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なぜ今回、アメリカは勝てたのか?
欧州はなぜ負けたのか?
2021ライダーカップ

米国選抜最年長の37歳のダスティン・ジョンソン(左)。シングルス戦では、
ポール・ケーシー(右)を破り、5戦5勝という快挙を達成した。©PGA of America

タイガーもミケルソンもいた「ドリームチーム」のアメリカが今まで勝てなかった理由

「ライダーカップ」の歴史を振り返れば、米国は欧州の約2倍は勝利しているが(今年の結果を含め27対14)。ここ20年間の成績を見ると、米国3勝、欧州7勝と欧州勢が圧倒的に強かった。なぜ今回、米国が勝てたのか? 今後の展望も含め、長年「ライダーカップ」を取材してきたJ・バビニュー記者が分析する。

PGAツアー未勝利ながらも「ライダーカップ」ルーキーとして2勝1引き分けと負けなしだったS・シェフラー。シングルス戦では、世界ランク1位のJ・ラームに勝利した。右はメレディス夫人。©PGA of America

 30年もの間、ライダー・カップは米国選抜にとって解くのが難しい「巨大なパズル」であった。米国側は、欧州側より多くのメジャー優勝者と世界ランク上位者がいるにも関わらず、結局は欧州が魔法を披露し、タイムリーなパットを決め、あの17インチ(約43・2センチ)の小さなトロフィーを持ち去るのを何度も見るハメに陥っている。

 米国側はフラストレーションがたまっていた。今年の「ライダーカップ」開催地は、「全米プロ」を3回開催しているにもかかわらず、一度も米国人優勝者を輩出していないウィスリング・ストレーツ。米国チームは過去5大会のうち4大会で負け、1995年まで遡ると過去12回のうちで9敗を喫していた。試合開始の2日前、米国選手のトニー・フィナウは、単に今週3日間だけではなく、将来開催される「ライダーカップ」においても、米国のゴルフにとって決定的瞬間になると宣言していた。

 米国選抜には、世界ランキングに入っているトップ11人のうちの9人がいる一方、欧州チームにいるのはそのトップ11人のうちの1人だけだが、その1人はランキング1位であるスペインのジョン・ラーム。計算上は、米国選抜の方が圧倒的に有利なのだが、「ライダーカップ」では時折おかしなことが起きる。

「変な話だが、私は2018年にライダーカップの米国選抜で若手の1人だったのが、わずか3年後の今ではチームで3番目の年長者になった。つまり、アメリカにはたくさんの素晴らしい才能を持った若手がいるということだ」とフィナウは言う。

「我々は気持ちの持ち方を変えるだけでなく、米国にとってのライダーカップの歴史を変えることが今後の目標。これは今後の若手たちにとって重要な意味を持つが、今回だけではなく、今後の大会でのパターンも変えていければいい」

今回J・スピースやP・キャントレーとペアを組み、2勝1敗1引き分けの成績を残したJ・トーマス(右)。左は欧州選抜のルーキー、V・ホブラン。©PGA of America

「ライダーカップ」直前の2日間の予習が米国選抜の優勝を導いた

米国選抜は今年、19対9という記録的な大差をつけて優勝したが、これは、イギリスとアイルランドの連合チームを拡大させて1979年に欧州大陸を含めて以来の記録的な大差である。

 2日目の戦いを終え、「米国11対欧州5」と大きくリードしているにもかかわらず、米国選抜は欧州勢にプレッシャーをかけるのを止めることはなかった。最終日の第3マッチにおいて、米国の新人、スコッティ・シェフラーは最初の6ホールのうちの5ホールでバーディを奪い、世界ランク1位のラームに3アップ。15番グリーンで4&3のスコアで勝利した。

米国選抜の優勝が決まった直後、ガッチリと握手で祝福し合うB・デシャンボー(左)とX・シャウフェレ。©PGA of America
今年「全英オープン」で優勝したC・モリカワ。ルーキーながらも3勝1引き分けと優勝に大きく貢献した。©PGA of America

 今回、なぜ米国選抜にとってすべてが良い方向に進んだのか? 2017年にリバティナショナルGCで開催された「プレジデンツカップ」で記録的勝利を収めた米国選抜キャプテンのスティーブ・ストリッカーは、自分のチームはしっかり準備ができていると語っていた。ストリッカーは、自身のチームメンバーとキャディ、そして副キャプテンからとても敬愛されているが、「ツアー選手権」が終わって間もなく、ウィスリングストレーツで2日間にわたる練習を行なった(ブルックス・ケプカのみが、負傷した手首のリハビリでフロリダの自宅にいた)。

