【Legends of Golf Vol.25】ペイン・スチュワート メジャー3勝、米ツアー11勝の悲運の実力者

ゴルフ界隆盛の礎を築いたレジェンドたちの栄光を振り返る「Legends of Golf」。

メジャー3勝、米ツアー11勝の実力者。
大学の後輩、ブライソン・デシャンボーも憧れたスチュワートの短くも輝かしい生涯を振り返る。

Payne Stewart

メジャーで3勝し、ハンチングとニッカボッカのクラシックな装いがトレードマークだったペイン・スチュワート。
彼が1999年にプライベートジェットの墜落事故で死亡したニュースは日本のゴルフファンをも驚愕させた。
彼が最後に優勝した「全米オープン」の会場、パインハーストNo.2で今年も「全米オープン」が開催される。

アジアンツアーを経験した
PGAツアー11勝、メジャー3勝の伊達男

アマチュア時代から活躍した、ニッカボッカ姿の実力派

ペイン・スチュワートは1998年、オリンピッククラブ（サンフランシスコ）で開催された「全米オープン」で惜しくも優勝を逃し、2位に終わったが、翌年、東海岸に位置するノースカロライナ州パインハーストにあるパインハーストNo. 2でリベンジを果たし、2度目の「全米オープン」チャンピオンとなった。
その劇的で感動的な勝利から数か月後、スチュワートはリアジェット機の墜落でこの世を去ったのだ。
今から25年前のことである。

スチュワートは謎めいた存在だった。
時代遅れのようなスタイリッシュなスイングと、それに見合ったゴルフウェアでプレーする選手で、非常に才能に恵まれていた。
スチュワートはキャリアの大半において、安定した成績を残したが、勝利数は彼の能力を十分には反映していなかった。
しかしメジャー、特に全米オープンでは調子を合わせる方法を見つけていたようだ。

1957年1月30日、ミズーリ州スプリングフィールドで生まれたウィリアム・ペイン・スチュワートは、父のビルによってゴルフというスポーツに出会った。
ビルは元ミズーリ州アマチュアチャンピオンで、1955年のオリンピッククラブでの「全米オープン」に出場した経験を持つ。
母親のビーもまた熱心なゴルファーだった。
ペインは非常に幼い頃からゴルフに取り組み、3歳の時にスプリングフィールドのヒッコリーヒルズカントリークラブに足を踏み入れた。
彼は抜きん出た才能を持つジュニアゴルファーで、高校のゴルフチームを州のチャンピオンに導いた後、サザンメソジスト大学でオールアメリカンのメンバーとして活躍した。

社交性とファッションセンスで唯一無二の存在に

1979年にプロ転向し、2年間アジアンツアーに参戦。
そこで2勝した後、1981年の秋にPGAツアーのシード権を獲得した。
彼の公式の初優勝は、26回目のツアー出場で勝ち取った「ミラーハイライフ・クアッドシティーズ・クラシック」だったが、その年の初めには「マスターズ」と同週に行なわれていた非公式試合「マグノリア・クラシック」でも優勝していた。
それからまもなく、社交的な性格とファッションセンスを持つ彼は、他のツアープレーヤーと全身同じウェアを着用していることに嫌気がさし、ニッカーズやプラスフォーパンツ（ニッカーズよりも４インチ長く作られたパンツ）、そしてホーガンスタイルの帽子（ハンチング）を着用するように服装を変えたのだ。
そのおかげで彼は、フェアウェイ上で容易に認識されるようになった。

彼は465回のツアー出場で368回、予選通過を果たし、トップ10入り130回、トップ5入り80回を記録したが、もっと勝てるはずだ、と考えていた彼にとっては、この記録がフラストレーションの根源でもあった。
また、他の人たちも彼はもっと勝てるはずだと考えていた。
しかし、1989年にイリノイ州ロンググローブのケンパーレイクスゴルフクラブで開催された「全米プロ」で、メジャー3勝のうちの最初の勝利を収め、彼が才能ある大物であることを証明し始めた。

その2年後、ミネソタ州チャスカのヘイゼルティンナショナルで開催された「全米オープン」では、スコット・シンプソンのミスに助けられ、18ホールのプレーオフの末、優勝。
メジャー2勝目を飾った。

1998年の「全米オープン」では、３日目を終えて2位と4打差の首位に立っていたが、最終ラウンドで74を叩いて、5打差から追い上げてきたリー・ジャンゼンに1打差で敗れた。
この無念を晴らすため、1999年「全米オープン」に臨んだ彼は３日目を終えて、再び単独首位に立っていたが、後続にはタイガー・ウッズ、フィル・ミケルソン、デビッド・デュバル、ビジェイ・シンが迫っていた。
最終日は、曇り空で肌寒く、霧が立ち込める午後に行なわれ、72ホール目で決着。スチュワートは５メートル弱のパーパットを沈めて、ミケルソンを破った。
彼は上りのパットを決めると、ホールの方向に向かって拳を突き上げ、そしてキャディのマイク・ヒックスと抱き合った。
この勝利は、彼にとってPGAツアー11勝目であり、最後の勝利となったのだった。

悲運の事故死から2年後に世界ゴルフ殿堂入り

アメリカ人で最強プロが不慮の飛行機事故で急逝

スチュワートは9月に自身5度目の「ライダーカップ」米国チームに選出され、米国チームはマサチューセッツ州ブルックラインのザ・カントリークラブでの試合で、10対6の劣勢から1ポイント差で欧州チームを撃破した。
米国チームはすでに必要な14.5ポイントを獲得していたため、対戦相手のコリン・モンゴメリーに最後のホールを譲ったが、これが彼の公の場での最後のプレーとなった。
彼の個人戦績は8勝9敗2引き分けだったが、彼が出場した5大会で米国チームは3勝1分1敗だった。

10月25日、スチュワートはフロリダ州オーランドからダラス行きのプライベートジェットに乗り、そこからヒューストンに向かう予定だった。
最終戦の「ツアー選手権」に出場するためだ。
しかし、航空機が急減圧に見舞われ、スチュワートを含む乗客４人とパイロット2人全員が低酸素症によって意識を失った。
航空機は、自動操縦で飛行を続け、高度約4万9000フィートに達した後、燃料切れでサウスダコタ州ミナ付近の畑に墜落した。
スチュワートは42歳だった。

亡くなった時点で、彼はPGAツアーの歴代賞金ランキングで3位に入っており、公式世界ゴルフランキングではアメリカ人としては最高位だった。

2000年にPGAツアーは「ペイン・スチュワート賞」を設立。
毎年「ゴルフの伝統に敬意を表し、慈善活動によるゴルフの伝統を守るための努力、自身の服装や振る舞いを通じて、自身とゴルフというスポーツをプロフェッショナルに、かつ細心の注意を払っている選手」に贈られている。
ジャック・ニクラス、アーノルド・パーマー、バイロン・ネルソンは、この最初の受賞者となった。

スチュワートは2001年に世界ゴルフ殿堂入りを果たした。
今年、パインハーストで第124回「全米オープン」が開催されるが、彼の人生と1999年の「全米オープン」優勝を記念する行事が行なわれることだろう。

Photo/Getty Images

Text/Dave Shedloski

デーブ・シェドロスキー
（アメリカ）

長年にわたり、ゴルフトーナメントを取材。著書にアーノルド・パーマーの伝記『A Life Well Played』やジャック・ニクラスの『ゴールデン・トワイライト』などがある。