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【世界のゴルフ通信】From Europe 欧州、米国とサウジの三角関係 PGA、欧州ツアー、サウジのPIFが統合され欧州ツアーはどうなる?

©Getty Images

2020年「ライダーカップ」での風景。欧州チームはローリー・マキロイと、現在はLIVゴルフリーグに在籍するイアン・ポールターとの組み合わせ。今年の「ライダーカップ」では、LIVゴルフに在籍する者は出場できないため、このような組み合わせを見ることはない。

欧州ツアーサイドから見たサウジとの和解がもたらすもの

ゴルフ界を二分する争いが終わったからといって、平和を宣言するのはまだ早い。
2年間、険悪な雰囲気が続いていたPGAツアーが、サウジアラビア政府系ファンド(PIF)と手を組むことに合意するという突然の心変わりを見せたことには、すべてのゴルフ関係者が驚きを隠せないでいる。
それもそのはず、誰も予想していなかった、青天の霹靂のような出来事なのだ。

しかし、今回の早急な統合が、 DPワールドツアー(以下、欧州ツアー)のメンバーに受け入れられるだろうと思うのは甘い考えだ。
傷は癒えるまで時間がかかるし、一生消えない傷だってあるのだ。

ローリー・マキロイ、セルヒオ・ガルシア、リー・ウエストウッドといったヨーロッパのかつての同士たちは、LIVゴルフの数百万ドルという大金を前にして、昔からの絆が限界まで揺さぶられることとなった結果、互いに非難の言葉の応酬を重ねることになってしまった。
ガルシアとマキロイは最近、仲直りしたとの報道もあるが、その他の人間関係はどうなるのだろうか。
果たして彼らは、PGAツアーコミッショナーのジェイ・モナハン氏、PIF最高責任者のヤシール・アル・ルマイヤン氏、そしてDPワールドのチーフエグゼクティブ、キース・ペリー氏といったツアーの頂点に立つ者たちのように、すべてを水に流して一緒にパンを食べる気持ちになれるのだろうか。

法的措置の脅威がなくなったからといって、何もかもが、そして誰もが、和やかで円満な状態で先に進める、というわけではない。
ゴルフ界を二分するほどの亀裂に対する今回の見え透いた解決策は、答えきれないほどの疑問を投げかけるものでしかない、というのが現実であろう。
そして、首脳陣がこの統合話の全貌を明らかにするまでは、多くのプロゴルファーが神経質になることだろう。
特に、ヨーロッパではその傾向が顕著ではないだろうか。

LIVゴルファーの欧州ツアーメンバー資格復活は、2024年から

©Yoshitaka Watanabe

DPワールドツアーCEOのキース・ペリー氏。2020年秋以降、PGAツアーと戦略的提携を結んでいる。

©Eiko Oizumi

セルヒオ・ガルシア、リー・ウエストウッドら、LIVゴルフに移籍した欧州勢のベテランたちに対しては、批判的だったローリー・マキロイ。しかし今、彼らとは仲直りしたという。

LIVゴルフに移籍した反逆者たちの今後

もし、欧州ツアーが2020年からPGAツアーと「戦略的提携」を結んでいることにどのようなメリットがあったのかと懐疑的な意見があったとしたら、さらに裕福な別のパートナーがその枠組みに割り込んできた今、どうなるのだろうか。

「2人ならいい仲間、3人なら仲間割れ」という英語のことわざがある。
このままでは欧州ツアーは、フロリダ州ポンテ・べドラ・ビーチに本拠地を構えるPGAツアーから、以前にも増してそっぽを向かれてしまうのではないか、という懸念は払拭できない。

ペリー氏は、重大発表の当日、SNS上で「歴史的」「非常にエキサイティング」と表現する動画を公開した。

「この一致団結した戦線が、ゴルフの未来をポジティブに形作る可能性を秘めていることは間違いない。我々はゴルフ界の分裂状態に終止符を打ち、進化していくための新たな一歩を踏み出す」

彼はまた、反乱者たちの復帰ルートを模索しているようだ。
反乱者とは、欧州ツアーを退会することなくLIVゴルフでプレーしたことに対する処罰を不服とし、独立した仲裁を申し立て、敗れた後、重い罰金の支払いを拒否して同ツアーのメンバーシップを退会した選手たちのことだ。
退会したウエストウッド、ポールター、ガルシア、ポール・ケーシー、ヘンリック・ステンソン、マーティン・カイマー、リチャード・ブランド、ディーン・バーメスター、エイブラハム・アンサーらは、今のところ、2023年シーズンの終了まで待って再入会が認められる予定である。

