世界のゴルフ通信・日本のゴルフ事情を紹介します。
少しずつ動き始めた日本のゴルフ界。大物新人の登場など明るい話題も……
ツアー3勝目を飾った星野陸也。10月のPGAツアー「ZOZOチャンピオンシップ」出場権も手に入れた。
3ホールのプレーオフの末、堀川未来夢(右)を破り優勝した星野陸也(左)。
男子ツアーもようやく国内初戦が開幕
1月に「SMBCシンガポールオープン」1試合のみが開催されていた国内男子ツアー。9月に入り、国内での初戦がようやく行なわれた。
星野陸也がプレーオフ3ホール目で堀川未来夢を下した「フジサンケイクラシック」。無観客ながら、待ちに待った開催に、選手も関係者も感慨深げだった。
だが、男子ツアーはこの先が続かない。2戦目が1か月後の「日本オープン」で、3戦目はさらに1か月先の「三井住友VISA太平洋マスターズ」。
その先はまだ正式発表されていないものの「ダンロップフェニックス」「ゴルフ日本シリーズJTカップ」が続きそうである。
しかしいずれにせよ「フジサンケイクラシック」以降は最大で5試合。もはやツアーとしての体をなしていないのが実情だ。
女子ツアーも、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、3月の開幕から中止が続いたが、6月に「アースモンダミンカップ」が初戦となり、8月に2試合開催。
9月以降は「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」「NOB
UTA GROUPマスターズGCレディース」の2試合を除いて毎週、試合が行なわれる見込みで、男子と明暗を分けている。
世界一を目指す女版マキロイに注目!
6月からの再開後、注目を集めているのは笹生優花だ。
「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」で初優勝すると、続く「ニトリレディス」でも優勝。その飛距離と身体能力の高さで、周囲を驚かせた。
2001年、フィリピンのブラカン生まれ。父・正和さんが現地を訪れた折、母・フリッツェさんと出会ってのことだ。
4歳の時、家族で日本に戻ってきたが、父の練習場通いについて行き、初めてゴルフに接した。
7歳で本格的に練習を始め、8歳で「プロになりたい」と言い始める。父は大反対したが、泣き続ける娘には勝てない。プロを目指すために、フィリピンでゴルフをさせることを決めた。
娘に課した条件は、ランニングとトレーニング、練習を毎日欠かさずすること。
1年間、これが続けられなければ、日本に戻る。その約束で、父子の生活が始まった。この生活は1年どころか10年続いた。
朝5時から負荷を徐々に増やしながらのランニング、自転車漕ぎ……。体ができていないうちは下半身だけを徹底的に鍛えた。
スイングは、鏡の前で1時間、素振りをして身に着けた。これが、今日の礎となっている。
ゴルフだけでなく、1日3時間、英語を中心に家庭教師の授業も受けながら、フィリピン、アジア、米国などでのジュニアの試合でプレーを続けた。
15歳で「全米女子アマ」セミファイナリストになるなど、世界で結果を出し始め、日本でもその存在を知られるようになっていく。
「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」と「ニトリレディス」でツアー2連勝を挙げた笹生優花。ロングドライブが武器の大物新人だ。
ジャンボも惚れ込んだ笹生の飛距離
2019年には第1回「オーガスタ女子アマ」に出場、安田祐香と共に3位に入り世界を驚かせた。
縁あって、尾崎将司の元を初めて訪れた時、飛ばし屋の原英莉花、西郷真央らを指導しているジャンボが、笹生が打ち始めると目の色を変えたと言う。
「どんなトレーニングをしてきたんだ?」と父・正和さんに質問をした。鍛え上げられた笹生の肉体と飛距離は、ジャンボも認めるほどのものだった。
今季は、まだ3試合しか行なわれていないため公式に飛距離が出ていないが「平均260ヤード」と自己申告する飛距離は、誰もが認めるところ。
それを叩き出すのが、鍛え上げられた下半身だ。
昨年も挑戦して失敗した米国のQTに、今年も挑むつもりだったが、状況的に行なわれないことが判明。
スケジュールは狂ったが、それでも世界進出の野望は抱いたままの笹生。〝規格外〟の新人がどこまで暴れるか、目が離せない。
プロゴルフを支える人々への支援の動き
一方、日頃、試合を支えてくれる裏方たちに〝恩返し〟をする動きもあった。
新型コロナウイルス感染拡大防止という仕方のない理由があるとはいえ、試合の中止が続いたことで選手だけでなく、大会を支える裏方たちも仕事がなくなり、追い詰められていた。
それを知り、有村智恵と青木瀬令奈、石川遼、宮里優作、時松隆光が立ち上げたのが、『ゴルフトーナメント業務従事者支援基金』。
18人のプロが協力したクラウドファンディングで、困難な状況に追い込まれた裏方たちを経済的に支えようとしている。
コロナ禍という異常事態の中、それぞれが、少しずつだが動き始めた日本のゴルフ界。まだまだできることはたくさんあるはずだ。前に進まなければ、何も始まらない。
「トーナメントプレーヤーズファンデーション」のチャリティ品であるマスクとキャップを手にする有村智恵(右)と青木瀬令奈。
Text/Junko Ogawa
小川 淳子
東京スポーツのゴルフ担当記者として日米欧のトーナメントを取材。
現在はフリーでゴルフ雑誌などで執筆。