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【2023MASTERS】23回連続予選通過!タイガー・ウッズの人生の楽しみとは?

23回連続「予選通過」記録を達成したタイガーの人生の楽しみとは?

©Getty Images

交通事故による足の痛みを今も感じるタイガーにとって、寒さは一番の敵だった。

今年の「マスターズ」は天候不良に見舞われ、寒く、雷雨で中断することもしばしばあった。
そんな悪条件の中、足に痛みを感じながら23回連続の予選通過を果たしたタイガーだったが、最終日のプレーを断念。
「優勝争いができなければ試合には出ない」と言っていた 王者の現在の心境を探る。

Photo/Augusta National Golf Club、Eiko Oizumi

©Augusta National Golf Club

多くのパトロンを引き連れて、ザンダー・シャフフェレ、ビクトル・ホブランと予選ラウンドをプレーした。

©Augusta National Golf Club

練習日の公式記者会見に出席。「私の人生の大半は、オーガスタにある」とコメント。

©Getty Images

←LIVゴルフを誰よりも痛烈に批判し、PGAツアーの取り組みに熱心なローリー・マキロイ(右)とクラブハウス前で。

歩く能力を失ったタイガーの近況

ペブルビーチの17マイルドライブを思い浮かべればわかるが、世界各地のゴルフ場のエントランスはどこも素晴らしい。
しかしながら、ツアープロにとって、オーガスタのワシントンロードからマグノリア・レーンに入ったときの感動は格別である。
「マスターズ」の舞台となるオーガスタナショナルGCの2階建ての重厚なクラブハウスを目指し、選手たちは木々の樹冠の下をドライブしていくのだ。

 ここは、ゴルファーにしてみたら、「ここまでたどり着いた」という思いでいっぱいになる場所だ。
タイガー・ウッズは、人生の半分以上、このドライブを続けている。
最初の2回はアマチュア時代で、父親のアールに連れられて来たのだった。
1997年、ウッズは「マスターズ」で初優勝した(まだ21歳の若さで、12打差もつけてだ!)。
その後数年間、彼は過去のグリーンジャケットではなく、未来のグリーンジャケットのことを考えながらドライブをするようになった。

1997年4月、「マスターズ」で初優勝したとき、彼の父親は18番グリーンの奥に立って彼を強く抱きしめていた。
そして2019年、ウッズが5度目の「マスターズ」優勝を自分のものにしたとき、人生は一巡した。
今度はウッズが、自分の子供たち、娘のサムと息子のチャーリーを抱きしめていたのだ。

最近のタイガー・ウッズにとって、マグノリアレーンをドライブして想起するのは過去の晴れやかな日々のことであって、のちに経験することとなる曇った日々のことではないだろう。
何度もヒザや腰を手術して、偉大なジャック・ニクラスだけが6勝しているこの場所で復活を遂げたが、今のウッズはまったく違う困難を抱えている。
ロサンゼルスで開催された2021年「ジェネシス招待」の翌朝、SUV車で転倒事故を起こしたウッズは、高すぎる代償を払うことになる。
彼は右足を失いかけたが、医師によって救われた。
彼が失ったのは、ゴルフ場を「歩く能力」であった。
かつて試合前のプロアマ戦とトーナメント4日間を合わせると、週に35~40マイルを歩いていたような、そんな無理が利かなくなった。
歩けることの大切さ……PGAツアー82勝(サム・スニードの歴代記録に並ぶ)、メジャー15勝(ジャック・ニクラスに3勝及ばず)を達成する道のりの中で、彼はそんなことが重要になるとは、考えもしなかっただろう。

彼は12月で48歳になるが、最近はゴルフカートに乗ってゴルフをするなどと冗談を言っている。
もし、彼が50歳になった2026年シーズンからPGAツアー・チャンピオンズ(米国シニアツアー)に参加することがあれば、それは可能になり、プレーすることができる。
ウッズがシニアでプレーすることなど、ありえないことのように思われるかもしれない。
しかし、それは彼が何よりも好きなことをするための、つまり優勝争いをして、勝利を勝ち取るための唯一のチャンスかもしれないのだ。

ゴルフをする喜びが変わってきた

彼はオーガスタナショナルでベストを尽くし、雨や寒さに耐え、中断と再開を繰り返しながらラウンドした。
こうしたことは、今やストレッチやラウンド前後の治療に何時間もかけている男には厳しいことだった。
それに痛みを抑えるためのアイシングで、大量の氷が必要になるのだ。

長年にわたって彼に喜びをもたらしてきたゴルフで、彼は今もなお喜びを味わっている。
しかし今、彼はその喜びと、競技に挑むことで耐えなければならない激しい痛みとのバランスを取らなければならない。
そう、ゴルフは今でも彼に喜びを与えてくれるが、以前とは違うものなのだ。

