世界にはゴルフ文化のない国、あるいは最近ゴルフ場ができたばかりという国がいくつもある。
ここでは、「ゴルフ発展途上国」の歴史と文化、“ゴルフの夜明け”との関係性などを紐解いていく。
第11回はセルビア共和国を紹介する。
バルカン半島の中央に位置する、かつてユーゴスラビアの中心だった国
セルビア共和国
今年の5月にセルビアを訪れた筆者スザンヌ・ケンパー。
紀元前から現在に至るまで様々な民族の文化や風習など複雑に影響を受けるセルビア
セルビアを代表する料理「チェバピ(チェバプチチ)」。塩胡椒やにんにく、パブリカバウダーなどで味付けされたケバブ風の料理。牛や豚、羊などのミンチを使う。
セルビア・ベオグラードの代表的な観光地の一つである、聖サバ大聖堂。セルビア正教会で最大の教会で、屋内装飾は黄金色に輝いている。
首都ベオグラードの街並みとサバ川の夕景。
正教会においては立像が用いられることは極めて稀。キリストなど、教会史上の出来事を描いた画像(イコン)が飾られている。
ベオグラードの市街地、サバ川とドナウ川の合流点にある古い要塞「ベオグラード要塞」。紀元前から存在し、「カレメグダン城址公園」とも呼ばれる。
蛇行するウバック川の美しい渓谷をクルーズ船で観光するのがオススメ。セルビアの自然を満喫できる。
3~4世紀に建設された、ローマ皇帝ガレリウスの生地の遺跡「フェリックス・ロムリアーナ」。この世界遺産は、東セルビアの街・ザエチャルの郊外にある。
1999年3月、セルビア人とアルバニア人の戦闘「コソボ紛争」において、NATO軍が停戦させようと介入し、当時のユーゴスラビア(セルビアはユーゴスラビアの中心だった)を空爆。今も破壊された建物がそのまま残っている。
征服と独立を繰り返す歴史を持つバルカン半島の中心地
ヨーロッパ南東の中心部で、バルカン半島の中西部の内陸に位置する人口700万人のセルビア。
北はハンガリー、北東はルーマニア、南東はブルガリア、南は北マケドニア、西はクロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、南西はモンテネグロ、アルバニアと国境を接する重要な地点にある。
セルビアの首都ベオグラードは、200万人以上が暮らす大都市で、ユーゴスラビア誕生以来、2006年に前身のセルビア・モンテネグロが解体されるまで、一貫して連邦の首都だった。
かつて公国であったセルビアは1882年に王国となり、1990年以降は、ユーゴスラビアやセルビア・モンテネグロの構成国として存在。
現在は「セルビア共和国」として独立している。
過去、周辺国家や民族との分離や独立を繰り返し、国名が刻々と変わる歴史を持つセルビア。
今でもセルビアは、その自治州でありながら、セルビアの主権が及んでいないコソボと厳しい対立状況にあり、コソボの独立と、関係改善がEU加盟の条件であるため、交渉は継続中である。
平均を上回る経済力を備え、軍事的中立を保ち、国連にも加盟。
なお、NATOによるセルビア爆撃の歴史があるため、NATOに加盟する意思はない。
山岳とスパ、ドナウ川クルーズが観光の目玉
観光国としてのセルビアの知名度は、あまり高くないが、目玉といえば、山岳とスパ、ドナウ川クルーズだ。
ズラティボール、コパオニクなどは人気の山岳エリアで、スパの一番人気の場所はブラニスカバニャだ。
その他国内に点在するセルビア正教会修道院への聖地参拝も人気。音楽フェスティバルも魅力的である。
文化面では、東西ローマ帝国の対立の歴史から、オスマン帝国とハプスブルク帝国による近代における対立まで、セルビア北部は中央ヨーロッパと密接な関係があり、一方南部は地中海の影響が明確に見られる。
ベニス共和国のロマネスク建築、貿易、文学と結びついたビザンチンの影響を受けたモニュメントや民間伝承、風習、ダンス(コロ)などがその例だ。
また、観光地としてぜひ訪れたいのは、ストゥデニツァ修道院とベオグラード国立博物館。ストゥデニツァ修道院は、セルビア正教会の中でも最大の修道院で、1190年に設立。
セルビアの信仰と宗教美術の中心的存在で、目を見張るような貴重な美術品を所蔵している。
13~14世紀にかけてのビザンチン美術の頂点の一つであるフレスコ画が有名で(「ホワイト・エンジェル」と「キリストの磔刑」は圧巻)、ユネスコの世界遺産リストに登録されている。
ジョコビッチの母国セルビアはスポーツ国家
セルビア人社会において、スポーツは重要で、その上位はサッカー、バスケットボール、テニス、バレーボール、水球、ハンドボールだ。
