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【世界のゴルフ通信】From USA PGAツアー&LIVゴルフが統合し世界のゴルフ界の分断が終結

LIVゴルフCEOグレッグ・ノーマンも知らなかった!
PGAツアー&LIVゴルフが統合!

©CNBC

統合の発表後、米国CNBC局にそろって出演したアル・ルマイヤン氏(左)とPGAツアー・コミッショナーのジェイ・モナハン氏。「昨日の敵は今日の友」とは、まさにこのこと。世界中のゴルフファン、関係者が両者の和解にビックリ!

©Getty Images

DPワールドツアーで「サウジ・インターナショナル」を開催していた頃の写真。PIF最高責任者のヤシル・アル・ルマイヤン氏(右)とDPワールドツアーCEOのキース・ペリー氏。

©LIV GOLF

LIVゴルフCEOのグレッグ・ノーマンについては、PGAツアー、DPワールドツアー、PIFの統合に関する発表では何も触れられていなかった。

1年以上にわたるPGAツアーとLIVの戦いの結末

PGAツアーのジェイ・モナハンとサウジ政府系ファンドPIFのヤシール・アル・ルマイヤンが並んで座り、微笑みながらCNBCのテレビインタビューに答えているのを見たときの衝撃は、言葉に言い表せない。
まさか同じ部屋で、いやどこであろうと、並んで座っているはずなどないのだから。

PGAツアーのコミッショナーであるモナハンは、1年以上にもわたって、アル・ルマイヤンが設立と資金調達に協力した企業に対して復讐心を抱いて戦っていたのだ。
公共投資基金(PIF)の総裁として、閣下(彼はこの呼び名で知られている)はサウジアラビアの6500億ドル規模に及ぶ政府系ファンドの資金を活用してLIVゴルフリーグを立ち上げただけでなく、PGAツアーからゴルフ界のトップ選手たちを誘致するのにも貢献した。

これに対してモナハンは強硬手段に打って出た。
つまり、LIVの大会に参加したメンバーに罰金や出場停止処分を科し、LIVの大会に参加した非PGAツアーメンバーについてはPGAツアーに出場させないようにしたのだった。
加えて彼は、何百万もの契約金を見送ってでもPGAツアーにとどまってもらうために、このツアーが築いてきた数々の功績や、ツアーの歴史について語った。

対してLIVゴルフは、独占禁止法違反を主張してPGAツアーを訴え、ツアー側は反訴した。
その過程でモナハンは、サウジの金は汚いものだとPIFを批判した。
また、2001年9月11日の同時多発テロとサウジの関与の疑惑を持ち出した。
彼は、悪名高いサウジアラビアの人権問題についても指摘したのだった。

ところが6月6日、彼は敵であるはずのアル・ルマイヤンと仲直りした。両者の間で争われていた訴訟に終止符を打つ「合意の枠組み」が決まり、PGAツアー、PIF、DPワールドツアーが提携。
サウジアラビアの富が大西洋を渡って米国側とゴルフ界全般に流れ込むことになりそうだ、という衝撃的なニュースが飛び込んできたのだ。

この新しい取り決めの一環として、LIVゴルフは縮小されるか、少なくとも、まだ名称の決まっていない新しい営利目的のLLC(合同会社)に統合される可能性が高い。
このLLCについてはアル・ルマイヤンが会長、モナハンがCEOとなるという。
一方、PGAツアーとその非営利部門は、1968年に独自の事業体となって以来、これまで通り運営されることになる。
ところが、アル・ルマイヤンはPGAツアーの政策委員会の一員にも名を連ねるとのことだ。