「喜びの内容が、今までとは違う」と、ウッズは今年の「マスターズ」で語っている。
彼は、74、73のスコアで連続23回目の予選通過に成功した。
しかし雨のせいで遅れた第3ラウンドの途中(日曜日の朝)、棄権を決意した。 

「息子と過ごす時間が増え、自分たちの思い出をコースで作ることができるようになった。父と一緒に経験したこと、(カリフォルニアの)海軍のゴルフ場で深夜に行なったパッティングや練習などを、息子と共有することができたんだ。このスポーツがもたらす絆や瞬間は、とても素晴らしい。だから今までとはまた違った喜びがあるんだ」

ウッズが「マスターズ」に参戦し始めた頃(1995年と1996年に「全米アマ」チャンピオンとしてプレー)、彼は「全米アマ」で3連覇し、招待を受けた。
ウッズは、非常にトリッキーなこのコースを回る最善の方法を教えてくれる賢いベテラン選手と必ず練習ラウンドをするようにしていた。
だから彼は、アーノルド・パーマーやジャック・ニクラスと練習ラウンドをプレーしたのだ。
グレッグ・ノーマンやフレッド・カプルス、レイモンド・フロイドともプレーした。
フロイドは、芝目の強いグリーン周りを4番アイアンでアプローチする方法を彼に教えてくれた。

「1打1打を大事に戦う姿勢、それが予選通過、優勝につながる」タイガー・ウッズ

©Eiko Oizumi

ローリー・マキロイ、トム・キム(キム・ジュヒョン)ら豪華メンバーで練習ラウンドに出るタイガー(右)。写真には写っていないが、フレッド・カプルスも一緒に回っていた。

©Eiko Oizumi

18番ホールのシッティングエリアでタイガーたちの練習ラウンドを見ていた「ドライブ・チップ&パット選手権」の女子7~9歳の部で優勝したアシュリー・キムちゃん。フレッド・カプルスが彼女を呼び寄せると、タイガーやマキロイも寄ってきて言葉をかけた。このサプライズには彼女も大喜び!

歩くことが最大の困難
棄権してもなお、歴史に名を刻むタイガー

ゴルフ場を歩くことが彼にとって苦痛な運動になるのに、なぜウッズはプレーし続けるのか?

「僕は頑固だからね」とウッズは笑いながら言う。

それでこそチャンピオンであり、競技者である。
彼の中にその性質が息づいているのだ。ウッズは雨の中、第3ラウンドをスタートして数ホールをプレーしたが、苦戦を強いられた。
土曜日の午後遅くにはプレーが中止され、ウッズは冷たい雨に濡れながら、ニット帽をかぶり、パーを取り続けるために戦っていた。
日曜日の早朝、第3ラウンドが再開されたとき、ウッズは水浸しで泥だらけの丘陵のゴルフコースで30ホール近くをプレーしなければならない状況にいた。
だが、結局はプレーしないという賢明な決断を下し、棄権した。
しかし、今年の「マスターズ」の記録に名前を残さなかったわけではない。
ウッズはプロとして「マスターズ」に過去23回出場して、ゲーリー・プレーヤー、フレッド・カプルスの記録に並ぶ23回連続予選通過を果たした。
この偉業を成し遂げるためには、ファイターでなければならないことを彼は知っている。

「肉体的には、確かに逆境に立たされ、何度も手術を受け、それを乗り越えて戻ってこなければならなかった。それは大変だったよ。でも、勝ちたいという気持ちが常にあって、そのために努力し、自分に何ができるかを信じてきたんだ」

「何回も連続して予選通過に成功できたこと、ゴルフ人生の中で何度も優勝できたこと。そんなふうに僕がやってこられた理由のひとつは……それはただ状況に耐えて、ひとつひとつのショットを大事に戦ってきたということだ。そうした姿勢が大事なんだ。ひとつひとつのショットに意味がある、ということなんだよ」

人はある日突然、以前のようなショットを打つことも、コースを歩くこともできなくなる。
だから私たちは、自分が打ったショットをできる限り楽しむべきなのだろう。
一打一打に意味があるのだから。

タイガー・ウッズ 「マスターズ」での戦歴

1995年41位タイ(ローアマ)
1996年予選落ち(アマチュア)
1997年優勝(プロ入り1年目)
1998年8位タイ
1999年18位タイ
2000年5位
2001年優勝
2002年優勝
2003年15位タイ
2004年22位タイ
2005年優勝
2006年3位タイ
2007年2位タイ
2008年2位
2009年6位タイ
2010年4位タイ
2011年4位タイ
2012年40位タイ
2013年4位タイ
2014年
2015年17位タイ
2016年
2017年
2018年32位タイ
2019年優勝
2020年38位タイ
2021年
2022年47位
2023年棄権

Text/Jeff Babineau

ジェフ・バビニュー
(アメリカ)

ゴルフ取材を30年以上行ない、現在フリーライターとして「全米プロ」「マスターズ」などのオフィシャルライターを務めるなど活躍。マスターズ取材は25回以上。

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