場内は、星条旗カラーのウエアを着用する米国の応援団で埋め尽くされ、欧州選抜にとってはさらにアウェイ感の強い、厳しい戦いとなった。©Eiko Oizumi

 大したことではないように聞こえるかもしれないが、昨年9月から今年7月にかけてのメジャー6試合と東京オリンピックを含む、歴史上長期にわたる「スーパーシーズン」後に、トッププロたちの多くがウィスコンシンに向かったのは相当すごいことである。中にはウィスリングストレーツを見るのが初めてという選手もおり、2015年の「全米プロ」以来初めてプレーするという選手もいた。選手たちはその2日間で戦略を立てることができ、ペアで練習することができ、ゴルフの試合や毎夜の夕食を通じて団結することができた。いつもは慌ただしく現地入りし、夕食のスケジュールも過密な「ライダーカップ」ウィークだが、米国選抜にとってはもはやコースを学び直す必要はなかった。2日間の練習で既に熟知していたからだ。

若くて強い米国に太刀打ちできる若手選手の発掘が欧州優勝のカギ

敗退が決まった直後の欧州選抜の記者会見にて。「今週は僕ほど自分の戦いぶりにガッカリしている選手はいないだろう。ローマ(次回)のライダーカップに出られるなら、今度は優勝カップを取り戻したい」(マキロイ)。©Getty Images

 ストリッカーは、過去、米国選抜の多くのキャプテンがしてきた試合前の激励スピーチや、過去の動画を見せることなどを一切やらなかった。彼が「ライダーカップ」でプレーしていた頃、こうしたことは緊張感をさらに高めるだけだったからだ。彼は自身のチームメイトたちに対し、自分たちのルーティーンをやり通すようにさせた。例えば、昼寝をするのが好きな選手がいれば、昼寝をさせたのだ。

・ラームと3回ペアを組み、、3ポイントを獲得したS・ガルシア。シングルスではB・デシャンボーに3&2で敗れた。©Eiko Oizumi

 そして最も重要なことは、ストリッカーはとても若く(8人の選手は20代)、とても才能あふれるチームに恵まれていたということだ。世界ランキング2位であり、チームで最も経験豊富な選手であるダスティン・ジョンソン(5回目の出場)は、5勝0敗という記録を樹立。米国選抜の6人の「新人」たちは、既に経験豊富で熟達した選手たちであり、新人とは名ばかりであった。その中のパトリック・キャントレーは、PGAツアーシーズンの最後の2試合に優勝し、フェデックスカップで総合優勝を果たしたばかり。コリン・モリカワは24歳にして「全英オープン」優勝を経験し、メジャー2勝目を挙げた。ザンダー・シャウフェレは今夏の東京オリンピックの金メダリストだ。

アイルランドの「全英オープン」チャンピオン、シェーン・ローリー(右)の慰めを受けるローリー・マキロイ。欧州選抜の敗退に肩を落とし、涙ぐんだ。©Getty

 そしてこれら若手たちは、長年にわたって他の若手たちと絆を深めている。ほとんどの選手は20代であり、小学校の頃から互いを知り、競い合ってきた。  米国にとって、今年は衛兵交代のようなもの。タイガー・ウッズやフィル・ミケルソン、ジム・フューリックといった一流選手たちは「ライダーカップ」ではほとんど成功しなかったが、今は、未来に向けて新鮮で有望なチームがある。

 では逆に、欧州が前進するために何が必要なのか? キャプテンのパドレイグ・ハリントンはできることはすべてやっていたようだったが、欧州選抜は米国選抜のパワーやバーディ奪取には対抗できなかった。ラームとセルヒオ・ガルシアは素晴らしいチームを組み、「ライダーカップ」ではスペインの伝統の素晴らしき歴史を受け継いだ。だが、来春には49歳になるリー・ウエストウッドや、イアン・ポールター、そしてポール・ケーシー(0勝4敗)らにとっては最後の「ライダーカップ」でのプレーとなったかもしれない。米国選抜が発揮した能力に対抗できる前途有望な若い選手たちを見いだすのは、今や欧州次第だ。

 2年もあればいろいろなことが変わり得るが、欧州はその難題に対応する必要があり、それは2019年にオーストラリアで敗退した「プレジデンツカップ」の世界選抜にとっても同様である。

シングルス戦で欧州の意地を見せ、ポイントを獲得したリー・ウエストウッド(左)とイアン・ポールター(左から2番目)。中央は今回で10回目の出場を果たしたS・ガルシア。右は副キャプテンのルーク・ドナルド。欧州の敗退が決まり、渋い表情を見せるベテラン勢。©Eiko Oizumi

 米国選抜にとって真の試練は、2023年のイタリア大会だ。米国が欧州開催の「ライダーカップ」で最後に優勝してから30年を迎えるが、ジョーダン・スピースは「やり残した仕事」と呼んでいる。あの小さな金色のライダーカップのトロフィーを獲得する上で難解なパズルを解こうと、米国選抜は大きな1歩を歩んだのである。

Text/Jeff Babineau
ジェフ・バビニュー
アメリカ

ゴルフ取材を30年以上行ない、現在フリーライターとして「全米プロ」のオフィシャルライターを務めるなど活躍中。

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