急転直下の「PGAツアー&PIFの統合」だが、詳しい内容については未定

©Getty Images

統合の発表後、「カナディアンオープン」の練習日に選手を集め、ミーティングを行なったモナハン氏(左)。同氏に対し「偽善者」との声もかかったという。

PGAツアー対LIVの戦いで犠牲になった選手たち

タイガー・ウッズやローリー・マキロイのようなトッププレーヤーでさえ、誰もこの事態を予想していなかった。
コミッショナーのグレッグ・ノーマンや全選手たちを含め、LIVゴルフの上層部もまた同様だ。
マキロイは昨年の大半をPGAツアーの「顔」として過ごし、スポークスマンとしての役割を果たしてきたが、彼はサウジアラビアが同ツアーに関与することに関するニュースに対し、「生贄の子羊」のように感じていると述べた。
そして彼はPGAツアーについて熱く語り、去っていった選手たちを批判し、かつてヨーロッパの「ライダーカップ」でチームメイトであったセルヒオ・ガルシアのような選手との友情に亀裂を生じさせたのである(現在、関係は修復)。

今や彼は、説明のつかないことを説明し、それもできる限りうまく説明しようとしていた。
彼は数年先まで見据えた大局的な視点を持っていたのだ。
彼いわく、今現在は良くないかもしれないが、長い目で見ればゴルフ界は良くなるだろう。
サウジ勢に勝てないなら、手を組めばいい、と。

PGAツアー政策委員会の一員であるにもかかわらず、マキロイは何も知らされていなかった。
彼がPGAツアーのジミー・ダンからこの取引を知ったのは火曜日の早朝、世界中が困惑に包まれるほんの数時間前のことだった。

「彼からこのニュースを聞いたよ。取引や取引の構造について教えてもらったんだ。それが私たちにとって何を意味するのかを。それがDPワールドツアーにとって何を意味するかをね」

マキロイはダンとの会話についてこう語っている。

「だから、みんなが知ったのとほぼ同時に知ったんだ。それはもう、驚いたよ。水面下で話し合いが行なわれていたことは知っていた。コミュニケーションのルートが開かれていたことも知っていたよ。でもこれほど早く実現するとはまったく思っていなかったんだ」

PGAツアーとサウジを結んだ重要人物

ダンは長い間、ゴルフ界の重鎮の一人だった。
彼は、ゴルフ界では多くのベストプレーヤーと親交がある。マキロイの父、ジェリーはフロリダの有名なセミノールGCでダンとゴルフをしている。
このクラブは、オーガスタナショナルやパインバレーなどとともに、ダンがメンバーシップを保有するクラブのひとつである。
プライベートジェットで行くことができるのも魅力だ。

 彼はまた、かつてニューヨークの世界貿易センタービルにオフィスを構えていた投資銀行兼金融サービス会社、パイパー・サンドラーの副会長兼上級経営責任者でもある。
ダンの同僚の何人かは2001年9月11日の同時多発テロで亡くなったが、彼はその日、「全米ミッドアマチュア」予選に参加していたため、その場にいなかった。
ダンは1年以上前にLIVゴルフが結成されて以来、ライバルリーグに明らかに不快感を示していた。
その一例として、今年の初め、ダンはセミノールのプロメンバーの年次イベントにLIVの選手を誰も招待しないよう手配したのである。

ところが、PGAツアーとDPワールドツアー、そしてサウジアラビアの政府系ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)とのパートナーシップの舞台裏で、ダンが重要な役割を担ったのだ。

過去1年間、モナハンは当然のことながら、ライバルのLIVツアーが台頭してこないように、そして所属の選手たちが奪われることのないように戦ってきた。
しかし、フィル・ミケルソン、ダスティン・ジョンソン、ブライソン・デシャンボー、ブルックス・ケプカ、キャメロン・スミスのような選手たちは、数百万ドルもの巨額のボーナスにサインし、この新リーグに参加してしまったのだった。

今後の欧米ゴルフ界とLIVゴルフの行方
そして選手の反応

PGAツアーは、アル・ルマイヤンが会長、モナハンがCEOを務める営利目的の別会社を設立することになる。
その会社の役員会は理論的にはPGAツアーによって管理され、これが別個の一連のイベント(現在知られているLIVゴルフのような形態を含むかどうかは定かではないが)を運営する機関となる。
PGAツアーとLIVは、この点に関して異なる見解を示しているが、今のところ2024年以降に何が起こるのか、正確なことは誰にもわからない。
現時点で分かっているのは、アル・ルマイヤンがPGAツアーの政策委員会に名を連ね、PIFがPGAツアーとDPワールドに(数十億とは言わないまでも)数百万ドルは注ぎ込むだろう、ということである。
従来からのPGAツアーは、モナハンがコミッショナーを務める非営利メンバーシップ・グループ(501《c》6団体に該当)として存続し、これまでと同じスケジュールで開催されるものと思われる。

