよりも、ラームに対する声援が終盤になるにつれ、大きかったのは確かだった。「マスターズ」のパトロンは、どんな選手にも拍手や声援を送っており、選手たちの素晴らしいプレーを讃えてはいた。しかし、それでもLIVゴルフに対して嫌悪感を抱いている人もいるんだな、というのは彼らの声援を聞いていてわかった。結局、優勝したのはPGAツアーのジョン・ラームだが、LIVゴルファーのフィル・ミケルソン、ブルックス・ケプカの二人が2位につけた形となった。パトリック・リードも4位タイである。巨額の移籍金と賞金を手にしてLIVゴルフに移籍したからといって、“ぬるま湯の中で腕がなまったとは言われたくない”“どこで戦っても、優勝争いできることを証明したい”というのが、彼らの正直な気持ちだろう。LIVゴルフの代表的選手のミケルソン(52歳)は、若手選手に混じり、最終ラウンドで7つスコアを伸ばし、一気に2位タイまで急浮上。彼には人一倍、その気持ちが強かったと言ってもいいかもしれない。

 来月には海外男子メジャー第2戦の「全米プロ」が、ニューヨーク州ロチェスターの「オークヒルCC」で開催される。同じメジャーでも「マスターズ」の雰囲気とはガラッと変わるが、いったいどんな戦いが展開されるのか、楽しみである。

ケリー夫人(左)と祝福のキスをする、ラーム。腕で抱き抱えているのはケイパちゃん。
最終ラウンド後の記者会見で、記者からの質問に答えるブルックス・ケプカ。

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