金か?名誉か? 40代後半の男の決断
「ライダーカップ」の象徴がサウジに買収される!?
2021年「ライダーカップ」にキャプテン推薦で出場した、リー・ウエストウッド(左から2番目)とイアン・ポールター(右)。
過去「ライダーカップ」に7回出場し、15勝8敗2引き分けの結果を残している欧州チームの顔、イアン・ポールター。
「ライダーカップ」に11回出場している大ベテランのリー・ウエストウッド。欧州チーム・キャプテン候補の筆頭格だ。
サウジの新リーグが「ライダーカップ」に及ぼす影響
「象徴」というものは、無視することはできない。
「ミスター・ライダーカップ」と呼ばれているその男は、しっかりとサウジアラビアの視野に入っており、欧州ゴルフのリーダーたちに、新発足の「スーパーゴルフリーグ(以下SGL)」による脅威がいかに深刻であるかを確信させた。
イアン・ポールターは18年間で、「ライダーカップ」に7回出場し、欧州チームの勝利の象徴、守護神的存在となっていた。
どんぐり眼と、米国勢に対して、挑戦的で拳を突き上げる熱い表情―欧州チームが絶望的な時に、自分のベストを尽くし、結果を出すのが彼の持ち味。
一方、そして彼の生意気なこのスタイルに腹を立てた米国勢は、欧州チームの他の選手に圧倒的な精神的ダメージを与えてやるため、ポールターの鼻っ柱をへし折ってやろうと考えたものだ。
ライダーカップへの今後の出場も危うくなる可能性が高いが、その場合、SGLがもし十分な資金で彼を買収できたら「ライダーカップ」の未来は、どうなるのだろうか?
金か名誉か
二者択一のポールター
ポールターの将来がSGLに捧げられることになる場合、およそ2200万ポンド(約34億円)のオファーがあると推測されているが、それと引き換えに、「ライダーカップ」の欧州キャプテンになりたい、という希望を即座に断念しなければならない。
新設のSLGと、選手たちがどのような契約を結んでも、PGAツアー(米国)とDPワールドツアー(欧州)の試合から即座に永久追放される結果を招くことを両ツアーが極めて明確にしているのだ。
これにより、ポールターは理性と感情との間でジレンマに陥っている。
カネか正義か、富裕か名誉か、贅沢を取るか、レガシーを取るか……。
サウジのリーグ入りで断念せざるを得ないこと
カネという観点から言えば、通常であれば悩むことなくサウジのオファーを受ける、という決断となるだろう。
ポールターは46歳だが、SGLに行けば、選手としてもう1回やれるかもしれない。
だが、彼には「ライダーカップ 」のキャプテンに就任する可能性がある。
あの小さな金の「ライダーカップ」の優勝トロフィーが米国に渡っている間は、彼にはまだやり残した仕事があるのだ。
来年、イタリア開催の「ライダーカップ」で優勝トロフィーを欧州の手に取り戻すために、ポールターがその役割を果たしたいと心から思うのは間違いない。
選手、副キャプテン、またはキャプテンという資格で、彼はトロフィー奪還に関わりたいと思うだろう。
もう一人の欧州チームキャプテン候補のリー・ウエストウッドも、ポールター同様、SGLとの交渉に機密保持契約を結んでいると言われているが、彼はSGLについて、以前から自分の意思をはっきり語っている。
契約金額が適正であれば、彼は悩むことなく契約すると示唆している。
「48歳で、5000万ドル(約57億円)を出すからゴルフをしてほしいとオファーがあったら、悩むことなくOKするよ」
もしそのことが、PGAツアーやDPワールドツアー(欧州ツアー)、または「ライダーカップ」で二度とプレーできないことを意味しているとしても、そのような決断を下すのか?
「それは、考えなくちゃいけないね。両天秤に掛けないと……」
現在、「ライダーカップ」の1番ティーよりも騒がしい状態を作っているのは、サウジである。
「誰が気にするもんか。ウエストウッド、ポールター、ガルシアら欧州のベテランたちは過去の人たちだ。これからの欧州チームには、ビクトル・ホブランやラスムス・ホイガード、ロバート・マッキンタイアのような、前途有望な才能ある選手たちがいるんだから……」
そう言うゴルフファンたちもいるが、ある意味正しい。昨年の「ライダーカップ」で、米国から容赦ない打撃を受けたこと(米国19対欧州9の大敗)は、伝統的な強さを誇る欧州の輝かしい時代の終焉を告げた。
そして次のキャプテン候補濃厚な選手たちは、サウジと水面下で交渉中だが、次期キャプテンがもしある程度決まっているなら、サウジとの交渉次第で「ライダーカップ」キャプテンの座を降りなければならないかもしれない。
「ライダーカップ」の魅力を失う原因にもなる!?
SGLは「チーム戦」で行なわれるが、ウエストウッドは一般的な話として次のように語っている。
「ゴルフは時代とともに進化し、影響力の強いものにならなければならないと思う」
「チーム戦という要素が好まれているのであれば、もっといろいろな場所で、行なわれてもいいはずだ」
「ライダーカップ」は、「チーム戦」という要素があるから、より多くのスポンサーからの支援や、通常の試合以上に大人数の観客が集まり、より張りつめた雰囲気が生まれる。
それらが一体化することで特別なものになっているのだ。
このような雰囲気の試合が毎週行なわれることになれば、2年に1回しかそのスリルを味わえないイベント独自のセールスポイントはどこにあるのか。
今年から数百万ドル規模の契約金を受理して「DPワールドツアー」へと名称変更した欧州ツアーだが、以前は「ライダーカップ」を主催することで財政を築いていたのは周知の事実だ。
長年関係を築いてきた欧州ツアーに、足蹴を喰らわす最初の人物が、ミスター・ライダーカップになるかもしれないと、誰が思っただろうか?
もし、今後彼が「ライダーカップ」のキャプテンになったとしても、金銭次第だった、と言われてもおかしくはない。
Text/Euan McLean
ユアン・マクリーン(スコットランド)
スコットランドを拠点に欧州ツアー、海外メジャーを過去20年以上に渡り取材。