モナハンは、それまでの7週間の動きを時系列に沿って説明するとともに、ダンがアル・ルマイヤンと最初の話し合いを持ったことを明かした。
マキロイがこの計画に賛同し、それが長期的に見ればゴルフ界のためになるだろうと言ったのは別として(彼は選手としての立場で役員会に名を連ねている)、選手ミーティングに出席したほとんどの人は、少なくとも困惑していた。
怒りをあらわにする者もいた。ツアーの正会員権を持たず、今年は主にコーンフェリーツアーでプレーしているグレイソン・マレーは、モナハンのリーダーシップを批判した。
また、2017年からコミッショナーを務めるモナハンへの信頼を失ったと示唆する者もいた。

PGAツアー所属選手のディラン・フリッテリが言う。

「まあ驚くようなことではないよ。でも、予想していたよりずいぶん早かった。この発表の影響は、ゴルフ界の今後にわたって何年も続くだろう。PGAツアー選手の大多数が、〝自分たちの組織〟なのにもかかわらず、依然としてその運営になんの影響力も持たないということがはっきりしたんだ。残念なことにね。なぜ今回のような決断が下されたのか、何もかもわかる人なんていないだろう。特に現時点ではね。ただ、ゴルフ界に利益をもたらすことだけを目的とした前向きな決断だと捉える向きがあるとすれば、それは考えが甘いだろう」

サヒス・シーガラはこう話している。

「狂気の沙汰だよ。だって、何か訳があるにしても、まったくコミュニケーションが取れていないことの理由にはならないからね。世界のトップ10に入る選手たちがこの話をツイッターで初めて知るなんて、いったいどういうことなんだ?とはいえ、もっと詳しい話を聞くまでは黙っていることにするよ。選手たちがこれで納得するわけがない」

対するモナハン(「全米オープン」の週は、彼は密かに病気療養中だった)は、「非難は承知の上だし、選手たちが自分のことを『偽善者』呼ばわりするのは理解できるが、状況が変わったのだ」と語っている。

新しい指定大会の出現とその高額な賞金、そしてLIVとの法廷闘争によって、ツアーは財政的に脆弱な状況に追い込まれた、とモナハンは言う。

「私たちは2023年に事業に多大な投資をしており、24年もそうするつもりだ」

「(しかし)そうした投資には引当金を使うほかなかった。当団体の引当金、訴訟費用、それにDPワールドツアーへの資金援助やコミットメントとその訴訟費用などを考えると、かなりの額になる」

「しかし、今回の決断により、我々はメンバーのため、トーナメントを通じて展開できる資本を手に入れることができる。その結果、成長事業に資本を投下することができ、最終的には選手たちに再投資する報酬を生み出すことができるのだ」

しかしながら、数週間にわたってこの話が進展していくにつれて、答えよりも多くの疑問が残されたままである。

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2020年にプロ転向し、コーンフェリーツアーを経てPGAツアーメンバーとなった、サヒス・シーガラ。今季は予選落ちのない安定した成績を残している。

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今年の5月、コーンフェリーツアー「アドベントヘルス選手権」で優勝したグレイソン・マレー。

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南アフリカ出身のディラン・フリッテリ。2012年にプロ転向以来、欧州下部ツアーや欧州ツアー、コーンフェリーツアー、PGAツアーと主戦場を変えてきた苦労人。

Text/Bob Harig
ボブ・ハリグ(アメリカ)

ESPN.comシニアゴルフライター。25年以上に渡り、ゴルフトーナメントの取材を続けている。全米ゴルフ記者協会会員。

Photo/Getty Images

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