最も有名なスポーツ選手はテニスのノバク・ジョコビッチだろう。
ATPワールドランクの1位として世界的に名を馳せ、キャリアグランドスラムを達成。
女子のアナ・イワノビッチもいるが、彼女は元アダム・スコットのガールフレンドだった。
ゴルフに関しては、2006年にセルビアゴルフ連盟が創設され、2010年に国際ゴルフ連盟に加盟。
現在、ベオグラード周辺で新たに3件以上のゴルフ・プロジェクトが進んでおり、セルビア初の18ホールのゴルフ場建設が今年の秋に起工予定だ。
ゴルフはセルビア人にとってまだ新しいものであり、知名度の低さから、多くの人々はテニスにとどまっている。
ゴルフは金持ちのスポーツとしての認知しか、まだ得られていないのだ。
サバ川の中洲に位置する9ホールのコース
ゴルフクラブ・アダ
Golf Club Ada
セルビアで最も愛されているドライバー要らずの9ホール
ベオグラードのサバ川にはケーブル支えのアダ橋(あるいはサバ橋)がかかっており、その橋のたもとにゴルフ場がある。写真は7番グリーン。
練習場、パッティンググリーンも完備。ゴルフアカデミーではレッスンも受けられる。
ベオグラード出身のゾラン・アントニエビッチ氏は、出稼ぎ先の南アフリカでゴルフを学び、世界ゴルフフェデレーションのコーチングライセンスを取得。現在はティーチングプロとして活躍している。
天候次第では難コースに油断大敵な河川敷コース
2002年にオープンしたゴルフクラブ・アダは、アダ・ツィガンリャの中洲にある河川敷コース。
ベオグラードの中心からわずか4キロしか離れておらず、非常に便利なロケーションにある。イエローティーなら2430メートル、パー34。
コースは天候に左右される。雨が降り、風が吹いていると難度は一気に増すという。
ゾラン・アントニエビッチが手掛けた素晴らしいコースは、4~11月までプレーが可能で、メンバー数は年間200人程度。
ビジターもプレーが可能だ。
女性メンバーが増加しており、ジュニア育成プログラムも行なわれている。
平坦で、距離が短いため、ドライバーは必要ないが、アイアンの精度が求められるコースだ。
ベオグラードから1時間半の、フレンドリーなコース
ゴルフクラブ・センター
Golf Club Center
セルビア第2の都市ノビ・サドの悲しい歴史を伝える慰霊碑があるコース
第二次世界大戦中に犠牲になった人たちのために建てられた、高さ9メートルのモニュメント「ブラック・キュプリア」が、コース内にある。
広々とした爽快感あふれるフェアウェイ。
クラブハウス内のレストランでは、魚料理や肉料理、パスタ、おつまみなど各種料理を楽しめる。
練習場は芝生の上から打てるので、アイアンやフェアウェイウッドなどの練習に最適。
(右)青々とした芝生の広大な練習場。
ゴルフクラブ・センターのメンバーで、セルビアのゴルフチームの代表、タマラ・パルコブリエビッチは2015年のクラブチャンピオンに輝いた。
クラブハウス、レストランも完備のフレンドリーなゴルフ場
2001年、ベオグラードから車で約1時間半の所に位置する、セルビア第2の都市、ノビ・サド近郊にゴルフクラブ・センターがオープンした。
やや起伏のある9ホールのコースで、クラブハウス内にはレストランを完備。
テラス席もあるので、天気の良い日は屋外で食事を楽しめ、フレンドリーなスタッフがゲストを温かく迎えてくれる。
ノビ・サドといえば、1942年にナチス・ハンガリー軍が多くの市民を虐殺した「ノビ・サド蜂起」が勃発した場所だが、その犠牲者を追悼する「ブラック・キュプリア(ジョバン・ソルダトビッチ作)」の9メートルのモニュメントがゴルフ場内にそびえている。
ゴルフを楽しみながらも、セルビアの悲しい歴史も思い起こさせるコースなのだ。
現在メンバーは120名おり、300名になるとあと9ホールを増設するという。
ビジターもプレーすることができ、毎週試合も開催されている。
Photo/Centaur GC, Ada- Belgrade Golf Club, Belgrade Tourism, Zlatibor Tourism, Zoko photos file compliments Zorica Milojkovic, SK
Text/Susanne Kemper
スザンヌ・ケンパー(スイス)
オーストリア国籍、スイス在住。20年以上にわたって米国、欧州を中心に世界中を旅しながら、ゴルフ誌やライフスタイル誌に寄稿。5ヶ国語を操る。