ガルシア、ポールター、ウエストウッドらが不在の今年の「ライダーカップ」

©LIV GOLF

欧州ツアーのメンバー資格を返上し、罰金も支払っていないセルヒオ・ガルシア。彼が欧州ツアーに復帰する意思があるのか、ないのかについては語られていない。

©LIV GOLF

LIVへ移籍したマーティン・カイマーは、「今までサウジの金を受け取るためにプレーしたくない、魂を売りたくないと言っていた人たちの反応が楽しみだ。もし本当にそうなら、(サウジとは関係のない独立した)日本ツアーに出るべきだ」と語った。

©LIV GOLF

将来の「ライダーカップ」キャプテン候補、リー・ウエストウッド(左)とイアン・ポールター。この2人もまた、今年の「ライダーカップ」に副キャプテンとしても参加できない。

これで、今年のイタリアでの「ライダーカップ」で、ルーク・ドナルド率いる欧州チームにLIVの選手が参加するという話は、いったん立ち消えとなった。
ペリー氏は「ライダーカップの選手になるための条件は2つだけだ。ヨーロッパ人であること、そして欧州ツアーの会員であること」と語る。

「あとは、予選を通過するか、ルーク・ドナルドが選ぶかのどちらかだ」

「規則上、彼らは退会を選択し、現在彼らは会員ではないので、ライダーカップのチームに参加する資格はない。彼らは今のところ復帰を希望していないが、今後希望する可能性はある。その場合、規則や規定に基づき、例外的な状況でなければ、復帰を認めることはできないだろう」

「もっとも、もし彼らが復帰を希望し、私たちがそれを検討することになったとしても、あくまで彼らは資格停止処分を受け、罰金を支払う必要があることを、ここで断言しておきたい」

「制裁を発表して以来、私は首尾一貫して、必ず戻るルートがあると言ってきた。選手は追放されたわけではなく、欧州ツアーに戻る道が必ずあるのだ」

「私たちがこれから行なうことは、PGAツアーやPIFと協力し、欧州ツアーへの復帰を希望する選手たちのために、公正で客観的であると確信できるようなプロセスを確立することだ。しかし、そのプロセスは、ツアーの懲罰プロセスとは矛盾しない」

今回の発表は、統合がまだ途上の段階ではっきりしたことは何も分かっていないことを示す格好の例である。
しかしながら、ペリー氏の言葉は、少なくともイタリアではポールターのガッツポーズやガルシアの豪放なプレーを見ることはできないことを明らかにしたようだ。

そして、それはチームの舵取りをするドナルドにとって心強いはずだ。
というのも、ツアーに対する法的措置を激しく批判するマキロイのような選手とLIVの選手たちを同じチームに入れてしまったら、チームキャプテンとしてのスキルどころか国連平和維持軍としてのスキルをも試されるようなものだからである。

「私に言わせれば、論じるだけ無駄だ」とマキロイは言う。

「判断が変わることはないだろう。この件に関する仲裁裁判所の判決は、欧州ツアーが規則や規定を堅持した上で、ツアーを離れたり、ツアーに害を与えたりした人に制裁を加えることができるという趣旨だからだ。彼らは全員、メンバー資格を返上した。欧州ツアーの会員でなければ、ライダーカップには出場できない」

あらゆることが流動的な状況の中で、この「ライダーカップ」の問題だけは、ある程度確実なこととして考えられそうだ。

しかし、ポールター、ガルシア、ウエストウッドのように、ルール違反により現行ルールではキャプテンとして不適格ではあるものの、長期的に見れば将来の「ライダーカップ」では明らかなキャプテン候補となる選手がいるのだから、過去の事例を検証してみてもよいだろう。

この先、数か月、数年の間に、道徳的なジレンマや、ややこしい話をしなければならないことがたくさんあるのだ。
争いの後のゴルフ界に登場した新しい秩序の中で唯一確かなことは、何一つ確かなことはない、ということである。

Text/Euan McLean

ユアン・マクリーン(スコットランド)

スコットランド・グラスゴー在住のスポーツライター。『サンデーメール』などに寄稿。欧州ツアーなど過去20年にわたり取材。

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